050.冒険団が行く! 謎の洞窟に潜む影!
「お兄ちゃん、行こ?」
「一緒に行く、にーにも一緒」
夜明けとともに気だるいほどの暑さがいつものようにパンサーケイブを包む。
そんな朝、珍しくミィとルリアが合わせてどこかへのお誘いであった。
何所へというのが無いので困惑していると、隣の部屋からイアがふわふわと漂ってくる。
『二人とも、それだけじゃ駄目じゃない。えっと、狩りの時に近くに洞窟を見つけたのよ。
何か危ないのが住んでるかもしれないから今日のところは帰りましょうって戻ってきたのね』
なるほど、昨日の夜は妙に興奮した様子だったのはそれのせいか。
謎の洞窟……ねえ。確かに危ない時もあれば何でもないときもある。
ただ、魔物も生きているこの大陸では奥にとんでもない物がいました、というのも否定できないのが怖い。
「外には足跡とか、出てきた様子が無かったの」
「隠した様子も……無い」
『外はほとんど木や草で隠れてたのよ。いても蝙蝠ぐらいじゃないかしら』
(ふむ……危ない生物の住処という訳じゃなさそうか?)
実際に見てみないとわからないが、少なくとも足跡が残るような奴が出入りしているということは無く、ルリアの瞳で見てもその痕跡を誤魔化すような動きがあるようには見えない。
となれば街に住んでいない魔族とかが住み着いている、という線もなさそうだ。
街の近くにということなら、今後何かあった時に隠れる場所にしたり、あるいは外敵が隠れる可能性を考えると確かめておくべきか……。
「ねえ、お兄ちゃん。おねがいー」
「しょうがないなあ、ミィは」
ミィに可愛くお願いされれば俺に断るという選択肢はない。
『……』
イア、そのしょうがないのはお兄様よ、という視線はやめたまえ。
ルリアも、マネしなくていいから、な?
「正式に街の仕事として受理されてしまったな」
『見つけたのはみんな一緒だもの。順当じゃないかしら?』
洞窟を見つけたという森の手前で腕を組んでつぶやくと、イアは俺の耳元でそうささやいた。
確かに、な。念のためにヴァズへの報告は済ませてあるが、その代わりに冒険団のみんなで周囲の刈り取りと内部の調査が仕事として任せられた。
意気揚々と集まった冒険団の皆の表情は少し疲れが見える。
正確には疲れというよりはだるさ、だろうか。連日の暑さに、こうして刺激が無ければだれてしまうのだろう。
「これから洞窟に入るが、危険は上にも下にもありうる。何か変だと思ったら声を出すように」
「「はい!!」」
先頭に立っているのは以前遺跡で叱ったことのある獣人の少女、アミル。
その横には猪を解体していた魔族の少女であるリーシア。って、なんだろうな。思ったより女の子の割合が多いような。
こういう時は男の子が嬉々としてやってきそうだけどなあ?
「たいちょー、男の子達は魔鉄の武器を試すお仕事にいっちゃったよー」
人数を数えているときにそれが顔に出ていたのだろう。
リーシアがつまらなそうにそういって、10人中、女の子が7人ということで残りの3人の男の子は少し肩身が狭そうだ。
「じゃあそれでも来てくれた3人は偉いな。1人は俺の横、もう2人はミィ達と一緒に後ろを守ってくれ」
わざと大きな声で3人を褒めるように言うと、うつむき気味だった3人の顔に笑顔が戻る。
ちらりと女の子のほうに視線を向けるあたり、気になる子がいるのかもしれない。
「よし、じゃあ出発だ」
俺の声を合図に、洞窟へと挑む。
ちなみにカーラは留守番、の予定だったのだけど森を切り開くところまでは一緒に過ごし、出てくるまでは外でウロウロするつもりらしい。
ミィに見送られ、少し前に森に消えていった。
まあ、火竜なら何かあってもよほど大丈夫だと思うが……。
ともあれ、今は洞窟だ。事前に聞いていた通り、やや大きいが何かが住み着いている形跡は確かにない……ん?
