095.1匹見かけて30匹!
わいわいと、子供らしく騒がしい状態での移動。
ドワーフの子供たちは、改めて見てもちょっと体格のいい人間にしか見えない。
特に女の子の方は人間とほとんど変わらない。ここから妙に力強くなるというのだから生き物は不思議である。
まあ、一番の不思議生物かもしれない俺が言うのもおかしな話か。
「そうなんだー」
「そうなんだよ。とーちゃんたちは大人しくしてろっていうけど、じゃあおこずかいくれるのか?って話さ。おやつも買えずに家にずっといろとかさー」
ミィもルリアもいつの間にか会話に混ざっており、どう考えても子供だけのお出かけのような状態だ。
逆に、こうして騒ぐことで寄ってくる相手と逃げる相手を区別してるのかもしれないな。
途中、いくつもの気配が遠ざかっていくのを感じてそう思った。
つまりはここで近づいてくるような相手は俺の出番というわけだ。
『ふふっ、世界最強の用心棒よね。贅沢な話だわ』
「かもな。だけどそういうのも大事だ」
ちらりと視線を火山に向ける。遠くにあるはずの火山は今日も白煙を細く伸ばしている。
思い出したようにわずかに赤い何かが波打つ。溶岩竜が寝返りでもうっているのだろうか。
『ガウ』
カーラ曰く、火竜は一度火山から離れてまた戻って来たらしい。
俺にはしっかり感じ取れないが、火山を見た時に一時的に感じる気配が減ったのはそのせいの様だった。
そんなこんなでやってきた川。かなり横幅があり、大雨の時には河原も浸水してきそうだなと思える物だ。
どうやら目的地はこの河原のようだけど……。
「あれ、何もいないよ?」
『変ねえ』
2人の言うように、見た目は何もいない。川の流れる音がするぐらいだ。
が、もしいないなら仕事になるわけもないし、俺達には見えないだけだろう。
「ううん。いっぱい、いるよ」
その証拠に、ルリアはそういって俺に抱き付いてきた。
目つきが何か嫌な物を見た時の物に変わっている。
「もじゃもじゃいる」
「よくわかるな、ほら」
なおも苦い物を食べたかのような顔になっているルリアに、男の子1人が驚いた顔を向けながら足元の石を適当に投げた。
「あっ!」
それは誰の声なのか、俺達が見る先で河原の中に石が落ちると同時に何かが無数にうごめいた。
そしてまた、静かになり何もいない光景が産まれる。
「岩に化けるやつなのか?」
捕食者から逃れるために動物がたまに行う不思議な行動だ。
葉っぱみたいなやつや、そもそも色が地面と同じ、みたいなのもそうだ。
魔物も森の中に住んでるやつは同じような色合いになるやつが多いんだよな。
逆に強い奴ほど、そうじゃなくなるのが面白い。
「かまれることもないんだけどさー、追いかけてる間に時間が経つんだ。だから危ない時があるんだよねー」
何かコツがあるのか、年長者な男の子が無造作に河原に歩き出すと、じっとしていたかと思うと素早く足元に手を伸ばした。
何事か口にしながら数歩影を追いかけ、その手には……何かの虫。
「よかった、今回は成功した。ほら、こいつさ。リーサっていうんだ」
そうして差し出してきたのは、大きさは人差し指ほどの赤い虫。
硬い甲殻を持ってるやつだな。
「こいつら、この辺の岩とかを食べて、畑に良い糞を出すんだよね」
「あれ、ドワーフさん魔法で何かやってなかった?」
役割というか何のために捕まえるのかはわかったけど、ミィの言うようにドワーフには専用の魔法があったはずだ。
「うん。それはそれとして、これなら専用の場所に岩を投げ込んでおくだけでいいからね」
なるほど、つまりは手段を増やすという考えらしい。
確かに何かに頼り切りというのは問題になる場合もあるからな。
採取というから植物でも集めるのかと思ったが、こういうことか。
確かにあの速さだと、捕まえるのに苦労するし、数を集めるなら人手がいるな。
「じゃああんちゃん、警戒お願い。たぶん、こいつを狙ってくるからさ」
「わかった」
河原に散らばっていく子供達。
住処のためか、それ以外の場所にはいけないのか。
リーサはあちこちで動く割に河原から出ていく様子はない。
「にーに」
『来たけど……あれでいいのかしら』
「なんか変なの」
さっそくやってきたらしい俺の受けた仕事の側の相手、このリーサを食べるらしい魔物が……ん?
「ドワーフ!?」
そう、街で見たような大人のドワーフのような背格好。
もじゃっとした髭も再現されている。ただまあ、変な姿だけど。
「メルン……スライムの一種か」
『ああやって近寄っては襲おうという訳ね。私たち相手にはバレバレだけどね』
今回はこちらが人型だからなのだろう。
一番知っているのだろうドワーフを模したようだが、ひどく曖昧な姿であちこちスライムの肌が見える。
歪な姿に少々気持ちが悪いほどだ。
「剣は微妙そうだな」
「凍らせる。それから」
そうして、河原に氷像がいくつも生まれていく。
元はスライム、動きはそう早くなく俺達の放つ魔法から逃げることも出来ずに凍り付く。
祈った先の神様はここは好きじゃないらしく、そそくさと帰っていった気もするけれども。
魔法自体は十分力を発揮し、動きの止まったメルンへと近づいて核を確認してそれぞれに砕く。
「おーい、こっちは何かに使えるのか?」
「何にもならないよー」
こんなぐらいの声ですらリーサは反応するらしく、視界の中で影がいくつも動く。
ふむ……。
見る限り、子供たちは苦戦はしつうも順当に捕まえられているようだ。
でもなかなか数がそろわず、大変そうだ。
集めた人数で分ければ、あまりお金になるとは思えない。
「お兄ちゃん」
「ああ、そうしようか」
何かできないのか、というミィの問いかけに追加のメルンを警戒しつつも考える。
ふと足元に感じたリーサの気配に剣の鞘で素早く突くと、そのままひっくり返って赤くなる。
衝撃には弱い、と。
『雷……は死んじゃうかもね。脅かすのがいいんじゃない』
「風の結界、張る」
河原の一角でリーサを追いかけて遊んでいるカーラを見つつ、そんな妹達の提案に俺は頷いた。
「うーん、あんちゃんたちに任せっきりってのは」
「俺達はずっといるわけじゃない。たまのおまけだと思っておけ」
皆をまとめている責任感があるのか、俺の提案に子供たちは予想外の抵抗を見せた。
だが、俺がずっとじゃないという形で説得をして、折れてもらった。
何をするかと言えば、限定された場所に音を立てようということだ。
「お兄ちゃん、こっちはいいよ」
『せーの!』
まずはイアとミィの手によって、見える範囲の河原を風の力を借りた結界で覆う。
この場合、障壁というよりは防音だな。
中身は見えるけど、明らかに何かが壁になってるのを俺も感じる。
「ルリア」
「(コクン)」
そして俺とルリアによって、その結界の中に別の魔法を。
威力なんて皆無の、脅かすための轟音を立てる魔法を使っただけ。
結界というにも微妙な風の壁越しにも何かわかるほどの音が中に響いたはずだ。
「うっわ、いっぱいいる」
子供たちの誰かのつぶやき通り、結界を解除した河原には無数の赤い何かがひっくり返っていた。
「ねえ、あんちゃん。集めるのは……」
「そりゃあお前達さ」
ええええーーという悲鳴を聞きながら、そこまではやらないよと答えて集めるのを見守る。
たまにはこんな依頼も楽しいものである。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




