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28 最低な自分

「海斗はさ、アイツいつもあんなんだけど、中学に入って佐伯さんと離れてから、とてつもなく落ち込んでてさ」

 朝比奈くんは懐かしそうに目を細めている。


「結局自分の気持ちどころかサヨナラさえもまともに伝えられなかっただろ? 俺、あの時初めて海斗が泣いたところを見たんだよ」


 泣いてた……?

 海斗が……?


「そこからかな……佐伯さんの事、一切口に出さなくなって……その時、俺はもう佐伯さんのことはあきらめたとばっかり思ってたんだ」


 いつになく真剣に話している朝比奈くんの話は、いつもなら反射的にシャットアウトしてしまう私の耳に素直に入り込んでくる。


「でもさ、今思えば気持ちわりぃって笑っちゃうけど、アイツ毎日マメに日記つけてたみたいで。たまたま海斗の家に遊びに行った日についつい欲に負けて引き出しの中見ちゃったんだ」


 急にニヤニヤとしだしたかと思えば、悲しい目をしているようにも見える。


「そこにびっしり書いてあったの!! その日一日に想った佐伯さんへの気持ちがポエムのようにさ!」


「『陽菜ちゃんに逢いたい。もう一度だけチャンスが欲しい。もしそのチャンスが訪れたならちゃん彼女に伝えたいんだ。大好きだって……』ってな。毎日のようにそんな言葉が連なっててさ、海斗の頭の中は佐伯さんの事しかないんだなって正直呆れたよ」


 クククと笑い出したかと思えば急に真剣な顔をして、静かにこう言った。


「もしアイツの事本気で好きになれないなら、佐伯さんの口からはっきり言ってやって欲しいんだ。海斗とは付き合えないって」


 大きく息を吐いて、遠くを見ているその先にはきっと海斗が映っていたのかもしれない。


「佐伯さん、幼馴染の男と一緒に住んでんだろ? それだけだって、海斗にとっては生き地獄だと思うよ。きっとアイツは、どうにかして陽菜ちゃんと繋がっていたくて、その幼馴染の男のことは目を必死につぶってるんだろうが……本当に居た堪れない男だろ? アイツ……」



 よいしょと立ち上がって朝比奈くんは私を見下ろした。


「もう、海斗を自由にしてやってくれよ。頼むからさ……」


 じゃあなと小さく呟き、振り返らずに朝比奈くんは歩き出した。




 私はちゃんと海斗の気持ちと真剣に向き合ってるだろうか……?

 どんな気持ちで私にキスをしたのか、知ろうともしないで私は海斗の事を嫌いになろうとしてた。



 あんなふうにふざけているようでも、朝比奈くんは海斗のことをちゃんと見てきたんだな……。


 私……、私は一体どうなりたいんだろう?


 そんなにも真剣に私を想ってくれていた海斗を、まるで悠真を忘れる道具のように使ってしまっている自分にハッとした。





「どうしよう……、どうしよう、私……」


 夜風が冷たく私を突き放す。


 海斗のキスを私はとても責められない。

 こんな汚い心の自分を誰にも見られたくなくて、とても悠真のいる家に帰る気持ちになれないでいた。


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