表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

ヒロインその1

 北刷毛山駅(きたはけやまえき)の駅舎内に入ろうというタイミングで、目の端に映った光景に気を引かれたのだった。

 駅前広場の片隅で、一組の男女が、なにやら、モメているようなのだ。

 キャッチセールスの男性が、気弱な女性をしつこく掴んで離さない。そんなふうに見えるし、あるいは――

 マンがガールを買おうとして、交渉がもつれてしまったようにも見える。

 男は、全身を紺色のスーツに固めた30代サラリーマンふう。対して女は、三つ編みの眼鏡っ娘。ワンピースにカーディガンという小娘らしい格好の少女だった。

 ふいに、「なんだよ、君の方から買ってくれと声をかけてきたんだろ?」という男の声が、風に乗って耳に届いた。

 ああ、そうですか。俺はいっぺんで納得する。

 それで──最初は、周囲の善良なる市民同様、そのまま無視して通り過ぎようとした。

 つぎの瞬間には、無責任だけどこれはマンとしての立ち振る舞いの勉強になるのではないか、と思った。

 最後の瞬間に、あれ? と思った。

 え──?

 危機的状況に陥ると、テレパシーが働くのだろうか。

 ガールが何かに反応するようにこちらに顔を向け、俺と偶然的に目があう。

「あっ……」これは俺の声。

「ちゅうきち君……」

 と、これがその少女の声だった。

 初めて見る。私服姿の、1-Aクラス委員長、成田陽菜(なりた ひな)、その人だった。


 マンが、こちらを胡乱(うろん)げに見た。ど、どうも、と俺は会釈した。間抜けみたいだが、それしか対処法しらんし……。

 ちっ、とマンが苦笑い。スマートにするりと立ち去る――

 これで、トラブルは終演した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