061.未知との遭遇
最近シスコン成分が薄いです。気をつけねば。
テイシアでバイヤーから受けた不思議な依頼。
その調査をしていた俺達は、街から少し離れた岩場で明らかに怪しい人影、いや、海魔を見つけた。
こちらに気が付かれない様に遠くから、しかも隠れて観察する。
大きさはミィ以上、ヴァズ未満というところか。
俺の見たことのある指揮官級の海魔と比べると二回りほど小さい。
横には船から奪ったと思われる小さめの木箱が1つ。それを抱えるだけでも限界の様な体格だ。
(子供……とするには大きいけどな)
体のあちこちにヒレがあり、顔も丸くした魚をそのまま取りつけたような物だ。
少々面白味のある顔だが、海魔たちはたった1人でも無数の眷属を呼び出すこともある。
何より、物事を考える知能がある存在というのは非常に厄介だ。会話が通じれば交渉の余地がある相手もいないわけではないが、今回の相手もそうだと考えるのはまだ早いだろう。
(ここで仕留めるべきか?)
そんな考えが頭をよぎるのもしょうがないと俺は思っている。
実際、かつての勇者時代の戦いでは、たった1人の海魔の将軍が率いる眷属たちに人間の国が1つ、滅びかけていたのだ。
何とか救援が間に合い、全滅は免れたけど立ち直るのに相当な年月を必要とする状況だった。
今見えている海魔と、他にもいるとしたらテイシアどころか、他の魔族領も危ない話だ。
「あれ、ご飯食べてるの?」
『だと思うけど……うーん?』
「あきらめた……おいしくなかった?」
力の抜けるような3人の感想に、剣に手を伸ばしていた俺は自分がばかばかしくなった。
まずは、対話でいいだろうと思いなおす。ただ、いきなりここで出て行っても相手が逃げるかするだけだろうから、しばらくは観察だ。
仲間もいるならそれも確認しないといけない。
小さな海魔は海藻を打ち捨て、木箱を抱えてどこかへと歩き出す。
それはテイシアとは離れる方向になる切り立った岩場だ。
(なるほど、どこを寝床にしてるにしてもこの中ならそうそう見つからないな)
沖からは岩が邪魔で見えないし、陸からもわざわざ行くような場所でもない。
杭を逆さまにしたかのような岩の間をよじ登り、海魔は奥へと消えていく。
「よし、近づこう」
俺の言葉を合図として、3人が後ろから同じようについてくる。
音を立てないように気を付けつつ、岩場へ。足元がすべるだろうから、よりゆっくりにだ。
少し進んだところで、波が打ち付ける音に混じって海魔と思われる話し声が聞こえてきた。
「将軍、今日も食料ではありませんでした。その代り、清潔な布は手に入りましたよ」
「仕方あるまい。磯の魚だけでは限度があるが……そのぐらいだな。くくっ、打ち上げられていたアレをかじったな? 口元から匂うぞ」
若く感じる方の声は先ほど外を歩いていた方だろう。
そうなると、将軍と呼ばれた側が問題だ。声には張りが無く、消耗を感じさせる。
(ふむ……何かあって隠れてるといったところか。今の笑った感じ……どこかで?)
海魔にとって陸は、俺達にとっての海の中のような物。
行動できなくはないが、制限を多く受ける長居したくない場所のはずだ。
後ろを振り返ると、3人とも壁に張り付くようにして頑張っている。が、カランと、ルリアの足元から小石が落ち、音がしてしまった。
「誰だ!」
「誰だと言われて出てくるばかりと思うなよ? ま、今回は出てきてやったが……な」
将軍と呼ばれた方と思われる相手からの声。
このまま隠れて出てきたところを奇襲してもいいのだけど、どうも思ったものとは状況が違うと思ったので敢えて挑発的な言い回しを口にしつつ、俺だけ岩場の上に立つ。
「魔族!? 私がつけられたみたいです。くそっ!」
若い海魔がどこに隠し持っていたのか、モリのような物で俺に突進してくるが、遅い。
「よっと」
「うわっ」
ただでさえ良くない足場を駆けあがってくるのだ。ちょっとしたことで姿勢を崩し、転がる。
そのまま先ほどまで海魔自身がいた、岩場の中の平たい部分へと転がっていく。
(ふうん。あれだな、潮が大きく満ちた時にはここは沈みそうだな)
元々自然に削られてなったのか、彼らが削ったのかはわからないが、海中で息ができる海魔が隠れるにはもってこいの地形だ。
目に入る2人の海魔。1人は先ほど転がした若い方だが、もう1人は年かさに見える。
あちこち怪我をしているのか、座り込んだままだ。だが、瞳は死んでいない。
というか……この顔、体格……もしかして?
