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42 お似合いなはずの二人

 目の前に上半身あられもない姿になった陽菜に、視線を完全に掴まれて動けない。

 女神のような彼女の姿はあまりにも美しく、俺の脳裏に焼き付いた。


「悠真……?」

 熱でぼーっとしているのか、現実に起こっていることが把握できていないようだった。


 俺はすかさず、

「ご、ごめん……!」

 そういって背を向けたが、帰ってきた言葉に驚き再び振り返ってしまった。


「悠真……、本当にありがとう……」

 そう言ってポロリと涙を零したんだ。


 自分の姿に気が付いていないのか?と、彼女に声をかけようと思ったが、両手で胸を隠しているところを見ると自覚はあるようだった。


「……どうした陽菜……?」

 ここまで俺が、陽菜を運んだことに対しての事を言っているのか……?

 そうでないのなら、なぜ泣いてお礼を言われるのか、全く今の状況で検討もつかない。


「……悠真ぁ……」

 陽菜の堰を切ったように溢れ出す涙に、俺は上半身裸の彼女に近づくこともできずに戸惑った。

 堪えていた泣き声が徐々に我慢しきれなくなったのか、肩を震わせて声を上げる所を見たら、何やらただ事ではないのだな……そう思った。


 これは恥ずかしくて泣いているんじゃない、そう判断して、恐る恐る近寄る。

「どうした……陽菜? ほら熱上がるぞ……」

 側にあったタオルケットを彼女の肩にそっとかけた。


 何か言いたそうだが泣きすぎて呼吸が乱れているためか、次の言葉が出てこない。


「なぁ、話ならちゃんと後から聞くから、とにかく着替えろ。俺自分の部屋にいるから、終わったら声かけてな」

 陽菜の頭をポンポンと頭を叩く。


 一生懸命頷いている姿が今すぐにも抱きしめてやりたくなるくらい頼りなくて……愛おしかった。

 そんなことをしたら、もうきっとブレーキが効かなくなる。

 深呼吸しながら、俺は立ち上がった。




 自分の部屋に戻って、さっきの陽菜の姿を必死に思い出さないようにしていた。

 最後に見た小学校の頃よりもあんなに変化してしまった陽菜の身体に動揺しすぎて、鳴りやまない心臓の音を大きく息を吸って押さえつける。


 そりゃそうだよな。

 昔と今が同じだったらおかしいよな。

 身体だってあんなにかわるんだから……当然心だって変化するはずだ。

 思い出したら、顔が焼けるように熱くなる自分が情けない。


 なんで俺は自分の心の変化にも気が付かなかったんだろう?

 もっと早く気づいていれば、海斗に先を越されずに済んだのに……。


 先を越されなかったら、俺の彼女になってくれていただろうか?


 ……あの笑顔を、俺だけのものにできていただろうか……?


 こんな『たられば』な話したって、今が変わるわけじゃないのに。



 本当に馬鹿だな、俺は……



 グジグジと考えている自分に嫌気が差しながら、一階に降りて洗面器に水を張って氷を入れた。

 自分のモヤモヤを氷とともに水枕に放り込み、自己嫌悪と後悔のため息を吐き散らかした。


 二階に上がり、そろそろ着替え終わっているだろうと彼女の部屋をノックする。

 返事がないので、そっと扉を開けると、ちゃんと服を着て顔を赤くしながらベットに横たわっていた。


「ちゃんと終わったら呼べって言ったのに……」

 どうしていつもそうやって遠慮するんだ。

 もっとたくさん甘えて欲しいのに。


 彼女の頭をほんの少し上げて、水枕を差し込む。

 額に手を置くと、やっぱり熱い。


「大丈夫かな……」

 陽菜の熱で苦しそうな顔を見ていると心が痛む。


「ごめんな……陽菜」

 タオルを絞って額に当てた。


 微かに首を横に振った気がした。


 聞こえてるのか……

 俺が代わってやれればいいのに……



 布団の中に手を入れ、彼女の手のひらを探す。

 カイロのように熱くなった彼女の手を包み、もう片方の手で髪を撫でた。


 じっと陽菜の顔を見つめながら、心の中で何度もごめんと呟く。


 そうして、濃厚な一日に疲れ果て、いつの間にか彼女の傍で、俺も寝息を立てていた……。





「桜ちゃん、そっちに悠真いってる?」

 柊は悠真がいないことに気が付き桜の家の扉を叩く。


「ううん。 たぶん来てないと思うけど……」

 桜は陽菜が朝から悠真と出かけていることを知っていたので、まだ帰ってきていないと思っていた。


「悠真のカバンが置いてあったから、もう帰ってるんだとおもったんだけど……。せっかく早く帰ってきたから飯でも食べに行こうかと思ってたのにな」

 ポリポリと頭を掻きながら残念そうに呟いた。


「陽菜の部屋見てこようか? もしかしたらいるかもしれないし」

 ムフフと笑いながら階段を上がっていく桜。

 その後を続くようにして、柊も二階に上がっていく。


 リビングを抜け、陽菜の部屋をノックするが返事がない。


「陽菜、入るわよ?」

 そういって桜がガチャリとドアを開けた。



「あれ……!?」

 二人の目に飛び込んできたのは、陽菜と悠真が同じ布団に入っているわけではないが、手を繋ぎ悠真が陽菜の頭に手を置いてスヤスヤと眠っている姿だった。


 桜も柊も顔を見合わせて微笑みあう。


「こんな二人の姿見たのいつ以来かな……」

 柊は懐かしそうに言った。


「少なくとも中学校入ってからは見たことなかったわね」

 笑いをこらえながら桜は嬉しそうだ。


「この二人……最高にお似合いだと思うんだけどな……私」

 にっこり柊を見る。


「俺も」

 桜に微笑み返した柊はもう一度悠真を見る。



「お前も、そろそろ素直になれよ」

 クククと笑う柊を見て、桜は驚いたように幸せそうな笑顔を浮かべた。






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