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089.お騒がせ兄妹、現る

 

─軍船


 迫る船を見た俺の印象はこれであり、恐らくは正解だ。

 突き出た船首には突撃用の角が供えられ、左右には巨大な矢を打ち出すためであろう装置。

 大きな筒はきっと中から魔法か何かを打ち出すためだろう。

 随所に金属での補強が施され、衝突したとしても逆に相手の方が打撃を受けるであろう防御能力、あるいは突破能力を備えていると言える。

 甲板にいくつもある何かの板のような物は、想像でしかないが防御のための道具であろうことは簡単に推測できる。

 海魔を相手にしても戦い抜けられそうな力の権化、それを前の船には感じた。


「ドワーフの軍船だ、間違いない。どうしてこんな場所に」


 旅に同行というより、普段ドワーフと商売をしているという魔族と獣人が一緒に呟く。

 やはり、珍しい光景らしい。なんとなく、船からはピリピリとした気配を感じるしな。


「アースディア国軍による臨検である! 船を止めろ!」


 魔法による拡声なのか、相手の野太い声がこちらにも響き渡った。

 何か思うところがあり、確かめに入る、そう言っている。

 こちらにやましいことはないので、不安は覚えながらも船を止め、相手の動きを待つことにした。


「何かドワーフの国であったのか?」


「わからんが……ただ事ではなさそうだ」


 ミィ達も一緒に甲板に立ち、魔族の男に聞いてみるがやはり答えは帰ってこない。

 わかってたらどんな超常能力者だ、ってなるよな、うん。

 やがて、相手の船から梯子のような物が伸びてきたかと思うとその上を思っていたよりきびきびとした動きで一人のドワーフが歩いてくる。

 装備からして、一兵卒ということはなさそうだった。


「何かありやしたか?」


「うむ……うん? 特に魔動砲も無いのか……変だな」


 そこそこ偉そうな立場のような気もするドワーフはこちらの魔族の言葉にあいまいに答えつつ、こちらの甲板を見渡すなり、首をひねってつぶやいた。

 魔動砲? あちらの船にある何かの筒のような物のことだろうか。


「魔動砲を買い入れたことは無いですぜ。旦那が一番ご存じでしょうよ」


「それもそうだが……な。何日も前から海の向こう側に無数の光が見えたと通報があってな。

 魔動砲の打ち合いでもあったかと思って警戒に出てきていたのだが」


 どうやらなじみの相手らしく、一人の獣人がそういって宥めにかかったところで思ってもいない言葉が飛び出してきた。

 つまり……その、俺達のせいだったのだ。魚が集まるからって調子に乗って練習がてら、騒ぎながら魔法を色々と実験していた。

 如何に威力なしで輝く魔法を撃つか、といった時などは乗組員総出で騒いだものだ。


 じわりと、そのことが皆に伝わったのか、ミィやイアですらじっとりと汗をかいている気がする。

 ちらりと見た乗組員たちも同様だ。船長扱いの魔族と獣人の男などは蒼白だ。

 ここは……うむ。


「犯人は俺だ。暇だったから空や海に向かって魔法を練習していてな」


「魔法だと? 報告によれば非常に多彩な色が光っていたというが……」


 その通り、と言って規模を小さくした光の魔法を試しに誰もいない方向へ打ち出した。

 祈る先は楽しいことが大好きな光の下位神。これに関しては中位、上位の干渉は無かった。

 それらの干渉があると攻撃力を持ってしまうことをよく知っているからだろうか。

 ともあれ、目の前で輝く青と、赤の光が舞うようにして放たれる。


「なるほど……これがたくさんとなれば誤解もするか。海を行く者にとって光は時に命を左右する道しるべとなる。出来れば夜は控えてくれ」


「迷惑をかけたことを謝罪する」


 指摘の通りではあるので、素直に頭を下げて事態の解決を図る。

 それが伝わったのか、元々言っただけだったのか、ドワーフからのそれ以上のつっこみはこなかった。


「アースディアに用があるのは確かなのだな。ならばこちらについてくるのだ」


「了解した。野郎ども、出発の準備だ!」


 少々の波乱はあったものの、こうして俺達はドワーフの国の1つ、アースディアの港に入ることができたのだった。







 ドワーフの主に住む大陸にある強国の1つ、アースディア。

 領土の中にいくつもの火山を抱えつつも、それによる被害と資源を両天秤としてなかなかに緊張のある生活を送っていると聞いている。

 海洋貿易はその生き方の1つであり、優れた技術から生み出される船は船団となれば海魔と互角以上に海でも戦えるという。

 そんな船が出入りする港の1つに、俺達は上陸を果たしていた。


「うにゃー! すごいね、お兄ちゃん!」


「にーに、手、離さないで」


