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3 親友

「そうだったんだ……」


 昼休み美咲と私は、ひっそりとした体育館の裏側の掃き出しに並んで腰掛けた。長い髪を二つに結んで、元気だけが取り柄だとよく言われる彼女が、いつになく曇らせた表情で私を慰める様に肩を抱く。


 人気(ひとけ)のないところと言えばここしか思い浮かばず、昨日起こった出来事を美咲に一部始終、打ち明けたのだ。





「美咲!! なんだよ、二人ともこんな所で……」


 遅ればせながら校舎から体育館を繋ぐ渡り廊下を小走りで抜け、外の端っこで小さくなっている私と美咲を見つけて手を振るのは、美咲の彼氏でもある安野翼(やすのつばさ)だ。



「翼!! こっち!!」


 美咲は立ち上がり力強く手招きをして翼を呼び込む。


 女子二人の沈んだ様子を見てすぐに異変に気がついた翼は、

「……なんかあったの?」

 と心配そうに二人を覗き込む。



 翼は悠真と私がが幼稚園の時からの付き合いで、彼も親友だ。


 真面目でお人好しな翼が美咲と付き合い出したのは去年の夏。


 みんなで行った遊園地で、よそよそしく二人づつに分かれて乗ったゴーカートから彼らが、頰を赤く染め手を繋いで降りてきたときには本当に驚いた。


 仲良し四人組はお互いの家を行き来したり、休日一緒に遊びに出かけたりと、四人の中で知らない事はないくらいの親密な付き合いだったが、唯一、私が悠真をずっと好きでいると言うことだけは、悠真を除いた三人だけに共有された秘密だった。




「なんか悠真に気になる人が現れたっぽいよ?」

 息を切らして立ち尽くす翼に美咲は現状を手短に伝える。


「え? なに? 女の子の話?」


 状況が把握しきれない翼のトンチンカンな答えに、

「当たり前でしょっっ!!」

 と強い美咲の叱咤が飛ぶ。



「マジかよ? あいつ全然女っ気無いじゃん? モテんのにさ。何があったの?」

 美咲の隣によっこらしょと腰掛ける。



「昨日陽菜と悠真、楠高校の文化祭に行くって言ってたでしょ? その時に軽音部のボーカルに恋しちゃったんじゃないかって、ね? 陽菜!」


 膝を抱えて顔のあげられない私に、頭をポンポンと叩きながら念を押す美咲。



「……あぁ……、なるほど!」

 音を立てて掌に拳を落とした翼は、最近の悠真の異変を語り始めた。



「星宮先輩だろ? 文化祭に行く前からよくあいつの口から名前出てたよ。ほら、悠真と同じクラスの山下って知ってるだろ? あいつバンド好きじゃん? 悠真さ、山下と一度二人でライブハウスに行ったことあるらしくて、ゲストでチラッと歌った星宮先輩が相当気に入ったみたいでな。その頃から、通ってる学校が何処かとか、なんだかコソコソ調べてた時期あったな……」


 顎を掴みながら、その時の悠真の様子を必死に思い出していた。


 因みに山下とは、私達四人の中で一人だけクラスが違う悠真のクラスメイトで、最近悠真と一緒に行動しているのをよく見かける。



「なんだ、陽菜は知らなかったんだ?」


 意外だという顔で向けられた翼の視線に、コクリと頷き返したが、その言葉がさらにショックを上塗りさせた。



 私の肩の微かな震えに気づいて、

「ちょっと!! ほんとデリカシー無いんだから!!」

 と美咲は翼の腕をバシンと叩く。



「ごめんごめん!」

 翼がそう言った後、暫く沈黙が続いた。


「なぁ、これ美咲にもちゃんと話さなきゃって思ってたんだけど……、俺と悠真、たぶん楠高校受けると思う……」


 私は、あぁ、やっぱり……そんな風に思った。

 ところが美咲は初耳だったらしい。

ザッと勢いよく立ち上がって翼に食いかかった。


「なんで? みんなで一緒に花宮第一受けるってついこの前話したばっかりじゃん!!」


 突然の翼の告白に驚きと怒りをぶつける美咲。



「将来に関わる事だろう? 少しでもいい学校に行けるチャンスがあるなら俺は挑戦したいって思うし、悠真もおんなじ気持ちだと思う。まぁ、まだ確定じゃないし、学校違っちゃっても、俺は美咲への気持ちは変わらないから」


 さりげなく美咲を座らせ手を握る翼。


 瞳を潤ませながら翼の手の温かさに頬を赤らめる美咲は、なんだかとっても可愛らしく見えた。



「はぁ……どうやらお邪魔みたいね……」


 腑に落ちない事ばかりの気持ちを一旦フリーズさせて、私は静かに立ち上がる。



「陽菜……」

  涙混じりの声で私の名前を呼ぶ美咲に、

「いいからいいから、お構いなく!」

 野暮な事は言うまいと、二人を羨む心に蓋をして、その場を離れた。




 校舎に入り暗く長い廊下をとぼとぼと歩く。

 進路指導室の横を通ると楠高校のポスターが目に入った。




『まだ……分からないよ…。もしかしたら気が変わるかもしれない』


 そんな風に悠真が楠高校を諦める理由を、必死に探している自分がいる。


 最初から四人で受けようとしていた花宮第一高校は、普通科の他に特進クラスから、保育科や、商業科などが併設されていて、ガツガツ勉強する進学希望の子から、手に職をと考えてる就職希望の子まで幅広く通える高校だった。



『ずっと四人でいられたら楽しいよな!』

 二年生の時はそんな風に言ってたのに……。



 恨みがましく楠高校のポスターを睨みつける私の後ろから突然、聞き覚えのある声が私の名前を呼ぶ。


「陽菜!! やっと見つけた!! どこ行ってたんだよ?」

 息を切らしながら、にっこりと私に笑いかける悠真。



「ゆ、悠真?!」

 一瞬心を見透かされたんじゃないかと心臓が跳ね上がる。



「今日さ、桜さんの誕生日だろ? 帰りにプレゼント買いに一緒に行こうよ」



 なんて優しい笑顔をするんだろう……

 どうしてこんなに仲良しなのに彼女になれないんだろう……



「お母さんの誕生日、覚えててくれたんだ!」


 乱れた心をひた隠しにしながら言葉を絞り出した。



「当たり前だろ? 桜さんにはどれだけお世話になってきたかしれないよ。少しでも感謝の気持ち伝えたいんだ」


 眩しいほどの笑顔が、また『大好き』と言う感情に形を変えて私に襲いかかってくる。


 居たたまれなくなり、視線を落とせば彼の大きな手が目に入る。私も悠真と、美咲と翼のように手を繋げればなぁ……、そんな羨ましい思いに駆られながら後ろで自分の手を握り締めた。



「じゃ、放課後な!」

 要件を済ませ、あっさりと私に背を向け自分の教室に帰っていく悠真。

 

 急に太陽を失った長い廊下に一人取り残された私は、孤独な気持ちに襲われる。

 そんな思いを振り切るように、光の差す場所を求めて再び歩き出した。


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