051.冒険団が地底に見た物は……2つの光!?
冒険団の洞窟探検は早々に終了となった。
いや、まあ……スライムを倒した後、すぐに崩れた場所に遭遇したからなんだけどな。
ここまでは入り口からすぐだ。スライムと出会った角を曲がって50歩もいかないところでこれだ。
何かが住み着いているとしたらもう出会ってもよさそうだ。
それがないとなると……本当にただの洞窟か?
「このぐらいならなんとかなるな。下がっててくれ」
皆を下がらせて、大地の神に祈る。
大地の神様には実は下位も上位も無く、影響をどこまで及ぼすか、で祈りが変わるのだ。
他の神様と比べて、言ってしまえば全部を自分で見ていたいっていうわがままなところがあるのかな。
ともあれ、祈りの結果、岩に魔力の網のような物が飛んでいき、それが岩に当たると同時に砂のように岩が崩れ去っていく。
後は洞窟なので横に避けておけばいい。
「お兄ちゃんすごい」
『もうちょっと参考になる魔法の方がいい気もするけどね』
2人の声に振り返れば、確かに子供たちは驚いた顔だ。
私もやる、という様な感じではない。せっかくなのだからもう少し一般的な魔法で何とかすべきだっただろうか。
ただまあ、普通にやると音がすごかったり不安は残る。
「次はそうするよ」
だからそういうにとどめ、壁を調べる。
向こう側がすぐそこだったり、また崩れないかを確認しておかないといけない。
崩れた場所を調べた結果、すぐには再度崩れることはなさそうだとわかる。
表面には苔が生えている場所があちらこちらにあり、時間を感じさせる。
(そりゃ、長い時間が経てば洞窟の1つや2つ、崩れるよな……)
岩を崩した向こう側はすぐにまた曲がり角。
もう少し続くかと思ったが、意外と洞窟の奥は近いかもしれない。
足元には水が流れたような跡が続いており、奥から水が流れてきたようであることがわかる。
「隊長、水のにおいが濃くなってます」
アミルが鼻をひくひくさせながら報告。ただ、それだけではないようだ。
目が細まり、腰に下げた短剣に手を伸ばしている。
「スライムだけじゃない……か」
警戒しながらの先には、大きな地底湖が現れた。
「「うわーー……」」
子供たちの感動の声がこだまのように響き渡る。
俺もまた、警戒はしながらも幻想的な光景に目を奪われる。
魔法の光をいくつも打ちだすも、全貌は見えない。
カーラが泳いでも余裕がありそう、と言えば大きさが伝わるだろうか。
深さは……かなりありそうだ。
向かって左手の壁からは水が結構な勢いで地底湖に注がれている。
そして右の方に流れがあるようで、どこからか外に流れていく水。
こちら側の縁には波のようにチャプチャプと水が打ち付けている。それからも水量がうかがえる。
(なるほど、流れる方向が変わったのか)
何かがあって、あっちのほうに穴が開いたか、あちらのほうが流れやすくなったのだろう。
問題はそれが内部からの物なのか外からの物なのか。
どちらにせよ何かで塞ぐなりしたらこちらに流れが戻ってくるはずだ。
『これはうまく使えれば外で畑もやりやすいんじゃないかしら』
「ああ。外に流すなら地面を削ればいいな」
イアのいうように、今流れている方を何とかしつつ、元の流れに乗せてしまえば外は畑を作りやすくなる。
水場が近いというのは非常に良いことだ。洞窟もそう長くないので、外にため池用に大きく掘ってそこに流すということでも十分だろう。
この水が飲めるかどうかは、確認してみればすぐにわかることだが……。
(うん? 妙な感じが無いな)
いつの間にかいなくなっている妙な気配が気になる。
だが、見える範囲には何もいない。こちらの気配を感じて逃げた……?
「一度戻って報告しようか」
「にーに、そろそろお腹空いた」
獣人であるアミルたちの感覚にも感じられないならどこかにいったのかもしれない。
空腹を訴えるルリアに微笑んで頬を撫でる。報告には水場あり、危険生物の気配ありのため要討伐、とでもしておく必要が……。
「伏せろ!」
それに気が付いたのはまったくの偶然だった。
直前まで俺やみんなの感覚から逃れている完全な隠ぺい。
こんな状況には数えるほどしか出会ったことがない。
暴風雨の中で、気配も何もない環境で戦った以来だ。
飛ばしたままの魔法の灯り。そして振り向きかけた俺の視界。
それらが偶然重なり、視界に何かが光ったのだ。
咄嗟にルリアや近くの子供たちを抱えて地面に伏せる。
その上を、何かが一瞬で通り過ぎた。叫んでからはいつの間にか気配が復活し、その殺気によって俺の意識が戦いのそれに変換されていく。
「襲撃だ! ミィ達は背後を警戒! 俺が、やる!」
未知の相手と戦わせるには危険が伴う。
ミィもイアも、ルリアまでいるので勝てるかもしれないが、無駄に犠牲を出す必要はどこにもないのだ。
薄闇の中に、1対の光が見える。いや、これは何かの目に光が反射しているのだ。
訓練のたまものか、叫びに続いて子供達から魔法の光が周囲へと飛び交う。
それは真昼のように洞窟と地底湖を照らしあげ、襲撃者もその姿が照らし出された。
それは俺の2倍はあるであろう細長い体躯、口に並ぶ牙は鋭く、水中を泳ぐためであろうひれも見える。
器用に大きなひれを足のようにして洞窟で立ち上がる姿が……水蛇だ。
話だけは聞いたことがある、レイフィルドでは絶滅したと思われている魔物。
突然の灯りに、目を細めているのがわかる。
『ここでスライムや蝙蝠を食べていたってことかしらね』
「ああ、そうだろうな。だが、運が悪い」
普通の動物、あるいはそこらの魔物なら相手にはならなかったであろう。
あるいは気が付いたのが俺でなければ……だけど気が付いてしまったのだ。
襲ってくるならば、倒すのみ。蛇のように吠え、迫る水蛇は勝利を確信しているように動きは鋭い。
小動物なら丸呑みに出来そうなその口が大きく開き、勢いよく迫ってくるがその目的を達することはなかった。
ほぼ手加減なしの剣閃。響いた音は鞘に収まった魔鉄剣の音と、どさりと地面に落ちる水蛇の音。
地底湖から流れ出る水の音が妙に響いた気がした。
「お兄ちゃん、他にはいないみたいだよ」
「隊長、自分も同意です」
水蛇を切った姿勢のまま、警戒を続ける俺の耳にどこか興奮した様子のミィとアミルの声が届く。
確かに気配は感じない。 隠ぺいして襲い掛かって来た実例がある以上は安心できないが、それでもこんなのが同じ場所に何匹もいてたまるかという気持ちも強い。
冷静に考えれば、食料的にはこの1匹が限界であろう。
「この類は肉は焼けばうまい。皮も有用だからな。剥いで持って帰ろう」
俺の剣閃が見えなかったせいか、尊敬のまなざしが俺に突き刺さるが、水蛇の処理を促すとすぐに気持ちが切り替わったのかそれぞれに切り裂きにかかる。
たくましい話である。
水量豊富な水場に、湿気はあれど涼しい場所。鉱山街のそばに畑作中心の村をつくるには十分な条件だと思う。
ミィ達と静かに畑仕事でもしながら暮らせたらいいのだけど、きっといつの間にか騒動に巻き込まれているのだろうなあと考えてしまう俺。
それが遠い未来なのか、すぐそこにある未来なのかはわからないけれど、全力で妹達は守る……そう決めた。
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