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33 曝け出した心

「うわぁ!! 可愛いっっ!!」


 羊を放牧している大きな牧場の外に、小動物園がある。

 陽菜も美咲も一目散に柵の中へ入っていった。


 俺と翼は柵の外からウサギやハムスターと戯れる女子二人を遠目で眺めていた。


「なぁ、久々に楽しいな。俺、勉強ばっかでうんざりだったからさ」

 チラッと覗かせる翼の疲れた表情から、確かに俺たちの通っている楠高校は、授業についていくには予備校なり、家庭教師なり学校外でもかなり勉強していないと大変なのは同意できる。


「それにしても悠真はどこも塾行ってないんだろ? 部活もがっつりやって、余裕だよな……。俺なんか美咲となかなかデートできなくてさ……、色々溜まるわ……」

 はうぅ……と顎を突き出しため息をつく。


「……色々……?」

 色々の意味を考え出したらキリがないが、二人は付き合ってるんだからもちろんそういう関係になっていてもおかしくないだろう……。

 なんだか、次元が違うところにいるな……こいつは……。


 俺は好きな子が毎日隣の部屋にいても、最近じゃ顔を見ることもできないのに。



「悠真、おまえ星宮先輩とはどうなんだ? いい感じなのか?」

 翼の唐突な質問に全く俺はピンとこない。


「どうって……どうもこうもないけど……。尊敬はしてるけどな、マジで」

 俺は唯一弱音を吐いてしまった朱莉先輩の顔を思い浮かべて、部活を休んでここにいることへの罪悪感が確かにあったことを思い出す。


「いやいや、ないってことないだろ? あんだけ学校じゃ噂になってんのに」

 確かに、俺と朱莉先輩の噂は、練習を公開するのをやめてから尚の事、様々な色の尾っぽをつけて大きく広がっていた。


「マジでなんにもないし、ましてや恋愛感情なんて全く持ってないよ、お互いに」


 憧れているのは今も変わらずだけどな。

 恋愛感情とは全く別物だと、海斗が現れてから俺は思い知らされた。

 アイツの顔を思い出して、ハァと息を吐く。



「……は?」



 翼が俺を凝視している。

 なんなんだ? 一体?


「おまえ、星宮先輩と付き合ってるっていうか……好きなんじゃないのか??」

 ぐっと顔を近づけてくる翼。


「しつけーな!! あるわけないだろ!! ってか顔近い!!」

 食い入るように俺を見る翼を突き放した。


「……まじか……。 なぁ、一個聞いてもいいか??」

 ゴクリと唾を吞む翼。


「なんだよ」

 めんどくさそうな質問の前触れを予感して俺は一歩下がった。



「陽菜の事、どう想ってる?」



 いきなり投げつけてきたド直球な質問を俺はうまくかわせず、手に持っていたコーラを地面にズドンと落としてしまった。


 一瞬時が止まって、俺は無音の世界に引きずりこまれる。


 乾いた土がシュワシュワと音を立てて零したコーラを吸い込んでいった。

 その微かな音に起こされるように俺は現実の世界で目を覚ます。


「……ど、どうって……なんだよ……」

 息の仕方が急に分からなくなった。


 不自然な俺の呼吸に、翼は目をギロリと輝かせる。


「決まってんだろ? 恋愛感情を持ってるかどうかをきいてるんだ。簡単に言うと、好きなのかどうなのかってことだよっ!」


 俺の両肩を掴んで激しく揺さぶってくる。


「おい、はっきり言えよ……俺たち親友だろ?」

 翼の目がだんだん優しくなる。


「お前、いつも肝心なこと俺に言わないだろ? そんなに信用できねーのかよ……。確かに今は陽菜には海斗がいるけど……そんなん相手に彼氏がいようが、彼女がいようが、好きだって思う気持ちは変わんねーだろ?」


 なんで俺のことなのにそんなに声震わせてんだよ……。



「あぁ……。好きだ。 俺、陽菜の事……死ぬほど好きだ」


 俺のほうが声震えてるか……。

 男のくせに、情けねぇな……、俺も、お前も。



「悠真……なんでもっと早く言わねーんだよ!!」

 ドンと俺の胸を突き飛ばす。


「おい、絶対あきらめんなよ? 悠真には悠真の考えがあるんだろうから、俺の口から陽菜には何も言わない。だけど、俺はこのまま悠真が陽菜に何も言わずに終わらせようとするのだけは許さないからな!!」

 そう言って大きく深呼吸し続けた。


「なぁ、少しでも協力させてくれないか? どんな結果になろうと、陽菜と悠真が、ちゃんと向き合える時間をつくってやりたいんだ……。俺ができることなんてそんなことくらいだからさ……」


「翼……」


 翼は美咲と陽菜を大きく手招きして呼び寄せる。


「美咲には言うからな。アイツは俺の信頼できる彼女であって親友だ。俺に免じて信じて遣ってほしい」

 翼は小声で呟いた。


「あぁ。分かった。ありがとな……」

 翼は静かに頷いた。



「よし! 次はアヒルのボートに乗ろうぜ!! 悠真、俺ちょっとだけ美咲と二人でデート気分味わいたいから、今回ばかりは陽菜と二人で乗ってもらっていいかな? 悪いな、ホント」

 ちょっと!と制止する美咲の口を手で強引に塞ぎ黙らせると、有無も言わせず引っ張りずんずんと池の方に歩いていく。


 取り残された俺と陽菜は顔を見合わせた。


「翼、急にどうしたんだろうね??」

 二人の背中を追いながら、俺たちも柔らかな日差しをキラキラと反射させる水面に向かって、ゆっくりと歩き出した。


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