008.妹、はじめてのかり
ひらがなで書くと何故こうも雰囲気が違うのか。
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その日、俺とミィ、そしてイアは雪原と林の境目にいた。
村からは徒歩で1刻ほど。 向かって右側、北の方には林が延々と続き、奥の方は森となっている。そんな林沿いにある街道のはずの場所を3人は進んでいた。
「ミィ、まだ行けるか?」
「うん。お兄ちゃん」
小声で後ろに問いかけると、ミィもまた答える。
もしかしたら疲労から声が小さいのかもしれないと考え、そっと後ろを向くとミィが大丈夫そうな顔でそこにいた。
膝の下まで埋まりそうな場所で、よく頑張っていると思う。
「? どうしたの?」
「いや、獲物は近そうか?」
ぴこぴこと耳が動き、きょとんとした目で俺を見るミィ。
きゅんときたが咄嗟にそういってごまかし……いや、気が付いているか、と促す。
そう、ここは雪原で一見何もないように見えるが幾つも命が潜んでいるのだ。
「たぶん右の林の境目ぐらいにいると思うんだけど」
(うむ、正解だ)
ミィの言うように、ちょうど俺達から見て右手の方にある林、雪が木に沿って固まっている裏側に獲物がいる。
ここからだと影になっているから、見ただけじゃわからない場所だな。
ちなみにイアは上空で変な奴がいないか見てもらっている。この周辺には少ないとはいえ、獣以外にいわゆる魔物も出るのだ。
大体は獣が変化した類の奴だけど、村の皆やミィには危険な奴も中にはいるだろうからな。
ちなみに、上は見ない。何でかって? そりゃあイアがはいてないからだ。以上、終わり。
話を獲物に戻そう。今日の狙いは雪ウサギである。
俺も数度見ただけだが、丸々として非常に味もいい。今年は数が多いようで、ある程度間引きも目的として狩猟の依頼を受けている。
新雪の上でも走れる能力を持っており、真正面から追いかけてはまず間違いなく捕まえられない。
俺は魔法をささっと使って終わりにできるけど、せっかくなのでミィの訓練も一緒にやることにしたのだ。
兄としては妹であるミィは自分で守ってあげたい相手なのだけど、ミィはそれでは嫌だと泣いたのだ。
ミィぐらい守りたい何かが出来た時、俺は2人いないのだからどちらを守るか悩むことになる。
そんな時、自分を選んで他の何かを見捨て、後悔する兄を見たくないとのこと。お兄ちゃんは感激でお腹いっぱいである。
「お兄ちゃん?」
「おっと。よし、じゃあ……狩ろうか」
ミィに袖を引かれ、現実に戻ってきた俺は気配を改めて確認してそっと姿勢を下げる。
雪ウサギが警戒心の高い生き物だ。気配も足音も殺して接近するか、その警戒心を逆手に取る方法になる。
イアなら……空からふわりと近づいてぎりぎりで実体化とかしたら一発かもしれない。
いや、意外と動物は鋭いからな、イアの普通じゃない何かを感じ取る可能性が高いか。
さて、我が妹はどうするのか。事前に大体の説明はしたので、何かしらの手段で頑張るだろうけど……ん?
既に狩りは始まっているはずなので口には出さない。が、何やら屈伸運動をしているミィの動きは謎だった。
ミィは意外と運動能力が高い。それは獣人の血統のせいかもしれないし、俺やイアと言う目標をよく観察し、動きを覚えているからなのかもしれない。
いずれにせよ……最近避けようと思っても突撃が避けられないときがあるのは間違いないのだ。
ミィに対して油断しているというのは確かなのだけど、不意の突撃をもろに食らってしまう場面が確実に増えてきた。となると……まさか正面から飛びかかるのか?
