2度目の振り直し ペナルティ
目が覚めると、自分の部屋のベッドで横になっている状態であった。
あの真っ黒な空間に行く前と全く同じ格好であるし、窓の外を見ても、日は既に落ちていて、本当にあれから1日経っているのかいまいち判断がつかなかった。
とりあえず、今日が何日か、父か母に聞きに行こうと考え、ベッドから身体をおろした時、部屋のドアがちょうど開く。
開いたドアの外にはセレスが驚いた顔でランを凝視していた。
「きゃー!ランがやっと目を覚ました〜!お父さん!ランが目がを覚ましましたよ!」
と叫びながらセレスはランを思いっきり抱きしめた。
ランは何が起こったか分からずされるがままに抱きしめられた。
しばらくして、気が済んだのかセレスが身体を離し、少し涙目になりながら、ランの顔をペタペタと触った。
「心配したのよ!珍しく朝になっても起きないなと思って起こそうとしても全然反応がないし!お医者さんに診てもらっても、ただ寝ているだけみたいだから心配いらないですよって言われちゃうし!でも、夜になっても全然目をないし!」
と、おでこに手を当てられ熱がないかの確認をされたり、変なものが身体にできていないかチェックされながら、ランはことの顛末を聞かされた。
どうやら、本当にあれから1日経ってしまっているようだ。
そして、1日ずっと寝ている状態を、セレスに大いに心配されていたようだ。
程なくして、ウォークも部屋に入ってきた。
ウォークはセレスよりも幾分落ち着いた状態であったが、やはり心配なことは心配であったようだ。
「ラン、どこか痛いとかいつもと違うところはないか?お医者さんはどこも悪いところはないだろうと言っていたが…」
ランも、「自称神様がいる真っ暗な空間に意識を飛ばされてました」とは流石に言えず、「お母様の初めての魔法教室で疲れていただけです。ご心配なさらず」とはぐらかすしかなかった。
ウォークとセレスは怪訝そうな顔をしたものの、熱もあるわけでもなく、どこか痛いところがあるわけでもないので、そのランの言葉を信じるしかなかった。
「まぁ、悪いところがある訳ではなさそうだし、今日はゆっくり休みなさい」
とウォークは部屋を出ていく。
「お腹空いているでしょ!おかゆ作ってあげるから、着替えたら台所に来てね!」
と、まだ少し心配そうだが、ランが目を覚ましたことでとりあえずは安心したのだろう。セレスもおかゆを作りに部屋を出ていった。
ランは部屋にタンスから着替えを取り出しながら、この特殊能力の使いどころは慎重に選ばなければと改めて思った。
1日、眠った状態で、起こそうとしても起きない。身体に異常がみられないことから、医者も手を出せない。丸1日は何があろうと意識が戻らないのだろう。
突発的状況への対処には使えず、事前に使うにしても1日のタイムラグを考慮に入れなければならない。そういう能力であると。
さらに、事情を知らない人間に、いらぬ心配もかけてしまう。今回みたいに、家族に心配をかけるわけにもいかない。
使うタイミングを間違えないようにしなければ…
とランが心に刻んだ時に、部屋の外から「おかゆ出来たわよ〜」とセレスの呼ぶ声が。
ランは急いで着替えを済ませ、台所へ向かった。
ペナルティは受けたのだから、振り直しの効果はあってくれよと自称神様に悪態をつきながら…。