「ミィ、アミル、何か匂うかい?」
「蝙蝠さんの匂いぐらいかなー」
「今は何とも……」
2人の答えを聞きながら、俺はしゃがみ地面に手をつく。
「お兄ちゃん?」
『あら……』
俺が調べた先は、何かが流れた跡。簡単に言えば水の跡だ。雨が流れたのかと考えたが、だいぶ古い。
しかも砂地ではなく、岩場が削れているのだ。長い間、ここを水が通っていた証拠だ。
それが今は乾いている。
「行こうか」
「あれ……風が少し動いてますね」
数歩入ってすぐ、獣人な彼女から驚きの答えが返ってくる。
言われて皆立ち止まり、周囲を見渡すが……はて?
「あ、本当だ」
別の獣人の子もつぶやく。見れば3人とも細いヒゲがぴくぴくと動いている。
(大きな穴は開いてないということか……)
もし洞窟の奥に穴があれば風が強く吹くだろうけど、そういうわけではなさそう。
でも獣人が気が付くぐらいには動くということは……。
「足元に落ちるかもしれないからな、気を付けて進もう」
そのままゆっくりと進んでいくと、整えられていない洞窟はごつごつとした足場となり、通るのにも苦労する。
その代わりに足元にあるのは、蝙蝠の糞。ただ……それ以外にも何かいるな。
「お兄ちゃん、何か、いる」
本当ならば続くはずのその糞の跡が時折途切れていることに俺が気が付いたとき、ミィの声が真剣な物となる。
暗いままの洞窟の奥を睨みつける顔は真剣な物だ。
俺の感じる気配そのものは危険度は少なそうだけど、それはあくまでも俺にとって、だ。
小さくつぶやき、祈りの結果である光の玉を奥へいくつか打ち出す。
途端に騒ぎとなり、蝙蝠たちがざわめきながら奥、あるいは入口へ向けて飛び去って行く。
子供たちが顔を隠すようにしてそれをしのいだ後、奥には少しずつだが動く気配が複数。
「構え」
『さて、何が出るのかしらね』
飛び道具に気を付けながら、ゆっくりと進んだ先には……ミィほどの背丈のスライムがいた。
たかが半透明なのろい奴と侮るなかれ。金属武器ではなかなか倒せない厄介な奴なのだ。
しかもここは洞窟だからな、下手な魔法は使えない。
「あ、スライムだ! たいちょー、スライムだよ!」
「うん、そうだな。凍らせるぞ、詠唱準備」
リーシアの元気な声に苦笑しながら、子供たちに魔法の詠唱を促す。
訓練の結果、子供たちはほとんど全員が魔法を扱えるようになっている。
出来るだけ日常的に使うように言っているから、保有魔力もどんどん上がっているし魔法の腕は言うまでもない。
魔法は神様への祈りだ。であれば頻繁に祈ってあげるのがいいのだ。
本人(本神?)たちも良く言ってるからな。祈りが無いのは寂しいものだ、と。
ところで、スライムには目鼻や耳と言ったものはない。
ではどうして獲物を捕まえるかと言えば、魔力だ。
「にーに、来たよ」
ルリアのいうように、こちらの詠唱に反応してスライムたちがその体を動かしてゆっくりとこちらに来る。
ただ生き物を捕まえるだけならそれでもいいんだろうな。
「撃て!」
俺の声に従い、いくつもの魔力弾、当たると凍る青い玉が撃ち出され、スライムへとぶつかり、その体を凍らせる。
「よし、砕くぞ!」
俺は叫んで切りかから……無い。子供達と一緒に落ちている石を投げるのだ。
子供とはいえ、全力で投げれば威力は相当な物。それはスライムだった氷にぶつかり、それを砕いていく。
こうしてスライムはあっさりと凍った何かの瓦礫と化すのだ。
「まだいるかもしれないからな、慎重に進もう」
子供たちが頷くのを確認し、改めて洞窟の奥へと進むのだった。
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