2度目の振り直し 魔力鑑定
次の日の朝、ランは少し早めの朝食を取り、服を着替え準備を進めていた。
セレスはランの体調を心配していたが、ラン自身痛いだとか辛いとか感じておらず、本当にただ1日寝ていただけだろうと判断していたので、さして心配していなかった。
ランはセレスに笑顔を向け「大丈夫です!さぁ行きましょう」とセレスの手を取り、自らが先導するかたちで家を出発した。
ちなみに、この時代の人族の移動手段で、大人数でというと馬車が主流であった。ただこの世界の馬は地球の馬よりかなり体力があった。基本、30人ぐらい乗れる荷車を3頭1組で引いていくのだが、
ランたちが住むマルドゥックから港町アルジャーシュまでの50kmの道のりを休憩1回の約2時間で移動できるのである。
もちろん車や電車を知っているランからすれば、もどかしい部分もあるが贅沢は言ってられない。
ランとセレスは馬車の発着所に向かい、ちょうど出発準備をしていた馬車に乗り込み、港町アルジャーシュへと出発した。
途中休憩を挟み、無事にアルジャーシュにつくと、乗客の半分ほどがぐったり疲労困憊状態であった。
一応、道の整備はされているが、コンクリートで整地されているわけではないので、でこぼこな部分があったり溝があったりで振動がひどい。酔ってしまい、休憩時に吐いている乗客も少なからずいた。
セレスはこの手の乗り物になれているのかピンピンしている。ランはといえば、ステータス振り分けの際、免疫力に多く数値を振り分けた影響か、景色を楽しむ余裕もあった。
発着所の長椅子に疲れ果てて座っている他の乗客を横目に、セレスは発着所の職員にエルフ族の定期交易船がもう着いているかを尋ねた。
発着所の職員は丁寧な言葉遣いで、つい1時間前に無事に着いたこと、荷卸作業の関係で港に行けばエルフ族に会えるということを教えてくれた。
ランとセレスは発着所の職員にお礼を言い、早速港の方へ歩き出した。港までは歩いて20分程であった。
港までの街道で、いい匂いをさせていた出店で買った鶏唐揚げ串を頬張りながら、ランとセレスは楽しそうに港へと向かっていた。
いつもこうなのか、交易船が停泊している時だけなのか分からないが、出店が多く並んでおり、街には活気があった。
もう少し見てみたい気もしたが、今回の目的はエルフ族に会って、魔力の鑑定をしてもらうこと。まずはそれからである。出店巡りはそのあとだ。
そう思い、鶏唐揚げ串を食べ終え、歩くペースを速めようとしたとき、港の方から、明らかに目立つ二人組のエルフ族の男2人がこちらに歩いてきた。
エルフ族は基本金髪で髪はサラサラ、耳が尖っており、さらに美形である。人族の街中にいるととにかく目立つのである。
隣で一緒に歩いていたセレスもそのエルフ族の男たちに気づいたようだ。
セレスは何事にも物怖じしない性格である。
そのエルフ族の男たちに突然大きな声で呼びかけたのである。
「すみませーん!そこのかっこいいエルフ族の2人!ちょっといいですか〜」
呼びかけられたエルフ族の男たちも流石に驚いた表情をしたが、セレスとランを見つけると笑顔でこちらに向かってきた。
「どうしましたか。何か私達に御用でも」
突然呼びかけられたにも関わらず、エルフ族の男たちは丁寧な言葉遣いで対応してくれた。
片一方のエルフ族の男は、地面に膝をつき、ランの頭をなでた。エルフ族は種族問わず、子供を可愛がり、大切にするようだが、それは本当のようだ。
頭を撫でられているランを笑顔で見守っていたセレスは当初の目的を思い出し、立ったままのエルフ族の男に尋ねた。
「今、この子の魔力鑑定をしてくれる方を探してまして…。もしよろしければ、鑑定してくれる方を紹介してもらえないかと…」
セレスはそう要件を伝えた。すると、ランの頭を撫でていた方のエルフ族の男が顔をセレスの方に向けた。
「それなら、私が鑑定して差し上げますよ。少しお時間いただきますが、大丈夫ですか?」
「本当ですか!お願いします!お礼は…」
セレスがお礼を差し出そうとすると、遮られた。
「お礼はいらないですよ。可愛い子供と美しい女性のお願いです。それで何かを貰うことなど出来ません」
そう言うと、ランの頭の上に置いていた手を、ランの顔の前におろす。そして呪文のような言葉を唱えると、緑色の霧のようなものがランの顔を覆った。
「苦しくなることはほとんどありませんが、もし苦しくなったら、早めに言って下さい」
エルフ族の男はランにそう語りかけた。特に苦しくもなく視界が緑色になっただけだ。ランは大丈夫そうとエルフ族の男に伝えると、エルフ族の男は満足そうに頷いた。
しばらくして、緑色の霧が白色に変化していき、やがて光を発して消えていった。
これで魔力の鑑定が終わり…とランは思ったが、目の前のエルフ族の男は怪訝そうな顔をしている。
立っていたエルフ族の男が「どうした?」と声をかける。
「すまない。鑑定に失敗してしまったようだ。もう1度やらせてもらってもいいだろうか?」
ランは少し驚いだが、鑑定も100%成功するものではないのだろうと思い、「お願いします!」と元気よく応えた。
エルフ族の男は笑顔で頷き、もう一度ランの顔を前に手を出す。今回も緑色の霧がランの顔を覆い、それが白くなっていき、光を発して消えた。
ランは鑑定してくれたエルフ族の男の顔を見る。
エルフ族の男は不思議そうな表情を浮かべ、ランの顔を見ながら言った。
「鑑定の結果、君には確かに魔力があると分かったのだが…本来なら分かる魔力量がどれほどあるかが僕の鑑定では分からないんだ。もし君さえよければ、一緒に港まで来てくれないか?僕よりも鑑定経験が豊富で、能力もあるエルフがいるんだが…」
ランはセレスの顔を見上げる。セレスは「行こう!他のエルフ族のにも会いたいし」と乗り気である。
エルフ族の男2人、セレス、ランはそのまま港の方へと向かっていった。




