079.備えは続くよどこまでも
俺のこの先の生き方に課題を残しながらのワイバーン討伐。
ついには20近い数のワイバーンが俺達の前に沈んだ。
性懲りもなくというべきか、脅した時にその場にいなかったのか、追加のワイバーンが早朝に襲い掛かってきたのだった。
イアの影袋に入らない分は適当に生み出した土と岩の台車に乗せ、パンサーケイブへと戻った俺とイア。
2人を待っていたのは、獲物をどんどん運んでいく街の皆と、少しあきれた様子のヴァズだった。
倒せるなら倒してほしいと言っていたのにな、ひどい奴だ……ちょっとばかし、倒し過ぎたような気がしないでもない。みんな喜んでるからいいよな?
「どうした、病気か?」
「……わかって言っているだろう? かなりの数だな」
喋る横ではイアが次々とワイバーンを取り出し、その度に街の人々から歓声とどよめきが上がる。
いくらかはワイバーンに対する恐怖の声だけど、大多数はそれがここに倒されているという驚きと喜びの声だと思う。
「大喧嘩しているところに出くわしてな。そこをちょちょっと奇襲を」
「そういうことにするしかないか……。この様子だとまだいそうか?」
さすが頭脳担当のヴァズ、気が付いたようだ。
もしこれでワイバーンが全部なら、もう少し違う感じで帰って来たであろうことを見抜いたのだ。
「軽く脅しておいたが、ずっとという訳にはいかないと思う。対空用の柵や飛び道具を配備すべきだな」
「なるほど……。だがここはあの巨体が仇となるな。すぐに見つかる」
短い会話だが、対ワイバーンの基本的な方針がくみ上げられる。
ワイバーンは夜には飛べないという性質を持っている。
しっかりと見張りが立っていれば発見は容易であろう。
火トカゲの素材やカーラ協力の元の素材などを使えば、ブレスもどきの防御もかなりの物になる。
後はそれぞれの迎撃でワイバーンの1頭や2頭はなんとかなるだろう。
問題はどこまでこっちにやってくるか、だが……。
「最初はやってくるだろうが、そのうち来なくなるのではないか?」
「そのぐらいの頭はあると思う」
「そうなると最初の討伐は、殺さずに撃退にとどめるのもありか……」
痛い目を見ると動物もそのうちそれを覚えるというのはよくある話だ。
だからこそ、畑を荒らす相手への対策は討伐以外に、嫌な思いをさせるという手段があるのだから。
ワイバーンにとってあの山が十分かどうかは疑問が残るが、こっちにくるとひどい目に会うぞ、とわかっていけば襲いに来ることは減るだろうというのはいい考えだと思う。
「そうなるとちょうどいいな。母上がこちらに来るらしいのだ」
「ヴィレルが? そうか、フロル側は安定してるのか」
よく考えてみれば、フロルは今、周囲を安全な土地に囲まれているのだ。
南はニューク、北はパンサーケイブと協力関係にある街達。
西はテイシアと東はライネルと完全に未開の土地、という物がない。
フロルを中心に、南東部の開拓は順調らしい。
魔物の生息域を貫くように街道が作られ、人と物の行き来が活発になっているようだ。
「母上は常備軍、つまりは組織だった兵隊を設けようと考えている。
境界の土地ほどその需要は高いからな……すぐにでも募集が始まるだろう」
常備軍、か。出来れば戦いは無い方が良いだろうけども、現状から行くと数回のぶつかりは回避できないだろうと思う。
結局は力と力がぶつかるのか、という少し悲しい気持ちは胸に隠し、考えをヴァズの語った内容に向ける。
「武具もそろえて鍛錬も協力した物に、となれば多くの魔物に対応できるだろうな」
「ああ。ワイバーンに集中した攻撃をする、といったことも出来るようになると思う」
最後の1頭が運び終わったらしいワイバーン。地面の血の跡だけがその存在を思い出させる。まずはこれらの解体からか。
そうして1週間後。
