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修羅場

 それからが修羅場だった。

 ベッドに無残な半裸姿で拘束された(りん)と、そのそばに棒立ちする(オレ)、という実にわかりやすい図である。

 解錠したという事実により、凜と親しい間柄であることは間違いない若い男が、目を丸くして驚倒の叫び声をあげたのもホント無理からぬことだった――

 だが、ここからだったのだ。

 恐ろしい、実に恐ろしいその狂ったような世界が幕を上げたのは――


 俺は最初その男のことを、俺同様の“ツバメ”ちゃんの一人か、あるいはひょっとして何か連絡しに来た“エージェント”の一人なのかと――恥ずかしながら保身の気持ちも手伝って――そうであればいいなと必死こいて願ったんだが。

 まったく違った。


「姉ちゃん!」


 と、背の高いその男の子が叫んだのだ。

 その瞬間、俺は真っ暗に絶望的になった。よりによって、姉弟だと?! 最悪すぎるケースじゃないか!

 ――!

 怒り猛った弟に血まみれにされて警察に突き出される俺の近未来の姿を予見して、びびりあがる俺――

 退学するのは俺のほうだったかと、戦慄する俺――

 動けない!

 そんな俺に――狂った世界がついに、その無慈悲な牙を剥いたのだ。

「姉ちゃん!」

 対して、姉と呼ばれた凛が、こう、応えてよこしたのだった。


「アアン、トーマくぅん、いいとこ来たーっ! お願い、ナカくんと二人がかりで来てぇ、凜を、凜をズコズコしてぇ! ウフン。早くはやくうぅぅんんん!」お尻ふりふりふり――!


 なんですと――!?!

 なんですと――!?!

 なんですと――!?!


 姉と弟が、ですと――?


「……」

 見やる。額に傷痕がある、タッパは俺くらいの男の子、顔面火のようにまっ赤――


『ア』

『ネ』

 と横に並べて、

“『初』めての女”、と読む――!


 ふいにソイツが俺の胸ぐらを掴むと、意外に腕力強く俺を外に引きずり出しにかかった。いや、それはこっちも同様で、俺もソイツの胸ぐらをぐいと握りしめ、同様に外へと引きずった。すなわち、二人してドタバタと加速がついてドアの外へ突き飛ばされように転がり出たのだった。

「――てめえ見覚えあると思ったら、“王子サマ”の腰巾着、“なかよし”じゃねえかッ」

 俺だって負けちゃいない。

「そういうてめえこそ思い出した。“額に向こう傷”のカッコ付け、ヘタレ棒振りだろう――」

 宮内十馬(みやうちとうま)。1-Eクラスの、たしか剣道三段だった。少なくとも簡単に勝てる相手じゃない。

「なんだとこの野郎!?」

 だが俺は余裕、クイと顎を部屋の方へしゃくったんである。

「実の姉ちゃん相手に“棒振り”しに来たんだろう? ヘタレで合ってるだろうがっ」

 真っ当にナンパに励み、その結果としてここに至った俺の方にこそ正義はある。正常(ノーマル)な分、(かさ)にかかってズバズバいってやったのだった。

 ぶん殴られた。十馬、激高する。

「――だったらてめェも同じ穴のムジナじゃねえかアホたりん!」

 まず一発殴り返してから、「はぁ?」と疑問符だ。「なんでや?」俺関西人じゃないけどさ。

「お前が姉ちゃんとヤッたとする。そしたら――」

「そしたら?」

「俺とお前は、“穴兄弟”ってことになる」なんと古くさい言葉を――ッ

「だからなに」

「俺と凛は姉弟だ。つまり、お前と凛も、姉弟だ」

「アホかああああああ!」

 さぁ、こっから、盛大な殴り合いが始まったのであった。

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