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090.鉄の山にて

 

「にーに、すごいね」


「ああ。想像以上だ」


 ぶかぶかのフードを被ったままのルリア。その中から覗く瞳は好奇心に満ちていた。

 汚れてもいいようにと、地味目の色で統一した外套はなんだか同じ種族になったみたいで面白い。


 左手でミィの手を握り、右手でルリアを抱えている。

 大通り以外は段差が多く、歩くのが大変だったからだ。

 カーラは大人しくミィの頭の上に乗ったまま、火山の方をじっと見つめている。


 在庫や今後の生産状態を把握しないと先に話が進まないというところまで話が進んだため、ひとまずは俺達は自由な時間が出来た。

 その時間を使って、街の観光に出てきたのである。


 ドワーフの街は独特の風景だった。高い建物が多く、普通の家でも3階建ては当たり前の様だった。

 特徴的な物としては、街を走る溝。それは街の周囲にもあるらしく、その上を石畳のような物が塞いでいるが、川でもないのにそんな溝があちこちにあるのが謎だった。


『なんなのかしらね。水のように流れる物……もしかして』


 ふわふわと浮いたままのイアが見つめる先は、火山。

 大陸の中央にあるいくつもの火山は今も煙を少しだが吐き出している。

 ドワーフの住む大陸の象徴であり名前でもあるパラケルン。

 それは1つの火山ではなく、複数の火山が重なった連火山とでもいうべき土地のことだった。

 大噴火という物は記録にある限りは起きていないようだけど、小さな噴火は何年かごとにあるようだった。


 買い食いついでに露店で聞いてみると、万一の際の土石流を流すための場所であり、大雨の時にはこのあたりは水はけの問題から洪水になりやすいから、ということのようだった。

 たまの噴火でも雨が降った時には大量の灰が流れてくるそうで、この溝が無ければ街は飲み込まれているだろうとのこと。


「溝の掘り返しはどうしてるんだろうなあ」


「お兄ちゃん、あれがそうじゃない?」


 袖を引かれ、見た先にはドワーフが数名溝の中。

 そこには積み重なった灰のような、土のような塊たち。


『詠唱……ふうん』


「何かにかわってる。変換……?」


 ほのかに光った後、残るのは黒々とした土のように見えるモノ。

 ドワーフたちはそれを袋に詰めて別の場所から溝を抜けていく。

 どういう魔法なのかはわからないが、ああして有用な何かに変換しているのだろう。

 その後も買い物ついでに聞いて回ると、大体予想があっていることがわかる。

 たまの噴火による噴煙は屋根と魔法で防ぎ、最悪の場合の溶岩や土石流は溝で防ぐのだという。


 どうしてもその関係で木々や野菜は限られる。

 そんなことを解決したのが目撃した魔法だ。

 火山との長年の付き合いで生み出された専用の魔法。

 本来であれば硬く、細かく砕いていくには困難な溶岩を崩し、大地に撒ける土としていく魔法。

 俺の知らない神様に祈る、秘術として受け継がれる特殊な魔法だそうだ。

 存在だけは教えてくれたけど、実際の魔法は教えてもらえなかった。


 まあ、当然だろうか。

 そうして危険があるが、大地は力に満ち、鍛冶にも適した素材が手に入る土地。

 そんな場所にドワーフは生き続けているのだという。

 火山から離れるほど木々も豊かに育っているので、恐らく上空から見ると緑の輪っかのようになっているのではないかなと思う。


「にーに、これも良い奴だけど鉄」


「やっぱりか」


 客でにぎわうとある武具店。その外に置いてある数打ちの剣。

 具合を確かめるように構える俺の手の中のそれを見てのルリアのつぶやき。

 それは俺の予想を肯定していた。


 資源に恵まれているこの土地だが、何故だか魔鉄の類は数少ないのだと。

 いい武具ではあるのだが、魔法に対しては今一歩、というところか。

 それでもダンドランで流通している武具の多くよりもそこらで売っている武具の方が良質というのは恐ろしい。

 素材の分、魔鉄製の武具が上、というところか。


 お店の店員のドワーフや、実際に鍛冶をしているドワーフたちも口々に言っていることがある。

 やれることを必死にやって、なんとかしていくしかないんだと。

 素材を十分に生かしきっているが、それに限界もあることもわかっている、そんな言葉だった。

 素材が10ではなく5だというのなら、腕を10から15にして補えばいい。

 その考えは変わらないが、難しい部分もやはりあるらしい。


『やっぱりあの山かしらね』


「うう、もくもく怖いなあ……」


『ガウ……』


 滞在することになる建物に戻り、窓から景色を眺めている2人の言うように、この大陸の状況は火山に左右されている。

 ただ……この大陸で魔鉄の類が産出されないのもその火山のせいだろうなとも思う。

 魔鉄たちは大陸や海を流れる魔力の線上にある場所が影響を受けて産まれる。

 言い換えれば、ただの鉄にも長い間魔力を注げば魔鉄のような物になるのだ。


 その視点で眺めると、この大陸にはその線がほとんどない。

 正確にはあるにはあるのだが、地中深くを通って火山の真下を通っているのだ。

 火山たちがたまに噴火するのはそのせいだと思う。

 それでも良くないことばかりではない。


 噴火によって散らばった、魔力の影響を受けた溶岩たちはドワーフの秘術を経て、良質な素材となる。

 中には金属となる物もあるようで、それらの質は他の大陸の物とは比べ物にならない。

 平均的には質が上がっているが、パンサーケイブでの魔鉄のように特化していない、と言えるだろうか。

 ドワーフはそうした中で生き抜いてきたのだ。


「カーラ、あいつらはいそうか?」


『ガウ!』


 間違いなくいる、そうカーラは訴えてくる。自分の同族が、火山のそばにいると。

 火山を見る瞳には、感情があった。それは懐かしみや、同族への喜びというものではなく、敵対するかもしれない相手への、警戒。


 元々、竜種に家族という感情はあまりないであろうと思われている。

 子育てもせず、産みっぱなしなのがその最たる証拠だ。

 風竜は暴風の中を赤ん坊の時から浮いたままだというし、海竜等は水中に産んでそのままだという。

 もし、火竜が襲い掛かってきたとしても出来ればカーラには戦わせたくない。

 そう思うのは、俺のわがままだろうか。










「洞窟探検隊、準備は良いかなー!」


「「おー!」」


 こぶしを突き上げ、背負った荷物をがちゃがちゃと鳴らす2人のドワーフ少年。

 その後ろにいるドワーフの少女3人と、俺達。交渉がまとまるまでの間、何をして過ごそうかと悩んでいた俺達。

 ドワーフたちはそんな俺達に、鉱山の見学を勧めてきた。

 大きく拡張され、補強も済んだところであれば落盤の可能性もほぼないであろうとのこと。

 俺自身は退屈かもしれないが、イアやミィ、ルリアには十分だと思ったのだ。

 勿論、小さいままのカーラにもね。


 すると、どこからそれを聞きつけたのかドワーフの少年少女が集まってきて、自分たちが案内すると言い出した。

 大人のドワーフたちは止めようとしていたが、逆に俺から彼らにお願いをした。

 誰かに何かを頼まれるというのは子供にとって非常に大きな経験になる。

 それをダンドランでの獣魔少年少女冒険団で学んだ俺は子供たちに任せることにしたのだ。


 ミィがいつの間にか、先頭で音頭を取り始めたのは意外だったけれども。

 俺の背丈の2倍はありそうな坑道から、山の中へと潜っていく。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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