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093.その兄妹、居候につき……

 

 ある日、俺たちは選択を迫られていた。

 と言ってもそんなに難しい話ではないのだが……要は、今戻るか残るか、だった。

 ざっくりとした状態だがドワーフとの交渉は順調で、新しい状況での最初の交易船として来た時の船が戻るという話だ。

 それに乗って帰るのか、別の時期に帰るのか、ということだ。


 どちらもそれなりに良い部分、悪い部分はあると思う。

 残る場合、ダンドランの情報が限られるというのが一番大きいだろうか。

 ただ、俺の心は残るほうに傾いている。気になることもいくつもあるから……な。


「お兄ちゃん、ちょっと行ってくるね」


「ああ、気をつけてな」


 本当は大人げなくついていきたいところだけど、それをやってミィに嫌がられても悲しいことになる。

 湧き立つ気持ちを我慢して、ミィを見送る。ふふ、お兄ちゃんは自制できるのだよ。


『それって褒めるとこなのかしら?』


「なんだ、ついていったんじゃなかったのか?」


 今行くとこよ、と言い残してイアは壁を抜けていく。

 ミィは今日は街の中で遊ぶんだとか。イアもついていくからよっぽど大丈夫だろうな。


「ルリアはいいのか?」


「……お話、聞いていたいな」


 どうやらルリアは、ドワーフたちの受け継いでいる話や、石板の状態で残してある技術などに興味が向いているらしい。

 俺も、仮に火事になったとしても残るようにと石板でも残すというドワーフの習慣に驚いたからな。

 文字だけじゃなく、図を入れることで書き込む知識の量を増やすといった部分には感心している。


 俺も実は色々と聞きたいことがあるんだよな……。

 今のところは居候のような状態でこの建物に住まわせてもらっているが、残ると決めたなら多少は稼ぐ必要があるだろう。

 この街に残るという魔族の担当者らには出かける旨を連絡し、ルリアと、なぜか日向に寝ていたカーラを腕に抱えて建物を出る。

 ミィについていかなかったばかりか、ぐっすり寝ているという珍しい状態だった。

 目を覚ました時にはあちこちきょろきょろしたけど、俺の腕の中だとわかったのかそのまま大人しく抱えられるがままになった。

 前より懐かれた感じがしてちょっと、嬉しいことだ。


 そうして2人と1匹で歩いていく先は、坑道で見つけた物を土地神様の物だと断言したドワーフのところ。

 あれから、地下にあった像を新しく安置しなおしたらしいのだ。

 なんでも、昔は同じ高さで街があったが地面の動きにより、像があった部分だけどんどん地下に沈んだのだろうとのこと。

 そのあたりを聞きに、ドワーフの家を訪ねる。


「地の底に眠る白蛇よ……我らに守りを与えたまえ……ん? おお、ラディ殿ではないか。何の御用かな」


「聞きそびれてた土地神様の話を聞こうと思ってな」


 集会場のような形の建物の一番奥、そこに飾られた像へと片膝をついて祈りを捧げていたドワーフ。

 祈りの邪魔をしてしまったかな?と思いながらも、部屋の隅にある椅子へと案内されたのでそれ以上言わずにそのまま座る。

 机の上にはカーラを乗せ、隣の椅子にはルリアだ。

 火竜なのに、こうしてじっとしていることも出来るので最近のカーラはなかなかすごいと思う。


「ダンドランには同じような話はないのか?」


「あるかもしれないが、広くは伝わっていないな。基本的にはやはり、昇った神々が中心だ」


 かつて、世界に降り立っていたという神々。

 俺が普段魔法のために祈る先もそんな神様たちだ。

 だけど、彼らのほとんどが既に地上から去るようにどこかに行ってしまっている。それを、昇ると言っているに過ぎないわけだが。


「なるほどのう。この像、何に見える?」


「人? だけど変。なんだか蛇みたい」


 ルリアの言うように、像は普通に見ると人間に見える。

 ドワーフとしての体格は見当たらず、敢えて言えば白い肌、鋭い目つき、とかだろうか。


