053.雪国よりの使者
真面目話ー。あああ、ほのぼのしたいんじゃー。
「先ほども言ったように、外部に売るほどの余裕は今は無い。まだ試し打ち段階なのはわかっていただけると思うのだが」
静かなヴァズの声が石造りの部屋に冷たく響く。助言役として同席している俺にはわかる。
ヴァズが、内心かなり怒っているということが。
(それも無理はない……こいつら、本気か?)
外交的な駆け引きを知っているとは言い難い俺でも、彼らの言い分がどのぐらい無茶なことはわかるほどだ。
北から来たという5人の魔族は席に着くなり、一定量の魔鉄武器を今すぐ供給してほしいという話を淡々と告げてきたのだ。
現在、パンサーケイブの魔鉄の作成はまだ安定しておらず、数も多くない。
パンサーケイブ自身、あるいはフロル等の関係個所で使ってみているところだ。
それなのに外に出してほしいと言われてもそうそう出せるものでもない。
「勘違いしていただいては困りますな」
やや年かさの魔族が、そういってヴァズを睨むように見つめる。
彼らのこの無駄に高圧的な態度はなんだろうか?
今の魔族に序列はほとんどなく、有力と言われている各方面の領主である魔族もあくまでもその領地内でのみ、権力を持っている扱いのはずだ。
こんなふうに、ヴァズに言えるとしたら相手がそのぐらいの立場で無くてはいけない。
その……はずだ。
「勘違い?」
ぴくんと眉を上げ、ヴァズが姿勢を戻す。なんとなく嫌な感じがして感覚を戦いの時の様なものに切り替える。こいつら……何かおかしい。
「ええ、勘違いです。我々はお願いをしに来たのではないのですよ」
「ふむ? ですから、適量を買い取りたいという申し出ではないのか?」
ヴァズの言うように、俺は彼らが魔鉄製品を買い付けに来たのだと思っていた。
以前のパンサーケイブはそうして大陸各所に魔鉄製品を出荷し、かなりの利益を上げていると聞いているからだ。
「全く違いますね。我々は供給するように言いに来たのですよ。スペードのヴァンダル様からクラブのヴィレルにね」
ダンっと、ヴァズが机を力強く叩いた。普段冷静な彼にしては珍しく、激昂した表情だ。
背景はよくわからないけれど、おかしいことを言っているのだろうなと思う。
「失礼ながら、本気か? 家名に優劣は無い、4つの貴族が国を支えると魔王様は常々言っておられたはずだ。それを、今なんと言われた?」
「時代を見ていただきたいものですね。北方を支え続ける我ら。国を維持し続けるハート家、そして西を支えるダイヤ。それに対して、クラブの皆様方は……端的に言って落ちぶれていらっしゃる。それでは同格とは言えますまい」
少し、見えてきた。つまりは権力争いの中に今、いるのだ。
相当なことを言っているのに、使者側の顔は涼しいものだ。
まるで、力の差をはっきりと認識した相手に剣を突き付けているような顔だ。
「戦争の折、常に最前線で戦った家が消耗しないはずもあるまい。後方でぬくぬくと過ごしていた3家に何がわかる!」
「ヴァズ、話はそこではないのだろう? お前らしくもない」
そのまま使者に切りかかりそうな勢いだったヴァズを押しとどめ、動揺した様子の無い相手側を見る。
少なくとも、俺の正体を見抜けるような力のある魔族はいない。
もしいたら、とっくに騒ぎになっているだろうからな。
つまりは俺はヴァズを止める部下、あるいは同じぐらいの立場の魔族と思われているはずだ。
「すまない……。無論、同じ魔族だ。準備が出来れば相応のお値段で供給することは考えている。
我々とて魔鉄武器は必要としているのだ。それぐらいはわかっていただけると思うのだが」
「お話になりませんな。簡単に言いましょう。大人しく魔鉄武具だけ作って引き渡していればいい、と言っているのです」
せっかく落ち着いたヴァズに、使者は遠慮なしの要望を突き付けてきた。とても交渉に来たとは思えない言動だ。
「ヴァンダル殿は何を考えている? 国を割るというおつもりか」
怒りをこらえ、それでも言葉を紡ぐヴァズ。
この場にいない母親の顔を潰すわけにはいかないという自制の思いだろう。
「いいえ、そんなつもりはありませんよ。単に下の者が上の者に物を献上するだけ。そこに何の疑問がありましょう?」
今度こそ、ヴァズが切れた。殺気を隠さず、使者達を睨みつけ、立ち上がる。
俺ですら気になるほどの殺気だ。腕を俺が抑えていなければそのまま切りかかったかもしれない。
先ほどから口を開いている使者以外の4人は見るからに動揺し、視線を先頭の1人に向けている。
「お帰り頂こう。我々は魔王様に仕える家。他の家の下に着くつもりもなければ、属領になった覚えもない!」
「残念ですな。現実を見れない方が後継者とはクラブ家も終わりのようですな。
もっとも……獣人や他種族を同列に扱う様な家では仕方ありませんか」
ヴァズの剣幕を受け流すように先頭の使者が立ち上がり、そんな台詞と共に部屋を出ていった。
後に残るのは拳を握りしめたままのヴァズと俺。部屋に沈黙と、ヴァズの荒い息が満ちる。
「ヴァズ」
「ラディ、ありがとう。お前がいなければここは惨劇の場所となっていただろう」
椅子に座り込み、天井を仰ぎ見ながらヴァズはため息とともにそうつぶやいて動きを止める。
俺はそれに首を振り、静かに言葉を待つ。俺だって、お前に嘘をついてしまっている。
果たして、どちらがヴァズを怒らせるだろうか。
黙っていたことが? それとも人間であることが?
それはわからない……。
「元々、領土というのも曖昧なものなのだ。未開拓地域の方が多いからな。大体街を中心にどのぐらい、といったところだ。だからこそ彼らは文句をつけたいところもあるのだろうな。一度はここは、廃棄されたのだから」
姿勢を戻し、考え込むようにして小さくヴァズが呟く。
調子が戻ってきたようだ。俺もまた、頭に以前見た地図と領土の関係を思い浮かべる。
確かに、4つの名家が魔族の領土を支えているというが、その範囲は大陸中とはとても言えない物だった。
「だからと言ってひどい話だな。いや、それが狙いなのか?」
「ああ。見事に乗ってしまったが、決裂自体が狙いだろう。少なくともこれで、相手にとっては大義名分が出来た。序列をわきまえない家に責任を問うという形でな。こちらにとっては言いがかりも甚だしいが……」
言葉にすることで、だんだんと頭が回ってきたのかヴァズの顔に色味が戻ってくる。
まあ、青いのだけど。
「ラディ、私はフロルに戻って母上に報告と今後の対応を相談してくる。その間、ここは頼めるだろうか」
「それは構わないが……1つ」
立ち上がり、こちらを見てくるヴァズに指を1本立てて見つめ返す。
そして、俺は口を開いた。
「仮に、襲われたら……返り討ちにして構わんのだろう?」
「……ああ、母上もどうせ戦う道を選ぶだろう。それが最前線で人間と戦っていた魔豹の生き方だからな」
頷き、俺も立ち上がって外に出る。
さあ、よろしくない流れではあるけど、皆に説明しないわけにはいかないだろう。
ミィ達の選択を、俺は尊重するつもりだ。
いざとなったら妹達とカーラと一緒に逃げる……かどうかはミィ達次第だが……。
冬を目の前に、空に漂う雲のようにすっきりしない気持ちが俺の胸を占めるのだった。
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