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「陽菜ちゃん! 俺新しいラケット買いに行きたいんだけど、週末付き合ってくんない??」

 今日も海斗は人懐っこい笑顔でグイグイ私に近づいてくる。


「いいけど……、ねぇ、みんなの前であんまり近づいて来ないでってば!」

 椅子に座っている私の肩に乗っかる海斗の手を振りほどき、『あっちに行って!』と言わんばかりに跳ね除ける。


「いいじゃん、別に……」

 もう、そんなに寂しそうな顔しないでよ!

 海斗に邪険な扱いをした自分が嫌になる。


「陽菜ちゃん、そろそろ俺と付き合うこと考えてくれた??」

 わざとなのか、声をワントーンあげて私の顔を覗き込む。


 その瞬間、周辺にいた女子が物凄い勢いで私と海斗に視線を送ってきた。

 その鋭い視線を武器にしながら、数人の中の一人が大声を上げる。


「嘘でしょ? 五十嵐くん、陽菜の事ホントに好きなの??」

 その叫び声に似た金切り声はクラス中に響き渡り、私と海斗が一気に噂の的になったことは言うまでもない。


 美咲が驚き、私と海斗の間に入って、

「ほら、五十嵐くん。陽菜はね、ずっと前から好きな子がいるんだから、そんな簡単には振り向いてはもらえないんだよ?」

 小学生に言い聞かせるような非常に分かり易い言い回しで海斗を宥める。



「そんな事はどれだけ陽菜ちゃんが否定したって、俺は小学生の頃から気づいてたよ。でも、実際はまだ付き合ってないんだろ? 悠真が同じ家に住んでる分有利だし、それに対抗できる位の猛アタックを俺は誰がなんと言おうと、やってやるって思ってる!」

 海斗は私を見てニヤリと笑った。


「陽菜ちゃんは絶対俺の事好きになる。いや、させて見せる! だから結城さん、俺にもう悠真の事は言わないで欲しい。今も陽菜ちゃんは悠真の事が好きだって事は、ちゃんと俺は把握した上での告白だからさ」

 私の頬を掌で包み込むように覆い、意志の強い瞳で、泳いでいた私の目線をしっかりと捉える。海斗の自信に満ち溢れた表情は、美咲を含め、騒いでいた女子達を一気に黙らせた。


「これは……とりあえず、翼に報告ね……」

 ゴクリと美咲は唾を飲んだ。





 海斗の強引なアタックは、日を追うごとに止まる事なく増していく。

 触られる事をいちいち嫌がるのもだんだん面倒になり、最近ではされるがままになっている自分がいる。


 海斗はとっても気がきくし、私をいつもちゃんと見ていてくれる。

 シャープペンを机から落とすとすぐに拾ってくれたり、背の小さい私が届かないものを何も言わずに当たり前のようにスッと取ってくれたりする。

 小さな優しさが積み重なって、確実に海斗への好感度は上がっていた。


 一方悠真とは相変わらずすれ違いの毎日。

 一度も顔を見ない日もざらにある。


 寂しくなった私の心の中に、スッと自然に入り込んで来る海斗に、次第に心を開くようになって、過度のスキンシップも、『まぁいいか』と思えるようになっている今日この頃だ。



 そんな日々が続く中、珍しく悠真が朝ごはんを食べに来た日曜日の朝、ずっと流れていた海斗と一緒にラケットを買いに行くという話が、突然現実になる。



「なんだか久しぶりだね、悠真」

 目玉焼きとトーストの乗ったテーブルを囲みながら、私は嬉しくて常に笑みが溢れまくっている。


「あぁ、そうだな。部活がなかなか忙しいからな……。今日は午後からなんだ」

 悠真の穏やかな声が乾いた身体に染み渡る。

 久々すぎて、全身の感覚が悠真の仕草ひとつひとつに反応してしまう。


「そっか…、一日は居られないんだね」

 少し残念そうに俯くと、悠真は、

「帰りそんなに遅くはならないから、夕飯また一緒に作んないか?」

 その思いがけない言葉に、天にも登るような気持ちになって、『うん』と大きく頷いた。



 その時だった。

 玄関の呼び鈴が鳴った。

 扉を開けた瞬間、「おはよう!」と海斗が勢いよく抱きついてくる。


「海斗? どうしたのよ?」

 最近抱きつかれ慣れている私は、またいつものか……、と無抵抗だ。


「ラケット、今日こそは付き合ってくれよー。陽菜ちゃんとデートできるかと思って、俺気合い入れてお洒落してきたんだからさ!」

 そう言って玄関の中に入ってくる。


「わ! 目玉焼き美味しいそう! 一口味見させてよ!」

 返事も聞かずに私の食べかけのフォークでパクリと一口卵を放り込む。


 毎日のお弁当もこんな感じでつまみ食いをされているので、これもまたいつものことだな…と止めることもなく美味しそうに口をもごもごさせる彼を見守る。


「美味しい?」

 そう聞くと、

「うん!」

 と素直に答える。


「じゃあ、支度してくるから、ちょっと待ってて」

 断っても素直に帰るわけがないと私は彼の誘いにさっさと乗って、夜の悠真との時間に備えようと思った。


 一部始終が目の前で繰り広げられた悠真の顔はどこか怒っているようにも見えたけど……。


「ご馳走さま……」 

 静かに食事を済ませると、扉を開けて自分の家に戻っていく。


 私は支度を終えてダイニングに戻ると悠真がいない事に気がついた。

「あれ? 悠真は?」

 キョロキョロと周りを見渡す。


「あぁ、あいつなら怖い顔して、あの扉を開けて行っちゃったよ」

 そう言って私の家と悠真の家を繋ぐ扉を指差した。


「ちょっと、悠真に変なこと言ってないでしょうね?!」

 嫌な予感がして、海斗に問いかける。


「言うわけないだろ? 人聞きが悪いなぁ……」

 一瞬ムスッとした海斗だったがすぐに笑顔になり、私を外に連れ出した。





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