087.少女二人相談中
亀の甲より年の劫、とはいつの世でも変わらないらしい。
ルリアに対して、昔を懐かしむようにしゃべる獣人のおじいさんたちを見てるとそう感じるの。
本人は余り気にしてないみたいだけど、小柄なルリアに聞かれれば、大体の老人たちは喜んで話をしてくれる。
ルリアの瞳の力があれば、彼らが嘘を言っていたら見抜けてしまうのだけど……。
『ねえ、さっきの本当?』
「たぶん。少なくとも、本人は嘘だと思ってない」
そういう本人も少しばかり、今の話には疑問があるようだ。
ダメ元で聞いたこと。獣人らにも魔王の遺物が引き継がれているんじゃないか、というお話。
驚いたことに、皺だらけのお爺ちゃんだけじゃなく、半透明で浮いている長老と呼ばれる人も心当たりがあることを言うのよね。
特定の誰かが持っているという話ではないようだけれど、語り継がれていることではあるみたい。
その1つが空を自由に跳ぶという飛翔靴。
魔王から授かり、それを身につけた獣人の戦士が魔族と一緒に戦ったという話。
北の地に現れたという髑髏杖以外に、魔王は話によるだけでも10種近い武具を使った記録がある。
そういう私自身の記憶にも10は行かなくてもいくつかの力を持った武具を使った記憶があるのだから間違いない。
中には部下に貸し与えた物というのもあるらしく、獣人の2人が言っていたのはこれの事だと思うけれど……。
だけど、不思議なことにそれらの行方は大体が不明なのよね。
今回の飛翔靴も例にもれず、そういう獣人がいたという話にとどまっている。
他にもいくつか聞けたけど、どれも噂の域は出ていない。
私の事だから、誰か1人の手に渡って遺恨を残すぐらいなら分散して封印なり、それぞれに引き継がせるはず。
そうしたら互いが抑止力になったり、誰かが一度に手に入れるのを防げる。
中には失われてしまったものもあるだろうけど、残っている物もあるんじゃないかと思ったようね。
『飛翔靴と魔導書、そして咆哮の首輪、か……魔導書はエルフなんだっけ?』
「そう言ってた。最長老に聞けば一発……だけど」
可愛らしい瞳をうつむき気味にしてしまうルリア。
嘘を見抜くというその瞳の力でエルフの大陸にいられなくなったルリアが今さら大陸に戻るというのもなかなか難しい話よね。
きっと、上層部にいるようなエルフの秘密というか嘘をそのまま暴露してしまったに違いない。
拝金主義とは言わないけど、最近のエルフは財宝をため込むのが趣味みたいな商売をしてるものね。裏金の1つや2つ、きっとあったんだと思うわ。
どこか人目のある場所で何かを口にしてしまったのでしょう。
素直な子だものね……。それにしても、あの獣人の長老は元気な物ね。
私とは少し違う形での肉体を捨てた姿。
なんでも今回ルリアに語ったように、獣人の歴史を語り継ぐため、らしいのよね。
獣人の中にいる魔法使いから専用の魔法で魔力を補充しているというけど、戦いは何もできないと言っていた。
私のこの姿も、獣人のそのあたりの物を改良というか自分なりに落とし直した物。
一度に魔力を消耗すると危険だけど、日常生活だけなら周囲から勝手にもらって維持できている。
お兄様みたいに魔力をくれる相手がいたらそれをため込んでおいていざという時にも使えるしね。
他にも肉体を保存し続けたり、色々と試しては疑似家族として扱っていたはずだけど……。
そのあたりの記憶もわざとなのか、曖昧。
そもそも伝承になるような強力な物を他の人に渡すようなことを良しとしただろうか?
そんな疑問もあるのだけど答えは出ない。今は現実的な話をしたほうがいいかしらね。
『エルフの大陸に渡るのは難しいとして、後どの辺が有望かしら』
「この大陸を探す……それ以外だとドワーフたち?」
遺物に届かずとも、ドワーフの作る武具という物は優秀というのは有名な話。
ダンドラン大陸の南東にある大陸で、人間も一部には出入りしているという噂だ。
このままダンドランで力を蓄えつつ遺物を探すか、ドワーフたちに交渉して武具を手に入れつつ、ついでに人間側の動向を探るか。
どっちもどっちってとこかしらね。
「出来れば一度ドワーフの大陸に行ってみたい」
珍しく、強めにルリアがそう言ってくる。
普段は物静かな彼女がそこまで言うのだから、何か気になることでもあるのかしら。
『問題はいざという時の連絡かしら……あの真珠、もう1つもらえない物かしらね』
無い物ねだりではあるけれど、あるに越したことはないと思う。
無いならないで……なんとかなるでしょう。お兄様がいないと何もできないという訳でも無いのだし。
行き方としてはニュークでも船の行き来が始まってるそうだし、一艘ぐらいは交易を始める船があるんじゃないかしらね。
問題はカーラを連れていくには厳しい事よね。うーん、あれしかないのかしら。
正竜や高位竜が使えるという、自分自身の大きさを調整する術。
私は見たことがないけど、かつての私は数回見たらしいのよね。
大きく見せるばかりだったらしいけど……小さくも出来るはず。
そうなったら連れていけるけど、ね。
『ひとまずは他の領地の具合を確認して、それで問題がなさそうだったらになるんじゃない』
「うん。私も足手まといにならないように頑張る」
自分が戦力としては前線に立てないことを気にしているらしいルリア。
そんな彼女の肩にふわりと乗って、囁く。大丈夫、と。
『お兄様は別に戦力として私達を集めてるわけじゃないもの。たまたま戦えるだけ、よ。だから焦ることなんてないわ』
「わかってるけど、後ろにいるだけじゃ少し、嫌」
ミィと言い、ルリアと言い、こういうところは頑固というか、なんというか。
いえ、こうまでさせるお兄様が罪作り、と言えるのかしらね。
ちゃんとミィは上手くやってるかしら?
朝みた感じだと、今日明日あたりに溢れそうだけど。
いざとなったらお兄様がなんとかして止めるだろうからいいんだけど……。
これで魔王候補というか魔王そのものが2人。勇者と魔王の違いを考えれば、超常者が3人もいる。
幸いにも今のところ、その力の発現は限られているけれども、そのうち隠しきれなくなるわ。
いつぞやの海魔に撃った大魔法も今じゃ使い手はまずいないはずだもの。
そうなったときに、逃げ出す以外の選択肢を取れるようになるためには私達のいるこの場所を確固たるものにしないとね。
そのための遺物探索であり、ドワーフの大陸への旅路。どうなるかはわからないけれど……。
「にーにやみんなと一緒なら、どこでも平気」
『そうよね、間違いないわ』
出会った時より肉付きの良くなってきたルリア。
そんな彼女の頭を撫でつつ、私は考える。
どうなったら自分たちが静かに暮らせるのかを。
全部を地に伏せさせるなんていうのは現実的じゃないわ。
かといって、名乗りを上げて新勢力を作るというのも少し違う。
何所か海辺あたりに小さな村で……というのも贅沢かしら。
駄目ね、一人だと上手く考えがまとまらないわ。
「にーにとミィちゃんが帰ってくる前にご飯の準備」
『そうしましょ。今日は何があったかしら』
何があっても、何もなくても1日は過ぎていく。
毎日毎日が掛け替えのない1日だとわかっていても、なかなか意識して過ごすというのは難しい。
そのことを実感しながらもどうしようもなく今日は過ぎていく。
明日は、今日より何かができると信じながら。
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増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