 珍しい光景にはしゃぐミィとは対照的に、あちこちから響く音や声にびっくりしているのかルリアは怯えたように俺に抱き付いたままだ。


『海辺はどこも騒がしいわね。ドワーフともなればなおさら。この調子なら鉱山街は静かな時間が無いかもね』


 荷物を抱え、汗だくのまま船に歩いていく水夫らしき人達。

 船から降ろされたであろう荷物を前に、商談の割には怒号のような叫びで何かを言いあう男達。

 そんな男の耳を引っ張ってどこかに引きづっていく豪快な女性たち。

 テイシアでも見たような、騒がしい命の営みがそこにはあった。


「ラディ、我々はひとまずなじみの商店で話をしようと思うが」


「任せる。俺達は難しいことはさっぱりだからな」


 お兄様は、でしょ?とイアにたしなめられつつ、この道の先輩である水夫たちについていく。

 やってきたのは町の一角にある大きな建物。何かの事務所だろうか。

 中に入るなり、相手はこちらの何人かを見て顔を輝かせ、駆け寄ってくる。


「おお、よくぞまた来た! しばらく来なかったからな、心配したぞ」


 どうやらこれまでに商談をした相手の様で、再会を喜んでいるようだった。

 同じ様に笑顔で再開をたたえるように言う彼らの口から今回の訪問理由が短く伝えられると、ドワーフは俺、そしてミィ達を見る。


「買いたいと言えば売るが……必要なのか?」


 ドワーフが用意するような武具を扱えるのか?という疑い言葉。

 その気持ちはよくわかる。何かを口にしようとしたルリアやイアを押しとどめ、腰から鞘ごと魔鉄剣をドワーフに投げ渡した。


 ミィがいいの?と見上げてきた気がしたので頭を撫でてあげる。

 すりすりと手のひらに頭をこすりつけてくるミィを感じながら、驚きの顔で魔鉄剣を見るドワーフに笑って見せる。


「そこまではいかないけど、出来れば兵士全員が良い武具を身に着けるための道を作りたい」


「その通りだ。理想を貫くための力を手に入れたいのだ」


 あくまで今回は交渉の補助要員という形できているので話は経験者に戻すことにした。

 幸い、彼らはその意図を汲んでくれ、最初よりは建設的な話が始まっていく。

 といってもあまり細かい話は出てこない。

 既に交易として武具がダンドランとやりとりがあるのだから。


「要はもっと増産を希望する、ということだな。こちらとしては構わないが……対価はどうする」


「領主からは魔鉄の優先的供給を最初に提示するように言われている」


 にわかに部屋の空気が変わった気がした。いい意味での、熱い物に。


「魔豹ヴィレルが最初にその札を切る、か。その本気、受け取った」


 相手の代表らしいドワーフがそう言い切ると、逆に同席しているドワーフたちが戸惑いの表情となる。


「長老! そんなことを一人で決めては!」


「そうです。そこまでの価値が本当にあるのですか!?」


 当人たちを目の前にしてよく言ったものだが、いわんとすることはわかる。

 急に騒ぎ始める若いドワーフたちの声を、長老と呼ばれたドワーフは黙って聞いていたが、カっと瞳を開いた。


「ばかもん! どこを見ている!」


 叫んで立ち上がると、なぜかこちらに来てミィの腕をつかんだ。


「ひゃっ!?」


「この腕! 細いながらもしなやかで動きの良い、戦士の腕だ」


 続けて後ろで抱き付くようにしていたルリアの前に来ると、しゃがみこんだ。


「……?」


「この瞳、優しく、それでいてすべてを見透かすようなきれいな瞳だ」


 さらには驚きの表情のまま浮いていたイアの両手をがしっとつかむ。

 イアに触るためにしっかり腕に魔力が展開されている。

 見た目のわりに魔法も使うということか、意外だな。


『ちょっと!?』


「そしてこの娘から感じる信念!」


 さすがのイアも突然のことに抵抗できないようだった。

 ようやく手を放し、最後に俺の前に立つ。


「どれもこれも、お主が中心にいることがすぐにわかる。こんな関係を築けている者らがただ者であろうはずがない。そこに我は賭けるのよ。駄目だというならワシ一人でもやる!」


 叫びに、シーンとなる部屋。

 相当長老の叫びは衝撃的なものだったらしい。


 そして復帰して来たドワーフたちは、仕方ないなあという顔をしながらも嫌そうにではなく、びしっとした顔つきに戻って俺達を見、どこからか紙を取り出してきた。


「細かい打ち合わせをしよう。明日から倍にして、なんて言われても無理だからな」


 こうして、予定外の歓迎めいた叫びがありつつも、予定通りの交渉へと会話は戻っていくのだった。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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