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兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~  作者: ユーリアル
第二章~魔王候補擁立編~
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055.塩、塩が足りないんだ!

 

『特に何もいないわね……降りましょ、カーラ』


『ガウ!』


 朝日を浴びながら、私とカーラはとある山の頂上付近へと舞い降りていく。

 1人と1匹がやってきているのは、パンサーケイブから北寄りの西に向かってカーラの翼で数刻。


 まあ、徒歩なら1週間から2週間は見るべきな距離ね。

 山あり谷ありとは言わなくても、まっすぐは歩けないからもう少しかかるかしら。

 そんな先にある、草木のほとんど生えない死の山に来ている。


『よしっと。試掘は終わったし、今日はがっつり掘るわよ! カーラ、このぐらいの大きさでいいからどんどん砕いちゃって!』


『ガウガウ!』


 働けるのがうれしいのか、終わった後に待っているミィのお褒めの言葉が楽しみなのか。

 あるいはみんなからもらえる魔法や食事が美味しいのか。

 私にはよくわからないけど、カーラは最近やる気なのよね。

 今もまた、私の指示通りに目的の物を砕いていく。


 火竜の爪や牙は相当な物よね。一番高位竜に近い種とかいうのも納得だわ。

 成長した火竜は自分の体を特別な魔法で小さくしたりできると前の私は知ってるらしいけど実際どうなのかしらね? 手乗りカーラ……いいかも。


『え? 今日はどうやって持って帰るのかって? ふふーん、大丈夫よ。

 研究中だけど持ち運びに便利な魔法があるの。私が実体化するときとしないときを研究してついに編み出した新魔法、影袋よ。なんでも入るのよコレ』


 ちょこちょこと砕いたところで聞いてくるカーラに私も胸をはって答え、足元に転がっている1つを仕舞った。

 子供の頭ほどもありそうな、岩塩の塊をだ。


 ここは前の私が魔王時代に見つけたけども採算の合わなかった岩塩だけの山だ。

 岩塩の理屈は知っているので、こんな内陸がかつては海だったということになり、俄かには信じられないけど実際に塩があるのだから仕方がない。

 実際問題として、魔王時代にはここは誰も住めないぐらいにまだ沿岸部にしか魔族が進出していなかっただけなのよね。

 本当は人間は東側で限界だったのに、恐怖はどこまでもおいかけてくるように感じて魔族は海辺か山脈に沿うように西へ西へと一部の家を除いて退き、今に至るらしいわ。


 だから中央に当たるこのあたりは誰も見ていないはず。

 そう言った状況だから、西や北に行くほどかつての恐怖から、魔族以外を信用しない人が多い……のかしらねえ?


