儀式
俺は同じ寮の同級生の部屋にいた。同級生は顔が青くなっており、そわそわしていた。
「だから、あの時の儀式がやばかったんだって。何とかしてくれよお」
「ははは。だからあれは冗談だって言ってるだろ」
「いやいや、ネットでも同じ方法があったんだって」
儀式というのは、今年の夏にこの部屋で同級生何人かと集まってした、一種の肝試しのようなものである。もちろんその儀式というのも、ネットで出てきたいかにも嘘っぽいものだったし、悪魔とか幽霊もそこまで存在を信じていない。なのにこいつは会うたびにその話をしてくる。
「証拠があるんだよ」
その言葉に少しドキッとした。友人はいきなり立ち上がり冷蔵庫を開けて、中からペットボトルを取り出して持ってきた。中にはお茶お茶が入っている。
「それがどうしたんだよ」
友人は机の上にペットボトルを置き目をきょろきょろさせて、静かに話した。
「いいかい。ここに赤い線が引いてあるだろ。これが夏にあった量なんだ。でも今はその線よりこんなにも下になっている。ペットボトルの半分ほどにまで。しかも一気に減ったんだ。これが証拠じゃないか」
俺は少し笑いそうになった。真剣に話しているのが、ギャグに見えて仕方がない。
「それが証拠? そんなんじゃわからんて。もっとこう部屋に火が点いたとか、鏡に何か映ってたとか。そういえば前寝ぼけていたかなんかで冷蔵庫の生肉を食べてなかったけ。たぶんそういう病気なんだって、諦めな」
「他にも時計が勝手に落ちたりとか買っていたはずの物がなくなったりとか、あとは……あとは……」
友人は頭を抱えて大きなため息をついた。
「わかった。ありがとう」
「そっか、じゃあまた」
俺はそう言って素早く部屋を出た。そして口を押えて笑いをこらえた。そりゃそうだ、俺がしたんだもの。そして、まだ金を盗んだことがバレていなくてよかったと思う。実はあのお茶を飲んだのは自分だ。夜な夜な窓から友人の部屋に侵入して、色々な物を拝借している。そのついででお茶も飲んだ記憶がある。
あいつには悪いが、悪魔とか幽霊とかのせいだと思っているのを利用させてもらおう。
廊下を歩き自分の部屋に入って読みかけの本を探すと、見覚えのないシミが床についていた。顔を近づけて見てみると、少し焦げ臭かった。