50 ずっと
最後の曲に差し掛かったが、私はその場にしゃがみ込み立ち上がることができない。
「陽菜! 大丈夫?!」
美咲が私の異変に気が付き肩を支えてくれる。
「暑いし、少し外に出るか?」
海斗と翼が二人掛かりで私を支えながら風通しの良い体育館の入り口まで運んでくれた。
「……ごめんね、ちょっと立ち眩みしただけだから。少し休めば大丈夫。二人とも戻って」
涼しい風が顔に当たり目が覚める思いだった。
「もうそろそろ終わりだし、ここで待ってろ。今美咲と亜里沙ちゃん呼んでくるから」
翼は海斗を残して人混みの中に戻っていく。
「最初っから……俺に勝ち目なんかなかったな」
ポツリと海斗が呟いた。
「俺、陽菜ちゃんの事本当に好きだったんだ。でも、悠真は俺の『好き』とは次元が違ったんだろうな」
ハハハと外を眺めて懐かしい顔をした。
「海斗は……今は幸せなんだね」
海斗を見上げたら、清々しい顔をしている。
「まぁ……、俺の陽菜ちゃんへの六年間の片想いは、吉川先輩と恋人になるための準備期間だったんだって思ったら、気持ちがしっくり落ち着いたよ」
しゃがんで私の表情を伺う海斗。
「陽菜ちゃんは、今幸せなんだろ??」
にっこり笑う。
「……もちろん!! 海斗に負けない位」
フフフと笑みがこぼれた。
そこへ大きな歓声を背に悠真が走って駆け寄ってくる。
「陽菜!! 大丈夫か?! ステージの上から陽菜が二人に抱えられて外に行くのが見えたから……」
あれだけ逢いたかった悠真が息を切らして、私だけを見てくれている。
「おい! 陽菜と何話してたんだよ??」
海斗に詰め寄りながら、悠真の少しだけ取り乱している姿を、後ろから美咲と吉川先輩が笑いをこらえてながら覗いていた。
「何って……、なぁ? 陽菜ちゃんのファーストキスは俺が奪ったんだよって話だよ!!」
私を見て海斗は意地悪な顔をする。
「キス?! いつだよ??」
悠真は海斗の肩をがっしりと掴んだ。
「そりゃ…、付き合ってる時だよ。恋人同士なんだから当たり前だろ?」
私はあのキスが恋人同士のものとしてカウントされてることに驚いたが、初めてのキスは、もっともっと前に悠真に捧げているんだってこと、後で教えてあげよう。
「陽菜のファーストキスはお前と付き合う前に、もう俺がもらってるんだからな!!」
顔を真っ赤にして私を見る。
「えっ? 気づいてたの……? 私が寝ている悠真にキスしたこと……」
私の言葉を聞いた後の悠真の驚いた顔に、状況がつかめず混乱した。
「いや……俺は陽菜が寝てるときに……我慢できなくて……」
耳たぶまで真っ赤になってる悠真が愛おしくて仕方ない。
「まだ海斗と付き合うって聞く前に、たまたまこいつに抱きしめられる陽菜を見て、俺焦ってたんだ、きっと」
急に声が小さくなる。
「もしかして……お風呂掃除の日……?」
私が悠真にキスした日??
「あぁ、やっぱり気づいてたのか?」
頭をポリポリ掻きながら照れ笑いをしている悠真に、フラフラの足で飛びついた。
「悠真……どうしよう……大好き……」
周りの目なんてその時は気にもならなかった。
ただ溢れ出して止まらない『好き』の気持ちを少しでも悠真に届けたかった。
「私もあの日、悠真が寝てるとき……キスしたんだよ?」
視線が重なり、離れられない。
もう言葉なんて要らない。
悠真の愛情をそんなに前から私はちゃんともらってたんだ。
お願い……今すぐに思いっきり抱きしめて……
「陽菜……」
体育館の入り口から差し込む逆光に私たちの姿はきっとかき消されてるに違いない。
ずっと欲していた悠真の唇がゆっくりと重なる。
「……ちょっ――」
翼が真っ赤になった美咲の口を両手で塞ぐ。
「おいおい……」
海斗は静かにその場を離れていく。
吉川先輩の手をそっと取り、目をそらした。
一人の生徒に見つかり、指をさされて、一気に歓声が上がる。
ハッと我に返り、悠真と見つめ合った。
「あの家で、ずっとずっと幸せを積み上げていこう?」
囁くように言った悠真は、真っすぐ私を見る。
「うん……!」
私はきっと世界一幸せ者だ。
悠真の胸に顔を埋める。
いつものように、大きな悠真の手で優しく私の頭を包み込んだ。
「陽菜、こっち向いて!」
大きな歓声をBGMに、私たちは同じ未来を想いながら、もう一度ゆっくり唇を重ねた……
完
今までお読みいただきありがとうございました。
予想よりだいぶ長くなってしまったのですが、気に入って読んでいただいた方々に本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
よかったら、ご感想や評価などで反応を残して行っていただけたら嬉しいです。
次作は……まだ全く考えていませんが……もし、またお会い出来たら読んでやって下さい!