 そんなことを考えつつ、私は影袋にどんどんと岩塩を仕舞っていく。

 まだ開発中なので、たまーに入れれる物の一部がここではないどこかに消えてるようだけど、たくさんあるうちの一部なら十分よね。

 しばらくの間、掘っては入れて掘っては入れてを繰り返す。


『ガウ?』


『あー、そうね。そろそろいいかしら』


 いくら需要があるといっても限界はあるわ。

 そこを見極めるのも大事、よね。グイナルの引く荷台5台分ぐらいの岩塩を集めた私はそのままカーラの背中の上に飛び乗る。


『どう? 重くない?』


 問いかけると、大丈夫、という感情が返ってくる。

 どうやら仕舞ったものの重さもどこかにいくという実験は成功の様ね。


『じゃ、行きましょ……!?』


 飛び上がり、パンサーケイブへと帰ろうとした私とカーラに影が差す。上からの襲撃だわ。


『ガウ!』


 しかし、攻撃を受けたカーラもただの火竜ではない。

 産まれたころから将来の魔王足り得るミィの魔力による魔法を食べ、最近ではお兄様の、勇者の力による魔法も食べることができている。

 きっと世界で一番贅沢な育て方をされている火竜、それがカーラ。

 だから……多少の攻撃は回避した上で逆に上空を奪い返すなど朝飯前。


「さすがよカーラ! 落ちなさい!」


 眼下に奇襲の主、無謀な攻撃をしかけてきたワイバーン5匹ほどを見て取る。

 叩き落とすべく、風の中位神に祈りを捧げて下に吹き付ける突風を……あっ。


『マズイわ。影袋に穴が開く!』


 影袋は魔法による不思議な袋だわ。

 それが私自身の行使する魔法に影響を受け、一部が穴をあけてしまう。


『……ガウ?』


『あららー……世の中わからないわね』


 大失敗だ、と思った私だけど、目の前で突風自体は無事に発動し、ワイバーンたちを地面へと向けて降下させる。

 途中、どこからか漏れ出てきた影袋の中身、大きな岩塩の塊も大量に出てきたかと思うと風の勢いで加速をつけ、見事にワイバーンたちは全身を打ちすえて沈黙することになった。


『……どうしましょうね、これ』


『ガウ』


 拾って集める? まあ、そうよね……それしかないわね、せっかく集めたんだもの。


『あ、カーラ。ワイバーンは食べていいわよ』


『ガウガウ!』


 俄然やる気を出したカーラが急降下し、ワイバーンと岩塩の落ちた森へと着地する。

 少し、いえ……かなり面倒だけど私はカーラの食事の間に散らばった岩塩を集め、回収する。

 大体集め終わったのはかなり時間の立った後だった。そろそろ帰らないと……。


『カーラ、戻りましょ』


 今度は何か出たらカーラに任せてみようかしら等と思いながら再び空へ。

 何気なくそのまま東、つまりはパンサーケイブから北にあたる方面へと飛び、途中で南に下がって高度を下げながらパンサーケイブに向かったその時だ。


『あら?……何かしら』


 遠く、北側の方に細い街道と呼べるのか疑問がある道を進む人影がわずかに見えた。

 ここは行商が通ることもあまり僻地の道。

 大量にというほどでもないけど魔物も出るはずだし、生き残って行き来しなければいけない商売には不向きな場所なのよね。


 頭をよぎるいくつもの可能性。

 そんな中で一番よくないのはパンサーケイブを狙うかもしれない北の魔族。

 もしそうなら、早期発見は重要なことよね。そう思いなおし、私はカーラに出来るだけ太陽を背にして近づくように言ってみる。

 快くうなずいてくれたカーラが遠回りながら確実にその集団に近づいていく。


『魔族? いえ、獣人もいるわね……何なのかしら』


 長い旅路を進むにしては彼らの格好はバラバラだ。

 それでも前へ前へと進もうとする姿には鬼気迫るという感情を感じる。


 そうなると……もしかして?


 ある予想が私の胸に飛来した時、視界に彼ら以外の物を捕えた。再びの、ワイバーンだ。


『カーラ、貴方だけでもやれる?』


 今度は2匹、なら行けるんじゃないかと私は思っている。


『ガウ!』


 やっちゃいますよ、という返事をしながらカーラが加速する。

 ワイバーンは地上の彼らを襲おうとしていたからなのよね。

 地上を行く彼らの一部がこちらに気が付き、指をさす。

 でも、貴方達が気にするべきは本当は後ろ。ま、風下から来てるから無理もないわね。

 地面をこするようにいったん急降下するカーラから飛び降り、転がりながら勢いを殺す私。

 うう、後で洗濯しないと。上空ではカーラとワイバーンの戦いが始まった。

 まあ、時間の問題でしょうね。


「き、君は?」


 代表者なのだろうか。

 先頭に立つ1人の獣人の青年が私に槍を突き付けつつ怯えながら問いかけてくる。

 よく見れば、半分は女性か子供だった。皆疲れた表情をしている。


『私はパンサーケイブに住んでいる者よ。こちらに様子を見に来たらあなたたちを見つけた。ついでに空のあれもね。あ、赤い方は味方だから』


 言われ、上空を見て絶句する人達。気持ちはわからないでもないのよね。

 そして戦いは終わり、舞い降りてくるカーラにおびえる子供が泣くということはあったものの、私達は対話をすることができた。

 彼らは……北からの難民だったのだ。


 お兄様、厄介事が行くけど私は悪くないからね?

 同じ空を見ているはずのお兄様に、届きもしない念話を飛ばす私であった。



ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

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