表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
81/184

080.春の息吹

 

 水温む春。かつての魔王が張った大陸の多くを覆う結界。

 どういった仕組みなのか、今の俺にもわからないが、魔王1人ではできなかったであろう桁違いの規模の魔法だ。

 もう、儀式魔法と名付けるべきような代物だ。


 各地に埋め込んだ特殊な道具が大地の魔力を吸い上げ、それらが連携することで意図した相手をはじき、外敵を防ぐための結界。

 その結界は竜などの強力な相手は防げない。正確には、防ごうとしなかったのだとイアは言う。

 さらにドワーフやエルフ等の種族は弾かない、対人間のみの結界。

 中に入ってしまえば影響がないというのも無理やりに展開したせいか。


『竜を防ぐような結界なんて、無理やりやっても街1つが限界ね。効果を限定して、無理やりに無理やりを重ねてようやくこれなのよ』


 なんてことをイアはかつて言っていた。

 それだけ、かつての魔族と人間の戦いは実りの無い物だったのだろう。

 人間だけはここに来させたくない、そんな状況だったと思わせる。


 そうしてまで守った大陸の中で、その守った魔族が互いに争うであろう状況。

 かつての魔王が今を知った時、どう思うのか。それ見てごらん……?

 それとも、嘆きか。あるいは……。


「あ、まだいた……にーに、畑の時間だよ」


「お、そうだな」


 洗い物を終えたルリアに呼ばれ、考え事の世界から帰ってくる。

 冬の間に頑張って開墾した場所へと種まきの時間だ。

 考え事をしていたらいつの間にかいい時間になってしまっていたようだ。


 外に出れば、同じ目的らしい人たちが次々と街の北である畑に。

 街の南側は難民としてやってきた人たちが使う場所なのである。

 水源は主に井戸だが、多くの住民が簡単な魔法なら使えるようになっているのでそれぞれに分担したり、得意な人がまとめてまいている。


「すっごい回転してる……」


「朝から元気だなあ……」


 目を白黒させるルリアの視線の先では、冒険団に所属する一人の魔族の男の子が、既に種まきの終わった区画へと朝の水やりとして両手から水をまき散らしながら走っている。

 本人は攻撃魔法が使えない!って嘆いているらしいけど、こういうことに役立てるというのも才能だと思うんだよな。


 さて、既にミィとイアは来てるはずだけど……いた。

 他の子達と一緒に、撒く種を籠のような物に入れて談笑中だ。


「あ、お兄ちゃん!」


『あら、ようやくね』


 こちらに手を振ってくる2人に、遅れた、と言って合流する。

 と言っても俺の場合、万一の場合の護衛の名目なのだけども。

 大分開拓や開墾が進んだとはいえ、このあたりはまだ自然が多い。

 森の中から魔物やそれに近い獣が出てくるときもあるのだ。


 掛け声も勇ましく、子供たちが種まきを始める。中には少しは飛べるのか、浮いては降りるを繰り返す魔族の子もいる。

 日差しの本番前に1度目の収穫が可能らしい育つのが速い品種らしいから速ければあさってには芽が出て来てるんじゃないだろうか?

 俺はそんな彼らを微笑ましく見ながら、一応森を警戒する。


 雪解けの春。冬の厳しい時期を生き抜いた生き物が動き始める頃だ。

 それは良い動きもあるだろうし、一部は獲物を求めて動き出す嫌な時期でもある。


「! ちっ!」


 耳に届くのは森にいる風切り鳥の悲鳴。

 繁殖力が非常に高く、危険の多い野生の森でもあちこちで見ることのできる鳥だ。

 逆に、彼らがいない森というのは何かが起きているか、何かがいるということだ。

 そんな鳥の叫び声、それは襲われた時の物。


(近いな……)


 畑にいる皆に断りを入れ、念のためにそちらへ。

 万一、厄介な相手だった場合には素早く仕留めなければいけない。

 火トカゲとかじゃないといいのだが……。


 森に分け入ってすぐ、地面には血の跡。風切り鳥の物だと思うが、鳥自体はいない。

 持ち去られたか……あるいは。生じる気配は……真上!


