振り直し後 特殊能力
その日の晩ごはんも家族全員で食べ、入浴等済ませて、ランは自分の部屋に戻った。
晩ごはんの際、ウォークが3ヶ月後に行われる飛び級入学試験の申し込みをしてきたと報告があった。ウォーク本人はまだ納得していないところもあるようだが、可愛い息子であるランのお願い、セレスの勢いに押された形になった。
もちろん油断はしないが、現状得ている知識量、高校受験等で既に試験を経験しているこの世界の他の子供にはないアドバンテージをしっかり活用出来れば、合格は難しくないだろう。
なので、まずは明後日のことに集中しよう。
自称神様の話だと、特殊能力を発動するには
「神様神様、どうか願いを叶えて下さい!」
と唱えることらしい。
詳しいことは1度目の能力発動の時に説明するとも。
あの真っ黒な空間で全部説明してくれればいいものを。小出し小出しに情報を出していくのはあの自称神様の性格なのだろうか。
心の中で悪態をつくものの、とりあえず唱えてみないと始まらない。ランは、ベッドの上で横になり、目をつむり、あまり大きな声にならないようにその言葉を唱えた。
「神様神様、どうか願いを叶えて下さい!」
唱えた瞬間、ランの意識は途絶えた。
…
…
…
ランが目を覚ますと、真っ暗な空間でうつ伏せで倒れるような形になっていた。
周りを見渡しても黒一色。まるで自称神様がいた空間みたいだ。
「みたい、ではない。あの時と同じ、我の空間である」
上なのか前なのか後ろなのか分からないが、あの渋い声で呼びかけられた。
この自称神様、相変わらず人の心が読めるのだろうか。
そう警戒していると、目の前に、以前と同じような本が出現した。ページがバラバラバラと開いていき、数秒後止まった。
そのページには各ステータスの数値が記されている。
免疫力と読解力の数値を見る限り、現在のランのステータスのようだ。
「ここに再度来ているということは、貴様に授けた特殊能力を発動するため、あの言葉を唱えたのだな。殊勝な心がけだな」
姿を見せていれば、顎を少しあげ、こちらを見下しながらしゃべるような感じなのだろうか。
気分は良くないが、早く特殊能力の説明を早くしてほしい。
ランは何も言わず、首を縦に降ることで話の続きを促した。
「再度確認する必要もないが、最終確認をさせてもらおう。貴様が望んだ能力は"自分が望むときに努力値のステータス振り直しをすることが出来る能力"でいいんだな」
その通りだ。
まだ阿走駆であった時に望んだ能力はそれである。
その能力が生前の努力を1番無駄にはしない方法であると思って考え、選んだものだ。
「貴様の目の前に、現在のステータスが記されている。前と同じように努力値をステータスに振り直せば、次に目を覚ました時には、振り直したステータスになっているだろう。使える努力値も以前と同じ量だ」
その言葉を聞き、少し安心した。
使うたびに、使える努力値が減るとかペナルティがある訳ではないようだ。
ナイス神様!
と心の中で初めて、自称神様を称賛した。
「だが、ペナルティまったくなしというのはつまらない」
やはり自称神様は自称神様だった。
「この能力を発動するために、あの言葉を毎回唱えてもらうのだが、その際は必ず意識を失い、この空間に来てもらう。そして、次に目を覚ますのは1日後…とするか。それぐらいのペナルティは受けてもらおう」
1日!と流石に顔に驚きの表情が出てしまった。
エルフ族が港に来るのは明後日だ。
今回はギリギリ間に合うが、意識を失い、1日後に覚醒というタイムラグは今後能力を使う時に考慮に入れなくてはいけない問題である。
例えば、海で溺れた時、泳力に数値を振って助かる…といった緊急時での使用は出来ないということだ。
まぁ、事前の準備の為の能力としては優秀な能力と割り切るしかない。
「これで説明は終わるぞ。我は帰るので、ステータスの振り直しが終わったら、その本を閉じるがいい。次に目が覚めるのは、先程言った通り1日後だ」
そう言い残し、自称神様はどこかに去ったようだ。
再びあの渋い声が響くことはなかった。
能力発動にペナルティが課せられたのだ。次、ベッドの上で目を覚ました時、何も変化がなければあの自称神様を殴るためにまたここに来てやる。
そう決意を固め、本のページを自分の手で数ページめくる。
程なくして、目的の魔力の項目を見つけた。
魔力貯蔵量の数値はとりあえず10にしておく。
あとは魔力回復速度等、魔力に関する項目を高数値にする。
これから本格的に魔法を学ぶ為に知力に関する項目にも優先的に数値を振り、あとの能力は残った数値を平均的に振って本を閉じた。
閉じた瞬間、ランの意識はまたなくなった…。




