“しいたけ”リピート
陽本しいたけ。
そう聞いただけで、日本人ならその風貌がパッと頭に思い浮かぶだろう。
団子鼻、鼻ひげ、丸めがね。つるッ禿に、お約束、頭頂にそよぐ一本の髪の毛だ。
銅像に形作る際、その一本毛が最大の難事となったのは有名な話。細くすれば目立たないうえに折れやすい。かといって太くすれば、それはもはや“角”というものである。
発注元とのぎりぎりの協議の末に太さが決定されたものの、引き継いだ製造サイドから文句が出される。こんな形状の一体像なんか、現在の技術レベルでは「作れない」と。すったもんだの末、“毛”は別部品で、ということに落ち着いた。頭頂に穴があいた本体に、“毛”パーツを差し込むという構造だ。
これがアダになった。
ことに、小中学校のガキんちょらの通学路上にあったものが、被害を受けた。
悪戯されまくり。
“毛”を引っこ抜かれるのはまだしも、その抜けた穴に、様々なモノが突っ込まれたのだ。チューリップが一本挿されたなんてのはまだいい。どことなくユーモアがある。
傘が突き立てられた。
ヘビ花火が詰められて火をつけられた。
最高にけしからんヤツがいて、高級松茸を生やせやがったこともある。
あるところでは、ぶっといヒマワリが豪快に刺さっていて、これは全国区のニュースとなった。
まさに、しいたけ爺さん、受難。
行政機関はヒマでなく、おおいに対処が遅れた。けっきょく、その地域の人々が、毛の根元に接着剤を塗布することでお茶を濁している……。
「……」
まあるい頭のてっぺんに、ひょろんとそよぐ、一本毛。その一本の毛があるために、自分はハゲじゃないと言い張る爺様であった。
では、その毛がなくなったら? 陽本しいたけは、何になるのか?
「……」
俺の指が疼いた。
しらず、右手が伸び、その一本毛にふれる。なでる――
――引っ張る。
「……ふふん」
動かない。
まるでヒマワリの根のような抵抗感があった。これが、その接着剤とやらの固着力なのだろう。だが――
この感じ――
この程度なら――
――ヤレる!
そう思った瞬間だった。
背中に、声がかけられた。