失望した
ゴールデンウィーク最終日。明日から月曜日だというその日の夕方。俺はジーパンにパーカというラフな格好で、刷毛山駅前コンコースのベンチに一人、腰を下ろしていた。遊びからの帰り道、バス待ちってところだ。
充実した疲労感に包まれて、ベンチに脱力してるって体たらくだ、笑。
「うん……」
風が、とても心地よかった。
あとはこの平和な気持ちをキープしたまま、満足感のままに帰宅、就寝。そして明日を迎えられたら、このたびの春週連休は、大成功だったと誇ってもいい。やぁまぁ、べつに、条件つけなくても、大成功だったんだけどね。フフン♪ とにかくそうフィニッシュを決めようと、ぼんやり意識していたのだった。
「すべて、よし……」
ひとりでにつぶやいていた。
ところが。
残念ながら? 最後にもう一つ、モノゴトが起こったんである。
時間を確認して俺はベンチを立った。いや、小用を済ましておこうと思っただけだよ。
公衆トイレの建物は駅舎の外に併設されてあり、内部はごく普通。入って右側に、今も昔も同じ形の、小用の器具が4個並んであり、スペース空けて左側に、大用の器具、つまり個室が3室並んでいるって作りだ。
このとき誰も利用者はおらず、俺は無意識に一番手前の小用器の前に立ち、おもむろに膀胱の内容物を放出し始めたんだが――
まさに、盛大に音立てて大放出中のそのときだった。
「おい、“なかよし”、お前には失望したぞ」
と声をかけられたもんであるからこのときがこのときだもんだから飛び上がるほど飛び上がれないけど驚いたってもんである。あぶねえ危機一髪、おい――!?
首だけで振り向くとそこに。
「――」
そこに、俺は信じられんものを見たのだった。
そこに、三島銭右衛門瑛がいる?!
三島グループ次期総帥、“王子様”! 連休中だというのに、まさかそれしか着る物がないわけでないはずなのに、制服ブレザーというお姿だ。
なんで――?!
なんちゅう時、所に――
登場するんじゃワレは?!
「――」
どうしようもない。止まらん――
その音を盛大に御耳に御届けしてしまっているハズで、俺は、わかる、顔が火のようにまっ赤だった。
「~~~~」声にならないうめき声!
理解不能の羞恥プレイだ。
ところが。
残念ながら、まだまだこれから、これから――これからだったのだ!
コトがようやく終わり。滑稽なまでに堂々と? ジッパーをあげて、恥を堪えて振り返ったのだ、が――
「まずは、手を洗わせてもらおうか。話はそれか――」
「ふうん……。中々、面白い所だね」
「いきなり無視かよ」
「そこで待っててくれたまえ。僕もやってみよう」
「ぼくも、やってみようぉ――???」
あっと気づいたときには遅かった。
お留めする声が出る前に――瑛は、直近の器具を使用し始めたんである。そして、ああ、もう、手が届かない――
さぁ――
どうするよ?!
三島様を、こんなところに一人置き去りにするわけには、絶対いかん。
かといってこの位置だと、いろいろと、その、その、聞こえてしまう――
「――!」
俺の顔の血管に、いま、溶岩が流れ出した。
たまらず俺は逃げ出したんである。数歩、洗面コーナーに――
そこでハッとようやく気づいて、俺は蛇口を全開にしたのだった。




