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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
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060.冬海の海魔

「海だー!」

「だー……」


『絶対魚が目当てよ、これ』


 グイナルの背の上で、同じようにこぶしを突き上げて叫んでいるミィとルリア。

 大人しいルリアまで元気そうにしているあたり、相当だ。理由はイアが言った通りだとおもうけどな。

 俺自身も冬はどんな姿をテイシアは見せてくれるんだろうなと楽しみではある。


「まずは偉い人への挨拶があるから、宿を取って行ってくる」


「お兄ちゃん、3人で出かけるのは危ないだろうから、ミィ達も一緒でいい?」


「一緒が……いい」


 以前より立派になった街の門が見えてきたところでそういうと、悩ましい提案が返って来た。

 確かに悪人がはびこっているという訳でも無いけど、人が多いということはそれだけいろんな人がいるということでもある。それに……。


『可愛い3人がイケナイ男に騙されちゃまずいものね?』


「自分でいうか? まあ、そうだな」


 良い笑みを浮かべるイアに苦笑するも、その通りなので俺も否定しない。

 イアは元々姿に変化はないけど、ミィもルリアもたぶん、いやきっと美少女だ。

 そんな子たちがどこの誰とも知らない奴に誘われて……。


(駄目だ駄目だ! お兄ちゃんは許さんぞ!)


『お兄様、漏れてる漏れてる。グイナルが怯えてるじゃない』


「はっ、すまん……」


 暴走しかけた思考が、イアのほっそりした指が頬を撫でることで戻って来た。

 どうもミィ達のことになると抑えが効き難いんだよな……。


『ふふっ、私たちはお兄様から離れないわよ。きっと、ずっとね』


「あー! イアちゃんずるい!」


 小さな水音。頬に当たった何かの感触に慌てて手をやるもそこには何もない。

 でも今のは……イアにやられたな。ミィがグイナルの背の上で声を上げるもこちらに飛び乗るようなことはしない。

 もししたら、はしたないと怒るとこだからな。


 そうこうしているうちに門が近づき、降りる場所となったので4人とも降りる。

 こちらを覚えていたらしい門番に声をかけつつ、グイナルの首に証明書の様なものをかけ、グイナルを預ける場所に行く。

 慣れた様子の相手に預け、荷物を持って宿を探すために街中に向かう。


(んー、前のところが空いてればそれでいいか)


 勝手知ったるというほど泊ってもいないけど、同じ宿のほうが何かと便利だ。

 冬だというのに、行き交う人が多いせいか外程寒さを感じない。

 皆厚着なのでぶつかりそうになっているのもこの時季ならでは、といったところか。


 主に魔族か獣人だけど、エルフやドワーフも行き交うこの街はフロルの目指す姿ともいえるかもしれない。

 港には今日も船が多く停泊し、あるいはいくつかは外に出、そして遠くからこちらに入ってくる。

 テイシアの主な交易先は東西の魔族領、そして他の大陸だ。

 魔法という物が世の中に無かったら、人々が海を行き交うのはもっと時代が後になってからなのではないか、と思う。

 水にせよ、食料にせよ、そして、船そのものも。


 風を生み出し先に進み、水は魔法で生み出すことで食料や売り物をより多く積めるようにしている仕組みを知るとなおさらだ。

 無事に部屋を確保し、4人でバイヤーの元へと向かう俺だったが、出来れば聞いてみたいと思うことが1つ、あるのだ。


 それは……。





「ん? 他の大陸とどうやって対価を払ってるのかって?」


「ああ。国が違えば通貨も違うだろうと思ったのだけど……」


 かしこまった口調はもういい、との申し出を受け、砕けた話し方に変えた俺の疑問に、バイヤーは何を今さら、といった顔を向けてくる。


「決まった割合で物同士を交換することもないわけじゃないが……。

 普段はこれだな。いわゆる銀貨だ。意匠は違っても価値はほとんど変わらない」


 机の上に撒くように出されるのは数えるのも億劫なほどの銀貨。

 その中から選ばれた数枚は確かに模様が違う。


「銀貨1枚で何が買えるか、はそりゃあ場所によって違うが……。

 だから安心して稼ぐといい。最悪、中央から回ってこなくても交易分で確保すればいい」


「なるほど……」


 そう答えつつ、腕組みして様子をうかがう。

 忙しい身であるはずのバイヤーがわざわざ時間を作ってくれ、ミィ達3人を倉庫見学に案内を付けてくれる待遇の良さ。

 つまり、何かあるのかなと思わせるには十分だ。


「しばらくはいる予定だが……何か問題が起きたということでいいのかな」


「どう話を振ろうかと思ったが、ちょうどいい。頼みというかなんというか、よくわからんのだ」


 こんな巨大な町を運営している張本人でもはっきりしない何か、という物が自分にどうにか出来るのだろうか。

 そんな疑問を抱きつつ、話を聞く。被害そのものは大したものではないらしい。

 というのも、船が沈んだとか、積み荷がたくさん無くなったとか、そういった大規模な物ではないらしいのだ。


 気が付けば甲板に出ていた荷物が少し無い。船にあるはずの備品が無い。

 あるいは、街に消えた水夫がいつの間にか戻ってくるが、行方不明だった間の事はよく覚えていない、といった具合だ。


(なるほど、よくわからんな)


 行方不明になる、というのは嫌な気もするが、本人が怪我をしているとか、そういったこともないらしい。


「確かに、注意不足で見落としたとか、無くしただけじゃないのか、というには……」


「件数が件数なのでな。何事も無ければそれで構わない。第三者の視点で見て回れば何か見つかるかも、といったぐらいだ」


 それであれば、と快諾し、前金を受け取る。見学も終わったらしい3人を引きつれて一度宿へ。

 誰が何を見つけられるかは何とも言えないので、2手に分かれるということはせずに4人で港へと向かう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


「わかったから、引っ張るなって」


 ミィの気持ちはわからないでもない。寒空の下、見事に焼きあがった魚は魅力的だ。

 気のすむまで、だときりがないので1人1つということで苦情を背中に浴びつつ買い食い。

 そのまま、港の端の方へと歩いていくが特に変な様子はない。


 以前よりも多少は見回りが多いような気がする、といったところか。

 荷物の指さし確認も行われているのでこの中で何もないのに荷物が無くなった、とは考えにくいな。


『誰かが盗ってるのか知らねえ』


「隠れて……住んでる?」


 ルリアの言うように、誰かが隠れ住むなら荷物が無くなるのもわからないでもない。

 中には食料ということもよくあるだろうからな。

 ただ、そうなると行方不明になる人がいるというのはやはり、よくわからない。

 あるいは別の話なんだろうか。


 色々と考えつつ、普段は釣り人か猟師ぐらいしかこなさそうな街のはずれに向かう。

 整備されていない岩場に波が打ち付け、生き物の気配を多く感じる入江だ。

 魚を釣るだけならこの辺がちょうどよさそうだけど……。


「にーに、あれ」


「ん? なんだ……あれ」


『海魔……にしては小さいわね。というか魚の顔してる?』


 魚と聞いて飛び出しそうになったミィを抑えつつ、ルリアの見つけた相手を伺う。

 ここからは距離があり、岩場の陰になってるので互いに気が付くことが無かったんだと思う。

 海藻らしきものをかじるその姿は、人型、かつ頭は魚っぽい背丈の小さな海魔だった。




個人的にはアジ顔がいいです。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。

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