俺の大戦略
今回、社会的制裁を恐れず、やみくもなまでに、ひたすらに行動した理由が、これだった。きわめて個人的な動機。究極のところ、副本ゲットのためだったのである。
疑問は、おおよそ次の三点に集約されるだろう。
(1)しいたけさんの毛を抜くことに、どんな意味があるのだろう?
(2)どういう状態になったとき、「毛が抜けた」といえるのだろう?
(3)なぜこんなことが、等価交換のネタになり得るのか?
順に説明せねばなるまい。まず――
(1)については話が少々長くなる。
抜く意味は実は二つもあって、一つは自分の都合、そしてもう一つが他者の都合、だからだ。そのどちらにも、漫画“おなべさん”が、重要なファクターとしてかかわっている。
一つ目、自分の都合について。
これは俺ら一族、煙丸が、長谷村子先生に、ひょっとして挑発されていたのかもしれない、からだ。
いきなり、いったい何のことだと思われるだろう。申し訳ない、この件については何の確証もないことなのだ。子供を寝かしつけるときに語られる物語、平家に代々伝わる、都市伝説みたいなものなのだ。
“おなべさん”単行本、第二十三巻五十一ページ目に、こうある。
陽本しいたけが、『この一本の毛があるかぎり、ワシは禿ではない!』と見得を切るシーン。そのコマの枠外に小さく、先生の手書きで『イカナ ケムリマル トテ ヌケヤセヌ』と、はっきりと記述されてあるのである! この点についての説明はどこにもなく、関係者にとって永年の謎になっていて――
きっと何かの偶然、たぶん無関係であろうその一文を、わがご先祖はネタにして、面白がって、代々の子供向けの伝説にしてしまった。かくいう俺も、いまは亡き親父どのから、幼いころから聞かされ続けて、脳に刷り込まれているわけで、これが極めて個人的であるが、しいたけさんの一本毛に挑戦する、根本の、そのさらに根本の動機となっていたのである――
まず確実に“おなべさん”とは関係ないんだろうけどさ。そこは、夢みたって構わないだろう? 時代的には、ちょうど一吉のころだ。毛抜き術開祖と村子先生との間に、なにか縁があったのかもしれないと想像することは楽しい。
さて。次に二つ目。他者の都合としているところの説明をしよう。
ただし、現時点では明確にいえない。お出しできるのは、ヒントくらいだ。
それは、漫画“おなべさん”の、キャラ設定にある。
それによると、陽本家は、『日本の由緒正しき家柄』、つまり“日本の象徴”なんである。その当主が、しいたけさん、なのだ。
さすれば、しいたけさんをしいたけさんたらしめている、彼の象徴ともいえる、一本毛を抜くことに、ある意味付けがなされると、考えられないだろうか――
だいたい、ご想像がつくのではなかろうか?
ゆえに、他者の都合なのである。
(2)についてはどうだろう。
これは文字通り簡単であって……そして簡単ではない。
しいたけさんが一人だけなら、その毛を抜いたらそれでしまいだ。
だが――
俺の二人の正カノジョを通して得られた資料によると、しいたけさんは、全国に、三百人余、存在しているのだ。
一人だけ、一体だけの毛を抜いても、残り三百あまりの毛が健在ならば、「しいたけさんの毛を抜いた」とは、けっしていえないだろう。
かといって、順繰りに抜いていったとしても、時間がかかる。数がある上に、なんたって、全国に分散しているのだから。やり続けているその間に、やり終えた像を補修されたら元の木阿弥だ。
ということは――
やるんなら、時を合わせて、一時に全数を抜き取るしかないんである。
その手段で行うしか、「毛が抜けた」と認められないんである。
でも――どうやって? 俺一人しかいないんだぞ、笑?
そんな難事。
だれが、そんなこと、喜んでする、笑? 俺、笑?
さぁ、最後――
(3)についてだ。
推理の一助のために、ある事実をお教えしよう。
しいたけさんの毛を抜き盗ったら、それは窃盗罪だということだ。
告訴されたら、器物損壊罪だ。
警察が動く、ホンマモノの犯罪なのだ……。
ホンワカしたマンガキャラの、禿げ頭の毛を抜くという、ウケる子供の悪戯……じゃあ済まされないんだよ本来は。
以上が、こちらが用意する予定の、等価交換コンテンツの全容である。
ご満足いただけたであろうか――?




