098.決戦、溶岩竜
チート発現するので長引きませんでした……はい。
高位竜は、死なない。
そのことを初めて実感したのはいつだったか。確か、空を舞う嵐竜を倒した時の事だったと思う。
雷雲ごと首をはねて、確かに倒したはずだったのだ。
それでも奴は何年かした後に別の大陸で暴れているらしいと噂に聞いた。そんな相手が今、地上を走っているのだ。
(火山からは離れてる……火竜がおびき出しているのか?)
翼を持たず、大地を走る溶岩竜と比べ、火竜はカーラのように翼をはためかせている。
上空ではなく、低空をわざと飛んでいるようだ。逃げるつもりはないということだろうか。
溶岩竜が飛びかかる時には舞い上がり、ブレスとまではいかないが何かを吐き出す時には華麗に回避。
よほどの長い間、こいつらは争っていたのだろう。火竜の方に随分と余裕を感じる。
ただ、火竜の力では攻め手に欠けるであろうこともわかっている。ならば何をしようというのか?
どちらにせよ、このまま放っておくわけにはいかない。
そこで俺は、隠ぺいをかけていた気配をそのまま外に放出し、走る速度をさらに上げ、2匹の間に突っ込む向きをとった。
さすがにこうなれば気が付いたのか、2匹の顔がこちらを向くのがわかる。
戸惑いの火竜、怒りの顔の溶岩竜。となれば、狙うべき相手は決まっている。
「風よ舞え、山の彼方まで! ウィンドブースター!」
祈りと同時に風の上位神、ウィンディールの羽ばたきが耳に届く。足元に力が集まり、局所的に暴風が巻き起こる。
それは俺の体を放たれた矢のように撃ちだし、一気に2匹が視界の中で大きくなっていく。
『ガアアア!』
邪魔だと言わんばかりの溶岩竜からの赤い塊。ブレス未満の、原始的な魔法による火球だ。
無理やりに俺は自分の体へと再び風をまとわせ、ぎりぎりのところをひねるようにして回避、前へと進む。
いまだに状況を理解していない火竜は無視。
俺の力を感じ取っているらしい溶岩竜へと肉薄し、その横顔に渾身の蹴りを叩き込んだ。
響く轟音。
速度を減らした俺の代わりに、溶岩竜の巨体がしなるように曲がるのがわかる。
これでも折れないとか、全くどういう体をしているんだか。
「母なる海を大地に変えろ! グレイブアッパー!」
2匹の間にすべり込み、両手を地面についてさらに土のベヒモスへと祈りの詠唱。
大きな建物がいくつも入りそうな大きさの岩の柱が2本、飛び出す。それは1本は溶岩竜の顎を跳ね上げるように打ち、もう1本は浮いたままの火竜を打ちすえた。
『ギャアア!?』
「大人しく、してろ!」
溶岩竜の体があらぬ方向へ吹っ飛んでいくのを確認するが早いか、俺はそのまま飛び上がると魔鉄剣を抜いて火竜に迫る。
狙いは、翼。
首狙いは相手も警戒しており、抵抗が予想されるからだ。現に火竜も首を縮める姿勢を取っている。
しかし、俺の狙いは首ではないのでそれには意味がない。空中でそのまま逆さまになるようにしてさらに加速。
確かな手ごたえと共に、魔鉄剣は翼の片方を大きく切り裂いた。切り落とすには至らなかったけれども、これで前のように飛ぶということは出来ないはずだ。
よろよろと、火竜はその場を離れていく。しばらくの間、このあたりにいてくれるといいのだが……。
さらに追撃をしようと思った時、背後に巨大な殺気。間違いなく、溶岩竜の物だ。
その爪はあらゆるものを貫きそうな巨大な物で、体から繰り出される威力はとんでもない物だろう。
だからこそ、遠慮はしない。
まずは詠唱無しの魔法障壁を正面に集中。えぐれるようにその障壁に爪が食い込むが、貫くには至らない。
「叫び、拒絶せよ。イクシスト!」
闇の上位神、アンリの拒絶の力を借りた障壁が魔力障壁を飲み込むように展開され、暴君とでもいうべき溶岩竜の爪を完全に受け止めた。
じわりと、俺の足元が地面に埋まる。
もしも他の誰かがこの戦いを見ていたら、仮に防いだとしても突撃の勢いをどう殺すのか、と思うことだろう。
正解は、全力の強化魔法が俺の体を支えている。
いつかのトライデントのように、吸収・浸食を受けなければ正面から破られることはない状態だ。
溶岩竜の顔が驚愕、あるいは恐怖を浮かべた気がした。
それはそうだろう。恐らくは彼にとって、他の存在という物は自らの前に倒れ伏す相手でしかなかったのだから。
それが悪いという話ではない。高位竜はそれだけ存在、それは間違いない。
国中を上げて力を集め、それでもめんどくさいから他に行こう、
そう思わせて退けるだけが精一杯という存在。
だが、彼は不幸だ。
目の前に、勇者の力を持った俺が来てしまったのだから。
「お…おおっ!!」
相手の力が抜けた隙をついて、狙いもそこそこに魔鉄剣に魔力を込めて一閃。キインと、甲高い音を立てて魔鉄剣が鞘に戻る。
残るのは悲鳴のような声と、地面に刺さる竜の爪先。竜を切れた剣として、この魔鉄剣は唯一とも言える存在になるだろう。だが、そう何度も斬れそうにはない。
(まずいな、刃が痛んでいる)
当たり前と言えば当たり前の話だが、相手はおとぎ話にでも出るような存在だ。今の攻防で折れていないだけ、奇跡的な話だろう。
となれば後はあれしかないわけだが……今のところ、向きが良くない。
事が終わったら一振り作ってもらうことに決め、今は魔鉄剣を酷使することにした。
「悪いな。この後がつかえて……あ!」
視界の片隅で、火竜がよたよたとした速度ながら飛び去って行くのが見えた。あの方向は……アースディア!
