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22 消せない本音

「えっ? 嘘でしょ??」

 目を丸くして私の顔に穴が空くほど凝視する美咲。

 お昼休み、学校の屋上で、海斗とあった出来事を美咲に打ち明けた。



「ほんと。……もうさ、どんなに追いかけても悠真はきっと自分の道をどんどん進んでるから……。置いてきぼりになっちゃう前に、もう悠真から卒業しないといけないなって思ってさ」


 ほんとにそれが本音。


「そんな簡単に、悠真への恋愛感情が消えて無くなる訳じゃないけど……、きっと海斗といれば時間がかかっても忘れられるんじゃないかなって……」


 あぁ、また泣けてくる。

 もう決めたのに。



「……陽菜がさ、そう決めたんなら、私も翼も協力出来るようにするから……。でも……本当にいいの? 悠真以外の人、悠真以上に好きになれるの……?」


 美咲の念を押す言葉を頭の中では受け止められても、正直心の中は自信がなかった。

 生まれた時から一緒にいて、悠真は私の一部になってるって位近い存在だったし、きっと悠真も私の事をそう思ってくれてるんだって変な自信があった。


 でも現実は、幼馴染だっていうだけじゃ、恋愛にはとても繋がらなくて……

 これだけ一緒にいて、両想いになれないなんて、絶望的すぎる。

 早かれ遅かれいつかはお別れする時が来るなら、取り返しがつかない位傷が深くならないうちに手を打ちたかった。


 幸いにも、あんなに私の事を好きでいてくれる海斗に少しずつ惹かれている自分がいる。

 海斗との時間を重ねていけば、きっと別の道が開けるって、今はそう思い込むしか無い。



「……好きになる様に頑張る。今はまだどうにもならない位悠真が好きだけど……。このままじゃ、私ただのお邪魔虫になっちゃうからさ」

 美咲にしかこんな顔見せられない。

 瞳に溜め込んだ涙を流してしまったら気持ちが揺らいでしまいそうで、必死に空を見た。



「陽菜……」

 美咲はそれ以上何も聞かないでいてくれた。

 優しくさすってくれた背中があったかいよ……


「ねぇ、今度さ、四人で遊びに行こうよ。昔みたいにさ、恋する気持ちとか抜きでさ、楽しく遊ぼう? それぞれ自分の道を歩き出したって、私たちは切っても切れない親友じゃない! もう一度お互い親友として、仕切り直そう! 私も翼も、その日は恋人でいる事忘れて楽しめるようにするからさ!」


 ズズッと鼻をすすりながら私を抱きしめてくれる美咲は、きっと誰よりも私の気持ちを感じ取ってくれているんだろう……


 ずっとずっと、私だって仲良しでいたい。

 誰と付き合っていても、何処にいても……








 あれから毎日海斗から決まった時間に夜電話がかかってくる。


 学校でも隙間なく毎日顔を合わせているのに……本当にマメに私とコンタクトを取ってくれる。

 他愛のないどうでもいい話ばっかりだけど、その時間は悠真の事を考えないでいられるから、とってもありがたかった。


「海斗、今日授業で指されて固まってたよね? なに、もしかして寝てたの??」

 あははと笑いながら雑誌をめくる。


『陽菜ちゃんに見とれてて、先生の話が聞こえなかったの!!』

 受話器の向こうも楽しさが伝わってくるような声のトーンだ。


「え? 私のせいなの??」

 うふふと笑いが止まらない。


『そうだよ! 陽菜ちゃんのせいだよ。お陰で授業が全然頭に入ってこないんだから、今度ノート見せてくれよな!』

 冗談めかしに絡んでくる海斗。


「ねぇ、海斗。明日英語の小テストあるの忘れてない?? ちゃんと勉強したの??」

 意地悪っぽく海斗を突く。


『あぁ、全然やってねーよ! いい加減ヤバいか……。もう9時だもんな……』

 名残惜しそうなため息を海斗がついた。


「ほら、勉強しよう!」

 背中を押すように海斗との会話にキリをつける。


『……ねぇ、陽菜ちゃん。お願い聞いて欲しいんだ……。本気じゃなくてもいいから、『好き』って言ってくれないかな……?』

 急な海斗のおねだりにためらっている私がいた。


『お願い! 陽菜ちゃん! 聞いたらきっと勉強頑張れるからさ!!』

 電話越しに必死に頼み込む海斗の顔が見えた気がした。

 私たち、付き合ってるんだから……『好き』って言葉にするのは自然な事なのかな……?


 半分は心に反している『好き』に躊躇いを感じながらも、

「分かったよ……。海斗の事好きだよ……」

 そう言う気持ちになりたいと願いを込めて口に出した時だった。



 ガチャンと悠真の部屋に繋がる扉が空いたと思いきや、

「陽菜、一緒に勉強しようぜ!」

 と突然入ってきた悠真は、笑っていたが笑っているように見えなかった。


「じ、じゃあね! 勉強頑張ってね!」

 そう言って、変な後ろめたさを悟られないように慌てて通話を切った。


「あ……。うん……」

 私はきっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてただろう。


 悠真の存在が一気に私の中を埋め尽くした。


「あの……、急にどうしたの……?」

 いつもの悠真ではない事に気付きながら、隣にスッと座る彼の顔を恐る恐る覗き込む。


「たまにはいいだろう? 幼馴染なんだから」

 ノートと参考書を机テーブルの上でとんと音を立てて揃える。


「私は、助かるし、いいけど……」


 悠真は……?

 いいの??

 星宮先輩の知らないところでこんな風に他の女の子と一緒にいて……?



 肘と肘が微かに触れ合う。

 久しぶりに触れた悠真の肌に、私は息が止まりそうになる。


 ほんの少し触れ合った肘を切り離すことが出来ない。

 そこからドキドキが伝わってしまうんじゃないかって思うほど、悠真を感じる事に集中してたんだと思う。


「陽菜……、おい聞いてるのか??」

 突然覗き込まれた悠真の顔に息の吐き出し方を一瞬忘れてしまう。


 途端に涙がポロポロと頬を伝い出した。

 理由なんて分からない。


 ただ悠真がそこに居て、私の肘に触れていただけ。


 ただそれだけなのに………。


「……陽菜?? ……ご、ごめん、海斗との電話中に……。無神経だった。ホントごめん!」

 ハッとしたように悠真は私に謝り出す。


「………」

 大きく首を横に振る事しかできない私は、いつまでたっても止まらない涙を必死に拭い続ける。


 悠真は大きな胸に力強く私を引き寄せた。


 あぁ……あったかい……

 やっぱり……ここがいいよ……


「……ごめんね……悠真……」

 久しぶりに悠真の匂いに包まれた私は、離れなきゃいけないのに……身体が言う事をきかないよ……


「……無理して喋んな……。俺は大丈夫だから」

 悠真の大きな手が私の髪の上を滑らかに移動する。

 こうやって、ホントはずっと髪を撫でて欲しかったんだ……



 泣き止み悠真を見上げると、優しく微笑んでいた……


「……ほら、可愛い顔が台無しだぞ……」

 そっと涙を拭ってくれる。


 言葉が出ずに鼻水をひたすら啜る私を見て、

「やっぱり、陽菜は可愛いよ……」

 そう言った悠真の顔がなんだか泣きそうだった。


 静かに立ち上がった悠真は

「さ、俺戻るよ。ごめんな、邪魔して……。海斗にも謝っといて……」

 そう言い残して、静かに扉を閉めた。

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