「1つ聞きたい。最近積み荷をこっそり持って行ったりしてるのはお前らか?」
「だったらどうした! 野蛮人どもめ!」
視線は将軍と呼ばれる男へ向けたままの問いかけに、若い方からの感情の乗った叫び。
野蛮人、ね。
まあ、立場が変われば呼び方や評価も変わろうという物だ。
それにしても、海魔自身は自分を人だと思ってるとは驚きだった。
魔族や獣人、エルフやドワーフも見た目は違えど人、という評価なのだから当然かもしれないが。
「仕方あるまい。幾度も襲われ、家族を失ったとなれば海魔全体がまさに海の悪魔と呼ばれるのも道理だ」
「何を!」
「待て」
俺の挑発に若い方が乗り掛けたところで、制止の声。
座り込んだままの将軍の顔が苦笑にゆがむ。
「言われるのは年寄りの方で良い。魔族よ、問いかけの答えは肯定だ。
見ての通りの状態に加え、外に泳ぎだせない事情があってな。ここで療養中というわけだ」
「話が分かるなら俺はそれで構わない。水夫が行方不明になってたのを覚えてないのは、どちらかの魔法ということか?」
既に荷物などが消えたという理由はわかった。
後は水夫の問題だが、これも彼らだろ。特に将軍と呼ばれる方からは強い魔力を感じる。
いつかのように、不意を打つつもりなのだろう。
「そうだ。何をしに来たかはわからないが、ここを見つけられてしまったのでな。少しまどわせてもらった。こうやって」
途端、俺の目には将軍から伸びる魔力と、その魔法が光となって写った……が。
「ぬう」
『お兄様は私たちが誘惑するのよ!』
眼前に展開される魔力障壁。
音を立てて将軍の放った恐らく幻惑の魔法は砕け散り、四散する。
いつの間にか俺の後ろには3人がやってきており、抱き付いてきていた。
(動きにくいんですがね、ミィさんや)
「むー……」
そんな内心を他所に、ミィとルリアは俺に抱きついて離そうとしない。
「今のは気にしないでおく。どうせ効かなかっただろうしな」
俺は前に出していた手に集まっていた魔力を散らし、後ろの3人に驚いている2人の海魔を見る。
将軍の魔力は確かに強かったが、この魔法は不得意なはずで、かかりが甘いであろうものだった。
仮にイアが防いでくれなくても特に効果はなかったに違いない。
前も、そうだった。今は名乗るわけにもいかないけど、この将軍は戦ってるほうがよっぽど厄介なのだ。
「確かに。それほどの力を見抜けぬとは、ワシも耄碌したものよ。気にしないとは言っても何もなしとはいくまい?
殺すならワシだけにしてくれんか。この子はまだ若い」
「そんなっ」
怪我の体を隠そうともせず、将軍は若い海魔の前に己の体をさらす。
その瞳には決意が満ち溢れている。
「……誰も、殺すなんて言ってないだろう? いくつか聞きたいことがある。なんで海魔なのにここにいるのか、ということとかな」
「であろうな……うむ。他種族と共にいる貴公を信用しよう」
何がどう気に入られたのかはわからないが、将軍と呼ばれた男が座り直してこちらを向いた。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
増えると次への意欲が倍プッシュです。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。




