年上の女(ひと)
というわけで、俺は今、紅のSCのPSに収まっている。そう、凛を呼びつけたのさ。
俺サマを迎えに来い! ついでにちょっとつきあえ――!
だってしゃーねーだろう? 俺の股間が爆発したがってんだからさ!
いいよ、下品で。俺自身、不愉快だってことは自覚してる。だがホントどうにもムシャクシャしてんだから。いいから世界よ、今からすぐに俺の思い通りになりやがれって、理不尽な憤りを覚えるくらい。
いいんだよ、理不尽も一つの理。この世の中、理不尽のみが、崇高な魂を次世代に継承させられるのさ。そして魂ってやつは、とどのつまり女をモノにしたい王様の本能のことなのさ。自分で何いってんだかわかんねえけどよ、こんな、こう、もんもんとした気持ちを叩き付ける相手として、アダルトの凛は打って付けなオンナだってことなのさッ!
横っちょ、運転席の、ナイスバディな凛がこちらをチラ見して笑う。気に障ってますます不機嫌になる。これからどうにかしてこのオンナをコマシてやらんと――本能の衝動が静まらねぇと――さっきからそんなことばっか思ってる俺だった。最低かよっ?!
プックックッと、臙脂色の上品なスーツの凛が、ついに吹き出した。
「まんまと、“お父さん”に、陽菜ちゃん攫われちゃったねー。ウフフッ」
わざとに違いない、俺を焚き付ける言葉を吐く。
「~~~~」言葉にならない罵声を口ごもる俺。
すべては、あのメール。
あのメールが、俺にとっての元凶だった。
差出人は、“お父さん”。そのとおり、わがライバル、陽菜の実父だ。
内容は、「理由は不明だが突如休暇をもらえた」、というものだった。今、帰投中で、このぶんなら夕方には家に到着できるだろう――
さぁ、それからの陽菜が見物だったね。錯乱したかと思ったくらい。
もう手をつけらんない興奮状態。
「今夜しかチャンスがない!」そう叫んだんだ。
はじめ、何のことかわからなかった。だが、続けて彼女が口に出すことに――
「今夜だけなの。お父さんと二人っきりでいられるのは――」
……そう言えば、お母さんは、明日の昼までお仕事だったか。だが、それで、それが、つまり、なに?
「お父さん、一人で、僻地で、長い間、きつい仕事で、苦労してたんだよ」うん、そうらしいね?
「だから――」うん、だから?
「お父さん、とても“不自由”で可哀想なんだ」……押し黙る俺。
「今夜だけがチャンスなの!」……ますます押し黙る俺。
「一緒に、ご飯食べて」……。
「一緒に、お風呂に入って――」……。
「一緒に、一つのお布団でおねんねするの――」……。
「生まれたままの姿で――!」
俺、「……」
ああ!“『ハメ』る”と読んで、
“『父』る”、と書く!
男女比、1:10以上! その弊害がここに出た!
その認識が甘かったと反省するも、いや父と娘だぞ? 普通こんなこと誰が想像できる? それこそ不可抗力というもので、最早どうしようもなく。
観覧車が地面に到着するやいなや、挨拶もそこそこに、陽菜は走り去って行ったのでした……て顛末なんである。
凛が爆笑した。涙までにじませている。
「で、ボウヤはただ、指くわえて見送ったのでした、って?」
これには俺は反駁した。
「ふふん……」
かろうじてかもしれないが、あまりにもツレナイ陽菜に、一矢報いたのだ。“技”を仕掛けたんである。
ハコの中で陽菜の肩を抱いたとき、くちびるを重ねたとき――この後の成功を確信したときだ。それが、着信音と共にもろくも崩れ去ったと悟ったその時だ。
俺は彼女のうなじから、いわゆる特別な一本を、引っこ抜くことに成功したのだった。
「“三十ノ毛”。銘、“熾火”」
それは、精力倍増、絶倫へといざなう大技。その毛を一本抜かれただけで、抗しきれない激しい性衝動に襲われるのだ――!
「……」
そう、毛を引き抜くだけで。
人の、任意の毛を一本抜くだけで、各々望む効能を引き出すことができる、毛抜き術――
これが俺、鍼灸師、代々引き継いだ屋号、八代目“煙丸”の、陰の術だった。
平家秘伝、毛抜きの術。
その原理はこう説明される。
毛を抜く衝撃を以って、針同様の力を奮う。
時として、針ではいかぬ病に効く。
その箇所、その経絡も、針とは異なる。患体の年齢性別によっても著しく異なり、さらには毛の抜き方にも法がある。ただ引けばよいというものではない。
その技を特別なものとして、他家鍼灸術師には存在すら知られぬ秘術として発展させてきたのが、わが平家だった――
「……」
くすぶる俺。つまりは今回、
「お父様に、極上フェロモン娘をプレゼントしてしまうことになっちゃったわけなのよねー、ウフッ」
そういう結果になるんである、「ぐぬぬ……」
「さすが、八代目総領。敵に塩送るなんて、なんて度量が大きいのかしら!?」
「ぐぬぬ……」
「いまごろお父さん、ナカくんの術に感謝しつつ、陽菜ちゃんをおいしく頂いちゃってる最中だったりして」
「~~~~!!!」
また大爆笑だ――
美人に言葉でなぶられっぱなし。満足に反論できん俺。でも、ここら辺、ちょっと心が複雑だ。
正直いって、このとき俺は自分がまだガキんちょだと思い知るしか能がなかったといえる。呼びつけて車に乗ったはいいが、それからどうする? この魅惑的なアダルトと、どう会話を続け、どうすれば己の欲望の果ての望みの結果に持ち込められるのか? 五里霧中ってものだったのだから。無力感。まるでお手上げだった。
それが及んで、この、今の、美女にいびられる、いじられるって現状は、なんていうのか、逆に慰めになっているというか。
一言、バカな青二才、ガキだった、てことだった。
「ウフッ……」
それらすべてわかった上で受け止めて、リードしてくれたのは、年上の女。女神のような、この凛だ。
俺はかろうじて、こう、受け答えした。
「仕方ないだろ? 俺は毛抜きの技を磨きたいのに、そのチャンスがなかなかねぇんだから」
そして俺は、まるで“空の塔”から飛び降りる覚悟で、こう言葉を続けたのだ。
「――それとも、凛が手伝ってくれる、とか! ――かな? ――そうだったら。 ――なら。 ――その」しどろもどろ。
とにかく、精一杯の勇気をもっての、この言葉だった。そしたら。
凛の手が伸びてきて、右胸、乳首をつねったのである。
俺はもう、いきなりの、思いも寄らぬコトに、その刺激に、まだ15歳の男の子らしい可愛い悲鳴をあげちゃったもんで――超絶まっ赤な俺でして――
「少年! よくいった! 偉いぞ」なんだか褒められてる俺でして。
「ご褒美に――」ここで蕩けそうな流し目を送られた俺でして。
「あたしの部屋に行こう。うふッ、いっぱい、エッチしようね、ウフフフフフフフ……」
そして、腰から下の感覚が、砕けてなくなってしまった俺なのでした。




