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30 彼女との時間

「もしもし、美咲?」

 急がなきゃ……、もし陽菜に何かあったら……!

 そんな思いで桜さんから寿司をご馳走になった後、一目散に自分の部屋に駆け込んだ。


 すぐにスマホを手に取り、ためらうことなく美咲に電話をかける。


『あれ? 悠真?? 電話なんて珍しいじゃない?』

 美咲の驚いた口調に俺は我に返った。


 そうだった……。

 翼と付き合うようになってからは特に、俺から美咲に連絡することなんて滅多になかった。


 美咲は勘が働くタイプだから、変に悟られないようにさりげなく聞き出さないと……。

 俺は細心の注意を払って、言葉を一つ一つ選んで話す。


「あのさ、今日、陽菜ってそっちに泊まりに行ったりしてる? 桜さんが誰のところに泊まってるのか心配らしくてさ……」

 桜さん、ごめんなさい!

 嘘ではないけど、勝手に名前を使ってしまった罪悪感と戦う。



『陽菜ならウチに来てるよ? 何? 陽菜お母さんにうちに泊まるって言わなかったの?』

 電話の向こうで美咲が陽菜に問いかけている。

 俺は本当に陽菜が電話の向こうにいるかどうか、耳を澄ませて声を必死に拾う。

 微かに『うん』と聞こえる彼女の声に、ふうっと安堵のため息をついた。


「じゃあ、桜さんに伝えとくわ。じゃあな!」

 陽菜の居場所の確認をとることができた俺は、余計なことは言うまいと、早々に電話を切ろうとした。


『あっ、ちょっとまって、悠真!! 今度の日曜って時間作れない??』

 唐突な美咲の誘いに戸惑いながらも、

「部活あるよ。でも、前もって言っとけば休めるけど……何? 急用??」


 面倒なことは勘弁だな……と、何かを企んでいるような彼女の声音に、変なことに巻き込まれないように、慎重に返事をするぞと、心に決めて次の話を聞く。


『みんなで、グリーンファームに行かない? 今それを陽菜と話しててさ。翼は都合つくからいいよって』

 嬉しそうな美咲の声に、お前はデート気分で行けるからいいよな……と少しばかり気乗りがしなかった。


『今、私と翼はデート気分でいいよなって思ったでしょ?』

 ドンピシャの言い回しに俺は心が読まれてるんじゃないかと背筋がゾッとした。


『違うの! 昔みたいに親友同士に戻って、四人で遊ぼうって話よ! 最近みんなそれぞれ忙しくて、なかなか一緒に遊べるってことないじゃない? このまま大人になっちゃうなんて、なんか寂しいしさ』


 ……まぁ、言ってることは分かる。

 俺だって昔に戻りたいって最近になって本当に思うんだ。

 毎日のように仲良く一緒に過ごしていたあの頃のように……。


「分かった。いいよ。詳しく決まったらまた連絡して」

 そう言って俺は電話を切った。


 とにかく海斗のところに陽菜が行っていないで本当に良かった。


 でも、……いつかはきっと、今日想像していたような日がくるんだろうな……。

 俺はそんな現実を受け入れられるだろうか……?


 はぁ……

 出るのはため息ばかりだ。


 いつもいるはずの彼女の部屋の扉をじっと眺める。


 最近ほとんど顔を合わせてなくても、彼女が隣の部屋にいるっていう安心感は、いつも俺の心を守ってくれていた。

 小さな物音や、たとえ海斗と電話をしているときの声でも、間違いなく今陽菜はここにいるんだって確信を持って思えていたのに……。


 陽菜……。

 俺は陽菜がどんどんと傍から離れていくことに耐えられるだろうか……?


 あと、どの位、陽菜を感じて毎日を過ごせるんだろう……。


 大人へのカウントダウンが音もなく近づいてくることに、俺は本当に陽菜を失うのが怖くて顔を上げられないでいたんだ。




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