パンサーケイブにヴィレルが到着し、街は以前のようにヴィレルを中心とした組織となっていくことになる。
これまで、自主的に戦いに挑んでいた人や、冒険者として大陸を渡り歩いていた面々を直々に勧誘し、常備兵がまとめられていく。
その分、今まで戦いにも参加していた人の中には農業などの裏方に専念することを決めた人も多い。
補給がしっかりしていないと兵士も支えられないわけだから、これも重要な役目だ。
郊外の畑や土地にはその兵士達から巡回が組まれ、大きな開拓街、といった空気も持っていたパンサーケイブはどこか重厚な、軍隊のいる街の空気を帯びていく。
それは否応にも、住人に今後の戦いを予感させる。
子供達もそれを敏感に感じ取っているのか、パンサーケイブでの獣魔少年少女冒険団はその活動の多くは街の外となっている。
少しでも周囲の危険度を減らしたいという思いの様だった。
危険ではあるが、年長者や俺達が付きそうことで彼らは確実に力を得るようになっている。
集団での魔法攻撃は思った以上に強く、イアとミィのように、一緒に魔法を放つことでその力が増す組み合わせの子達も見つけることができた。
どうやら魔族と獣人といった異種族の場合、相性がいいとこういった現象が起きるようだとわかったのだ。
それは自然とヴィレルまで話が上がっていき、編成にも生かされるようになる。
そんな中、子供たちの間である遊びが流行っているらしいことを聞いた。
聞いたのはイアとミィで、ルリアも肯定するのでどうやら結構な広がり方のようだ。
その遊びとは、相手に二つ名をつけるということ。
どうも、ヴィレルの魔豹といった名前が子供達には妙に格好良く映ったらしい。
まあ、わからないでもないな。人間の世界でも、国を代表するような戦士には二つ名があったし、そういう俺もきっと自分の知らない場所でいろんな呼ばれ方をしていたに違いない。
では我が妹たちはというと……なんだかひとまとめに呼ばれてるらしい。
「えーっと、まずミィがクリムゾンウィッチだって。火の魔法が得意だから?」
手元の紙を見ながらミィはどこか嬉しそうに教えてくれる。
自分が認められたような気がして嬉しいのだろうと思う。
『ファントムウィッチですって。夜に脅かしてあげようかしら』
浮いたり透けたりするからだと思うが、イアはそんな名前。悪い気分ではないらしいな。
「にーに、バイブルウィッチだって。私、本?」
エルフの名前に恥じないだけの魔法を一通り扱いつつ、ミィ達の解析担当ルリアは首を傾げている。
まあ、本というよりは知恵袋と言ったところだと思うが……。
魔法を使う少女たち、ってことかぁ。
「もしかしてカーラも?」
今日も工房に遊びにいっているカーラの事を聞いてみると、3人とも頷いてくる。
そうか、カーラも女の子だもんな。
「えっとね、スカーレットウィッチだって。なんだっけな、爪ですぱーんって切った後に血まみれだったんだって。ちょっとかわいそうかも」
なるほど、女の子の二つ名としては少々物騒な意味だな。
今度慰めてあげないといけないかもしれない。元気に報告してくる姿は微笑ましいものだ。
どうやら他の子達も互いに二つ名をつけあってるようで、一部の大人にも流行っているとか。
大人はやめておいた方が良いような気がするなあ。
それを口にするのも面倒なので放っておくことにした。
『なんでも私たちを合わせて、まじかるシスターズとか呼んでる人もいるのよね。みんな種族が違うから面白いみたいよ』
言われてみれば……魔族、獣人、エルフ、そして竜。あり得ない組み合わせなのは間違いないな。
時々、春の気配を感じる日々。不気味な沈黙の姿勢を北が貫く中、俺達は戦いの予感にそれぞれに力を蓄えていく。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