咄嗟に追いかけようとしたが、溶岩竜はそれがわかっているのかいないのか、俺が横を向いた隙をついて飛びかかって来た。
『グウウウ!』
唸り声をあげ、相手にとっては小さく厄介であろう俺にその巨大な顔が迫る。
かみ砕こうというのだろうけど、そうそうその通りになるわけもない。素早く回り込み、足元の鱗の無い部分へと切っ先を突き入れ、横に流す。
僅かながら溶岩竜の体が切り裂かれ、赤い液体が大地を染める。
「ちっ……みんななら……大丈夫か」
イアには最悪、ためこんだ魔力は遠慮せずに使うように言ってある。後からいくらでも補充に付きあう、として。
その後も何度も体を交差し、溶岩竜の体に傷を増やしていくが致命傷にはならない。
それが逆に相手をいらつかせたのか、気配が大きく膨らんだ。
大きく息を吸って四本の足でしっかりと大地を踏みしめている。特大のブレスの予兆だ。
「ちい! 白い吐息よ、魂までも凍らせよ!」
そして、地上に灼熱と極寒が同時に現れる。反発する力は周囲の草木を巻き込み、大地をもえぐり、近くにたまたまいた魔物は全て息絶えたであろう衝撃が走った。
長引かせてはいけない。
そう感じていた俺は靄が周囲を覆った隙に、駆け出した。
向かう先は、溶岩竜のお腹付近。どちらを向いてもその先には山か、街がありそうだった。
であれば、大丈夫なのは上しかない。近づくにしても無謀すぎる至近距離。
相手にとってみれば、気配はあるのに見失う。そんな位置関係と体格の差だ。
そして俺は、何もない空間へと手を伸ばし、それを掴んだ。
熱さと冷気がぶつかったことによる靄を青白い光がこれでもかと照らし出す。
溶岩竜の動揺の気配が感じられるが、靄と光のせいで俺を見つけられないようだった。
(それでいい。知らない間に……終われ)
何年かぶりに、俺は聖剣の封印を解いて両手に握っていた。
その剣先はわずかに短く、明らかに折られていることがわかる。他でもない、俺自身が折ったのだから間違いない。
勇者の聖剣、それは自称正義の神様が自らの一部をそのまま剣にしたという、呼び方の割にとんでもない呪いの武器のようでもあった。
しかし、その力はこれまで俺が手にしたどの武器よりも上。そう……上だ。
「眠れ」
青の一閃。その衝撃は目の前の溶岩竜の体だけでなく、靄を、その先の空気を、そして空の雲も切り裂いて飛んでいった。
後ろに何かがある状態では振るうことのできない、最強すぎる刃。溶岩竜が倒れ、気配が無くなるまで俺は聖剣を抜き放った状態で止まっていた。
「せめて次の出番まで静かに眠っていてくれ」
それだけを言って、俺は残った体から瞳と、牙といっためぼしい物だけを切り取っていく。
「うるさい。もっと使いやすい力じゃないのが悪い」
手の中の聖剣がわめく。もっと斬れと。正義を実行せよ、と。
俺はその声を無駄に大量の魔力を込めることで押し返し、どことも知れない空間へとまた封印するように押し込んだ。
ミィ達は……無事みたいだ。
遠くに感じる気配とその動きに、俺は彼女たちの奮闘を感じ取って微笑む。
戻ろうと向きを変えたところで気が付く。このまま戻るとまずそうだなと。
牙等はイアに習った影袋に入れるとしてどうしたものか。ふと手が顎から首元へ。
(義身の首輪……これで行こう)
あの戦いの中でも壊れなかった頑丈な道具へと決まった魔力を流し込み、姿を変えていく。
白い服、金色の瞳。そう、白蛇様の姿だ。
「力を借してくれてなんとかしたよということで……まあ」
戻りながらどういえば速いか、色々と考えていく。
無事でいてくれるといいけれども。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