後でまた狩りの仕方を教えないといけないか……そう考えた時だ。
「えいっ! とやっ!」
ミィは可愛く叫ぶと、どこからか小石を数個、そして板切れを投げ放った。
投げられた小石は器用にも雪ウサギがいるであろう地点を取り囲むように落下する軌道を取り、板切れは妙な音を立てて飛んでいった。
(ん? この音……)
俺はその音に心当たりがあった。確か矢の先端に音が鳴る仕掛けを付けて飛ばす奴だ。
その時は味方への合図等に使っていた記憶があるが……。
板切れによる効果はてきめんで、ミィがそのまま飛び上がる間にも雪ウサギは逃げ出さなかった。
それどころか、感じる気配はその場で縮こまっているほどだ。
結果、ミィは見事に雪ウサギに直接迫り、捕縛することが出来たようだ。
「獲れたよー!」
ニコニコと笑顔でこちらに雪ウサギを運んでくるミィ。
その顔は誇らしげで、ちゃんと使った道具の回収も済ませたようだ。雪ウサギはミィの手の中でじっとしている。
「ミィ、今のは?」
「えっとね、村の人が教えてくれたの。ああやると鳥さんに襲われたと勘違いして、動かずに隠れるように縮まるんだって。石は先に投げると一度止まるの」
右手に雪ウサギ、左手に例の板切れを持ったミィが板切れを見せながらそんなことを教えてくれた。
小石を先に落下させることで雪ウサギに警戒させて動きを止め、そこに小動物を狩るような鳥が来たと思わせる、という流れの様だ。
(狩人の知恵という奴か……いつの間に)
俺の知らないミィと言う物に寂しいような気持ちが胸に飛来する。
ふと見ると雪ウサギの姿はじっとしているどころか、既に息絶えているようだった。
(おや?)
「ミィ、トドメは刺したのか?」
俺は敢えてミィが気にするのではないかと思っていた質問をした。
生き物を食べるというのはどういうことか、ちゃんと学んでもらおうと思っていたからだ。
それは思ってみない形で裏切られたようだった。
ミィは俺の質問に、表情は暗くしながらもしっかりと頷いたのだ。
差し出された雪ウサギはしっかりと首が折られている。
その耳をつかんでいるミィの手がかすかに震えているのを見てしまった。
(あっとこれは……)
『あー、お兄様が妹を泣かしてるうー! 我慢してたのに意地悪な質問するなんて!』
俺の失敗はイアが見事に舞い降りながら指摘してくれる事態となった。
ふぇ……と泣き出しそうなミィをそっと抱きしめ、謝りながら背中をぽんぽんと叩く。
ぐずりながらもミィが自分の考えを耳元で喋ってくれたことによればここで刃物で切り裂けば血の跡が残るし、その血だって有効利用できるだろうと考えてのことだった。
ミィを励まそうと口を開きかけた俺だったが、そんな俺からミィは離れ、ぐっと雪ウサギを突き出してきた。
「お兄ちゃん、これでご飯食べよ! ミィも、頑張るよ!」
涙をこらえ、しっかりとした声でミィは宣言し、何やらポーズを決めた。
『よく言ったわ! これからの時代は動ける妹よ! さあ、次ね!』
イアも何やら気合を入れた声をあげ、指さす先には雪ウサギの気配。
一体何匹狩らせることやら。駆けていく2人を見ながら、胸に飛来する感情に俺は立ち止まる。
家で静かに待っている妹が良いかと言えば、別にそうでなくても構わないとは思う。
一緒にあちこち行くことが出来ればそれはそれで楽しいしな。
ただまあ……手が離れていくように感じて。ちょこっと寂しいのだ。
でもミィだっていつか大人になる。そうなれば自分の人生を生きるのだ。そうなれば……なれば。
「駄目だ駄目だ、まだミィは一緒に暮らすんだ!」
俺は叫び、ミィ達を追いかけた。妹離れしないと? 大きなお世話である。
2人にすぐに追いついた俺だったが、自分の抑えていなかった気配で雪ウサギがみんな逃げてしまったと怒られてしまう羽目になるのであった。