「っと」


 生き物というのはすごいもので、勇者の力を持つ俺でも森の他の気配と区別がつかないように溶け込んでいた相手。

 頭上からの奇襲は不発に終わる。口にしたままの風切り鳥のせいだ。

 木の上から飛び降りてきたのは、大きな体の猫……じゃないな、なんていうのだろうか。

 姿自体は猫なのだが、大きさが違う。ミィを背中に乗せて走れそうなぐらいだからな。


 見る限りはここよりもっと北、寒い土地で生きてるのだろうと思う。

 何故なら、毛皮が白色を中心としており、雪の中であれば目立たないような格好だったからだ。


「獲物を離したくないほど餓えている……か?」


 俺がそういったところで、猫もどきが口から風切り鳥を離す。

 どうやらこちらをそうでもしないといけない相手だと認識したらしい。

 ぐぐっと姿勢が低くなり、飛びかかる姿勢。どことなく、本気のミィを感じさせる。


「逃げるなら追いかけない。っていっても伝わらないか」


 ここに彼、あるいは彼女が来てしまった理由を考えると少々同情が沸かないわけではないが、これも生きるため。

 小さな鳴き声1つ、一気に躍りかかって来た猫もどきをすれ違いざまに一閃。


 僅かに遅れて、俺の髪が少しハラリと切れ、首が離れた猫もどきの体が地面に落下する。


「色々と敏感な獣や魔物が南下してくるほどの状態……とは思いたくないな」


 本当ならば猫もどきは北の地でいつも通りの生活をしていたのだろう。

 不慣れな、隠れるには適さない場所に来てしまったのは何か理由がある。


 街に持って行けば何かわかるだろうか、と思いながら念のために血抜きをして凍らせる。

 引きずりながら畑に戻ると、何人かが俺と、獲物を見て手を叩く。彼らにとって怖いものでもあり、場合によって食事に肉が増える嬉しいことでもあるのだ。

 残念ながら今回の相手は先に知っていそうな相手に見せるので食べることにはならないような気もする。


 その後は気配自体はいくつか感じる物の、こちらの脅威となるようなことは起きなかった。

 予定の範囲の種まきを終え、分担して水も撒いていく。

 俺は手加減できるとはいえ、下手にやると調子に乗った神様が大雨を降らすからな。

 精々、家のお風呂ぐらいに狭くやるのがちょうどいいのだ。


『お兄様、ちょっと試してみない?』


「何をだ?」


 ミィと一緒にふわふわとこちらにやって来たイアが珍しいことを言いだした。

 普段なら、自重しなさいって怒るのにな。


『こう……土の魔法で、大地を励ましたりできないかなあって』


「あー……なるほど」


 大地を励ます、とは大きく出た物だがやる価値はあるだろう。

 パンサーケイブ付近の土地が外より豊かなのは間違いないが、それでもここのような、今まで荒れ地だった場所が畑に適しているかどうかは未知数だ。

 それに、実際に大地の神様に祈る魔法の中には攻撃魔法のほか、感謝をささげるような物もあるらしい。


 他にも魔法を使いたいという子供や大人を引き連れ、畑の中心に。

 思いつくままに祈りの句を唱え、地面に手をついて力が広がるように言葉をつぶやく。

 そうしてみんなの両手から魔力が広がり、それは複数の茶色の光となって周囲に広がっていく。


 効果はともかく、成功だと思う。

 広がる様を見送りつつ、その光の先に目をやっていたときだ。

 地平線に、人影が見えた。


「イア、ミィ。戻る準備を、ルリア、ここにいて相手を見てくれ」


 新たな難民……にしてはここからでもわかるしっかりした足取り。

 新たな波乱の予感がした。







ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