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32 アスレチック

「おはよー!!」

 美咲と翼がそろって迎えに来た。


 ほぼ同時に玄関を出た私と悠真は顔を見合わせる。


「……おはよ」

 久しぶりに悠真の顔を見て心が疼く。


 不安になったり、悲しくなったり……

 心が乱れたときは、当たり前のように悠真が傍にいてくれたのに、もう力を借りることはできない。


 自分が選んだ道なんだから当然だ。


 当然なのに、久しぶりに私服で悠真と一緒に過ごす時間を想像したら、服を選ぶのに一時間もかかってしまった。


 どうしようもなく好きな気持ちは、理屈じゃ解決できる問題じゃない。



 でも決めたんだ。

 今日これからの自分にしっかりと決断を下そうと。


 海斗のことも、悠真のことも……。




 美咲がポンと背中を叩き頷いて見せる。

 私は美咲の表情を見て決意を込めた笑顔で返した。





「わぁ!! 入口からして綺麗!!」

 グリーンファームの入り口を入ると一面に花畑が広がっている。

 最近のもやついた気持ちが一気に飛んで行ってしまうような美しさに息をのんだ。


「バスでたった十分でここに来れるなら週末になる度に遊びに来たくなっちゃうよねぇ!」

 美咲と私は咲き乱れた花畑の中を走り抜け、後ろをゆっくりと歩いてくる悠真と翼に大きく手を振る。


 端までたどり着き、高台になったこの場所から見下ろせば、池の中にアヒルのボートと一緒にキラキラした水面を、カモが気持ちよさそうに泳いでいた。

 両脇にはアスレチックやサイクリングコース、ゴーカートなどの遊具、奥には羊が放牧されているのが見えた。


「ずいぶん広いんだねー! わくわくしちゃう!!」

 美咲の高まるテンションに私も引っ張られるように、頭を渦巻いていたいろんな思いが消えていくようだった。


「どっから回る?」

 翼がパンフレットに目を通す。


「やっぱ、とりあえずアスレチックなぁ!!」

 運動大好きな美咲は翼の手元を覗き込んだ。


「別に俺はいいよ」

 悠真は私を見た。


「いいよ」

 視線を受け取り私も同意する。



 なんか、こういうのが久しぶりすぎて……

 ただ目を見て頷いただけなのに幸せが押し寄せてくる。


 朝から私と悠真の間にはよそよそしい距離感があって、もう元にはもどれないのかな……ってあきらめかけていたのに。




 青々とした木々が悠々と聳え立つ中にアスレチックが大人用と子供用に十パターンほど設置されていた。

 美咲と翼はグングンと先へと進んでいく。


 子供だった頃はもっと体が軽かったはずなのに、簡単に登れそうな場所にも意外と苦戦する。


「ちょっとー! 次の進んじゃうからね!!」

 最初のアスレチックをクリアして、遠くから私に向かって叫んでいる。

 翼はその後を追うように息を切らしながらついていく。


 流石体操部の美咲は身のこなしが軽い。

 私も一応運動部なんだけどな……。

 最近やっぱり太ったせいかな……?


 よいしょっとネットのはしごをようやく登りきり、はぁとため息をついた。


「陽菜は毎日運動してるんだろう?」

 クスクス笑いながら悠真が私の後ろから登ってくる。


「そうなんだけど……やっぱり子供のころのようにはいかないね」

 さりげなく声をかけてくれる悠真。


「こういうの、陽菜は子供のころは得意だったのにな」

 私の後ろに立った悠真は目の前にある細い丸太の橋を私と一緒に眺めた。


「悠真、先行っていいよ。私自分のペースでゆっくり行くから。美咲も翼もどんどん先に行ってるし!」

 息を切らしている私とは対照的に、何でもない顔で楽しんでいる悠真に声をかける。


「いいよ、俺は陽菜の後ろからゆっくり自然を堪能しながら行くから」

 ハハハと笑いながら私の背中を押す。


「私に気を遣ってるんなら本当に大丈夫だからね」

 悠真はいつもこうだ。

 自分の事より、私の事。

 私がいなかったらもっとたくさん楽しめることがあっただろうにと思い返すと、申し訳なくなる。


「俺は森林浴をゆっくりしたいだけなの! いいから早く進めって!」

 私のおでこを軽くこつんと小突く。


 顔、赤くなってないかな……

 ドキドキ、聞こえてないかな……


 後ろに悠真の存在を感じながら、私は安心して一歩ずつ前に進む。

 こうして私はいつも悠真に守られてきたんだ。


 そうして、悠真に私は何一つ返せずにいる。


 木々の間から、太陽の光がキラキラと零れ落ちてくる。

 後ろを振り返ると、眩しそうに見上げる悠真がいた。


 その姿から私は目が離せない。

 いつの間にか大人の男性になってしまた悠真にトクンと心臓が鳴きだした。


「おい、ちゃんと前見ろよ。あぶないぞ!」

 ハッと我に返った。


「うん」

 どうして、こんなに悠真が好きなんだろう。

 忘れられることなんて本当にできるの??


 今悠真を独り占めできている自分が、現実を錯覚しているだけなのは分かってるのに……。







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