キス
それからゆっくり走って小一時間。無事、自宅前に到着。
少ししゃべり足りない感を覚えたのが驚きだった。なんと車から出るのが残念な気持ちさえ抱いていた。
車中では時間が気にならなくなるほど会話に熱中して――結論から言うと、俺は凜にまったく夢中になってしまっていた。意気投合というか、つまりは何というか、凜のほうも――つまり、何というか、結果的に、俺のことも凛に、そうとう気に入られてしまって。つまり、その――
俺は!
俺は――凛と。“個人的”に、契約を結ぶことになってしまったということなのだった。
凜から、毎月10万エン、お小遣いを貰える。
「……」
言葉がない。出せるはずがない。
嗚呼、お金を貢いでもらうってことは、こんなに心を揺さぶるものなのか……!?
振り込みを確認したスマホを、俺はただ、優しく胸に抱く。これは凜なのだから!
車から降り、俺たちは強く引かれ合うように並んで地に立った。こうすると、ほんの少し、自分のほうが背が高いのがわかって、たあいないが誇らしく、嬉しくなる。
彼女が上目づかいした。
「じゃあツバメちゃん。早速だけど、少し返してもらおうかしら? ウフッ」
不意の口づけ。その痺れるような熱さに、俺はもう――!
もう――!
――!
「“ナカ”くんバイバイ」
余裕艶然な唇の笑みを残し、紅の車が華麗に走り去る。
呆然と立ちすくむこの俺は――
この俺は――
「――」
俺は両手で顔を覆う。
ああ!
この宇宙のなんの力学が働いたのか!
自分の意思なんぞまるで無視され、俺は――
無限ハーレム王の覇道の道を、今。
一歩、踏まされてしまった!
その、焦がれるほど狂おしいまでの甘い感激に――
このあとの、お袋のカミナリさえ涼やかに受け流せるほどのインパクトを、俺は身のうちに、心に、愛でるように感じてしまっていたのだった。