「これはの、白蛇様の変化した姿を模しているそうじゃ。

 どうしても細身になってしまったが、ドワーフを愛し、共に生きてくれたという神様じゃよ。

 本体は今もこの大地の下に眠っていると言われておる」


 そういえばさっきも白蛇様って言ってたな。

 今も祈りに対して反応があるということは、実際に神様として存在しているということになる。

 いない神様には祈りは届かないからな……。


「ラディ殿たちがこの像を見つけれくれてよかった。これで他の国とも話し合いが出来るかもしれん」


「他の国? ああ、ドワーフのか」


 頷くドワーフから聞いた話から、この大陸には大きな国が3つあることを知った。

 1つは今滞在中のアースディア、これは大陸の北西部から西を収めている国だ。

 そして北東付近を中心としたガリオン、南東部から西を中心としたサリディア。

 この3つだそうだ。


 サリディアは火山から遠く、農業が鍛冶と同じぐらいには発達しており、他の2国に食料を輸出しているほどらしい。

 そして……ガリオンは俺たちにとっては少々厄介そうな国だ。


「人間とも交流が?」


「うむ。全くないわけではない、程度のようだが。やはり金属製品の買い付けに来ているそうだ」


 自然と顔がゆがむのが分かった気がした。

 俺も忘れそうになるが体というか種族は人間だ。

 首輪を外せば同じ姿が現れる。全ての人間が、というつもりは全くないが、不用意に姿をさらすのもどうかとは思っている。

 出来るだけ近づかないほうが良いのかもしれないな。


「白蛇様の信仰はどこにでもある。その代り、あまり強い信仰という訳ではないのだ。

 じゃが、この像があれば話はしやすい。その祈りが広がればいざという時の対処も今よりは格段に楽だろう」


 街で信じる者が増えれば、その結果の魔法も効力を増す。

 なるほど、ね。


「とはいえ、山のあ奴らには直接どうこうはできんのだが……」


 山のあ奴らとは言うまでもなく、火竜と溶岩竜のことだ。今日は静かだが、そのうちどうなることやら。


「自然災害のような物だからな、竜は」


「……人は被害を減らすにはどうするか、しか考えられない」


 俺の言葉を引き継いでのルリアのつぶやきが全てだった。

 少し落ち込みかけた部屋の空気を切り裂くように、ドワーフがぽんっと手を叩く。


「そうじゃ。しばらくは滞在するんじゃろう? だったら行ってみるといい場所がある」


 どこか浮き浮きとした様子で壁に貼り付けてある地図を剥がしてくるドワーフ。

 机の上に広がれれたそれはこの大陸の物だろう。

 指さす先にはアースディア、そしてこの街と思われる部分。


「ラディ殿たちが潜った場所とは反対側に、良いものがある。川のそばだが、それがちょうどいい温度になるのだ」


 ドワーフおすすめの場所というのは、温泉の事だった。

 なんでもただの温泉ではないらしく、時折色んな効果を発揮するのだとか。

 酔っぱらったようになる時もあれば、三日三晩寝なくてもいいような力を得ることもあるとかいうから少し謎だ。


「ミィたちが戻ったら行ってみるよ」


「うむ。毎日とは言わんが、たまには入って損は無いぞ」


 建物と場所さえあれば、俺自身はお風呂を作ることは簡単だけど、温泉という言葉には惹かれるものがある。

 俺は勇者時代に入ったことはあるが……ミィ達はどうかな?


「エルフの里には無かった。楽しみ」


 ルリアはいつもの無表情を少し笑顔に変え、若干浮ついた様子だった。

 そんな彼女の珍しい姿を見つつ、机の上で寝てしまっているカーラを抱え、借りることのできた建物、仮の家へと戻るのだった。

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リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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