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5 妹

 手を繋いだまま私たちは食品売り場を歩く。

 ただでさえ制服を着た中学生の男女が、スーパーの中を一緒に歩いているだけでも目立つのに、手を繋いでいる事でやっぱり主婦たちの視線を感じてしまう。


「悠真……、もう手、大丈夫だよ? 恥ずかしいよね?」

 そう悠真の顔を見上げると、マイペースで穏やかな表情はいつも通りだった。


「別に、全然恥ずかしくなんてないよ」

 キョロキョロ周りを見渡し警戒している私とは対照的に、余計な視線に動じる事なくクスクスと笑う。


「……でも……」

 こんな所をもし朱莉さんに見られたら……とか思わないのだろうか?


「俺は別に何歳になっても陽菜の事、大切な可愛い妹みたく思ってるし……。それを周りがどう見ようと俺は何とも思わないけどな」


 ……と言うことは全く異性として意識されていないってことか……、とがっくりしながらも彼女が出来ても、悠真の中に私の居場所はいつもあるって事なのかな……、と嬉しい様な悲しい様な複雑な気持ちになる。


 悠真の言葉に『それって、彼女が出来ても……?』と核心をついた質問をしてみたかったけど、私が悠真の恋人になる可能性が完全に消えてしまいそうで、流石に怖くて聞けなかった。



「……妹か……」

 つい出てしまった言葉に、

「…………?」

 とあっけらかんとした悠真の瞳の奥を覗いて見ても、自分が恋愛対象になっているかまでは到底探ることはできなかった。



 私は気持ちを切り替えようと、ふぅと一つため息をついた。

「悠真! ご飯何にする?」

 そう笑顔を作り直す。


「そうだな……。あんまり手の込んだやつはもう時間もないし……、お好み焼きとかはどう?」

 キャベツの横に、ちょこんと出ていたお好み焼きの粉を指差す。


「いいね! じゃあ決まり!!」

 粉を手に取り、パッケージの裏に書いてある材料を次々と籠の中に放り込んだ。


「結構いい時間だな……。急ごう!」

 スマホの時計を確認した悠真は、歩く速度を速めていく。


 レジを通過するときに始めて繋いでいた手が解かれた。

 せっかく気持ちまで一つになりかけていたのに、忙しない時間に耐えきれずブチっと途切れてしまったみたいで寂しくなった。



『まぁ、仕方ないか……』

 十分幸せだったひと時にに感謝しながら、買った食材を袋に詰め込む。



 大きく荷物で膨らんだ袋を下げようとすると、目の前にすっと悠真の手が伸び、当たり前のように持ってくれる。


「ありがと」

 なんだか嬉しくて、緩みきった顔で悠真を見上げた。


「さあ、行こう!」

 悠真はまた私の手を当たり前のように取り、歩き出す。


「たまには……こういうのもいいよな!」

 嬉しくて悠馬の顔が見れないよ……

 都合のいい私は悠真の表情が、心なしか嬉しそうに見えた。




 プレゼント用にラッピングされた口紅を取りに、化粧品売り場に近づいてきた。


「ちょっと取りに行ってくるから休んでていいよ!」

 側にあった休憩所に悠真を置いて、一人売り場に向かう。



「すみません、遅くなりました!」

 笑顔で迎えてくれる化粧品売り場のお姉さんに頭を下げる。



「大丈夫よ! あら? お連れさんは?」

 さっきまでカップルの様に近くにいた悠真が急にいなくなった事を心配してくれていた。


「荷物があるから、休憩所で今休んでます」

 ふふふと安心させる様に話す。


「そう! じゃあ、これ……お母さんへのプレゼントと同じブランドのサンプルよ。何色か試せるから、彼との大切な時間にでも使って!」

 そう言って小さな袋を渡された。



「いいんですか?? 嬉しい!!」

 顔が緩んで嬉しさを隠しきれない。



「恋人同士になれたら、また買いに来てね!」

 ふふふと上品に笑うお姉さん。



「……ありがとうございます!」


 自分の心の中が全部彼女には見えていたのか……、強い味方が現れた様な気持ちになる。



 ……いつか……本当にそんな日がくればいいのにな……



 どこか温かい気持ちになれた化粧品売り場に背を向け、悠真の元に戻っていく。


 疲れていたのか、ベンチに寄りかかったままスースーと寝息をたてていた。

 寝ている悠真の隣に座り、じっと寝顔を観察する。


 こうして寝顔を見るのは小学生以来かな……?


 すっかり大人びた顔つきになった悠真だったが、優しい目元は昔から変わらない。


 触れたくて、触れたくて仕方がなくて……気付かれない様にそっと髪を指でなぞる。


「はぁ……、昔はこんな緊張しないでも普通にいくらだって触れたのに……」

 ポロリと本音が口から出てしまった途端、バチっと悠真の目が開いた。


「ひゃぁあ!!」

 あまりの驚きにベンチからドスンとお尻が落ちて尻餅をついてしまう。


「痛たた……」


 悠真は目尻に涙を溜めるほど笑いを必死で堪えていた。


「おい、大丈夫か? ……全くどうしたんだよ??  陽菜!」

 笑いが収まらない悠真のそっと差し伸べられた手を取り起き上がる。


「なんでもないの!!」

 ぐちゃぐちゃになった気持ちをうまく伝えることもできずに、思わず涙が溢れてしまう。


「なになに? ……ごめん、笑いすぎたよ」

 悠真は妹を宥めるように、私の頭を撫でながら手を取る。


「さぁ、もう時間がないから帰ろう、お姫様!」

 グスンと鼻をすすって涙を拭う私を、悠真は人目からも守る様に私に寄り添った。



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