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004.猫耳オン猫耳イコール可愛い

 冬と言えば寒さ。そして雪である。

 レイフィルド大陸では西や北の山脈に行かなければ雪に埋もれる、というほどに雪が降ることは少ない。

 だからこそ争い合うだけの余裕という物が産まれてしまったのかもしれないが……。

 今の俺達には関係の薄い話だ。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「お? ごめんごめん。ちょっと考え事をな」


 寒さに顔を赤くし、もこもこの防寒具を着込んだミィが恐らく立ったまま動いていなかったであろう俺の服を引っ張っていた。

 ちゃんと仕事をしないとな。俺だけなく、ミィまで来ている仕事とは、雪かきである。

 昨晩は妙に冷えると思ったらかなりの積雪となっていたのだ。

 全部は無理だろうけど、みんなが通る場所ぐらいはどかしておかないとな。


(魔法ありなら結構速いけど、それだとちょっとな)


 手持ちの魔法を調整して使えば俺が歩くだけで地面が見えていくほど溶かすことは出来るだろうと思う。

 ただ、この村の皆には自分が勇者であることは言えていない。

 言えば騒動はともかく、大陸から逃れてきたという獣人のみんなを怯えさせてしまう。


 勇者は人間側の切り札と言えるような立場で、俺自身はそれに関与していなくても勇者の名前を使って獣人の迫害が行われている場合があるとどこかで聞いた。

 しっかり話せばもしかしたらこの村の皆ならわかってくれそうだけど、それまでにどれだけ怯えさせてしまうかがわからない。

 それはあまり良いとは言えないだろう。いつか、堂々としたいものだけども。


「よっしゃ、やるか!」


「うんっ!」


 周囲にいる獣人の人らと共に雪かきを開始する。

 意外とこれ、腰に来るんだよな。そうでなくても全身使うから……。







「ふー……」


 予想通り、ミィはあっという間に力尽きたようだった。

 雪の少ないアルフィア王国ではこれが冬季の訓練になっていたのだから無理もない。

 ミィが選んだ真っ白な猫耳型の耳当ての中ではいつもは元気いっぱいに立っている耳もペタンとなってしまっているはずだ。

 猫耳なのに猫耳型の耳当てとかよくよく考えると不思議だけど、猫も寒い場所で過ごす動物じゃないもんな?

 おかしくはない……はず。


「大丈夫か? 頑張ってるな」


 それでも歳や体格を考えれば十分頑張ったほうだと思う。


「お魚くれるおじさんたちもここを歩くんでしょ? だから頑張る!」


 火照りと寒さに真っ赤になるほっぺたの汗をぬぐってやりながら頭を撫でると、ミィはそんなことを言ってぐっと構える。

 最近、口調も治ってきたミィは年相応の元気の良さに見える。

 まあ、俺自身がこの年頃に相応しいとは言えない状況だったので今のミィがそうなのかどうか、実はわからないのだけども。


「そっか。じゃあ兄ちゃんも頑張らないとな」


 えっほえっほと再開するミィに温かい気持ちになりながら、俺も人より大きめに作られた雪かき道具、少し反りのある板に持ち手の棒をつけた物、でかき出していく。

 魔法は派手に使えないけど、肉弾戦も得意なのだ。最後に物を言うのは腕力だよな?


 誰もまだやっていない、かなり降り積もっている一角をひたすらに掘る。

 黙々と行った結果、いつの間にか俺の担当していた場所はほとんど雪をなくすことに成功する。


「ふー……さすがに暑いな」


 ここで下手に冷やすと風邪を引くしな、と思いながらぱたぱたと手で仰いでいると視線を感じた。


「? どうした、ミィ」


 俺を見つめているのはかなりへばった様子のミィだった。


「お兄ちゃんズルイ! なんでそんなに早く終わるの!」


 プンプンと頬を膨らませ、腕を上下に振り回しているミィ。

 一緒に桃色の長髪が揺れている。この可愛い妹め、一体俺をどれだけ虜にすれば気が済むのか。


「そう言ってもな……一応、これが大きいってのもあると思うけど、持てないだろ?」


 持っていた自分の使っていた道具を差し出してみるも、うんうんとうなりながら少し持ち上げるだけで精一杯のようだ。


(ミィぐらいの時には大岩をオークに投げつけるとかやってたとかは言わないでおこう)


 勇者時代を思い出しながら、ミィが怪我をしないかを心配して見守る。

 しばらくして、やはり無理だとわかったのかミィが手を放してしまう。


「うー、おっもーい! お兄ちゃんすごいね! こんなの持てるんだ!」


 先ほどまでの不機嫌はどこへやら、ニコニコと笑うミィ。うんうん、こうでなくっちゃな。


「よう、調子はどうだ」


「ここは終わりかな。次はどうする?」


 そんな俺達に声をかけてきたのは村の代表の1人、熊獣人のアルフだ。

 血が濃いらしく、本当に熊を立たせて少しやせさせたような姿が特徴だ。


「そうだな……ん? そういや、もう1人はどうした」


「いることはいるよ。長く持てないから見張ってるって」


 アルフが言うのはイアのことであり、今もすぐそばの家の屋根に浮いている。一応見張りなのだとか。


「ああ……さすがにきついだろうな。お嬢ちゃんは頑張ってるよ」


 実際にはイアが手伝うには実体化が必要で、使う魔力からすると効率が良くないからなのだが、アルフは別の意味に取ったようだ。

 確かにミィもイアも子供というか、荒事に向かなそうな少女にしか見えないからな。

 赤ん坊のころから力のある生粋の獣人とはだいぶ違う。


 次の作業場所を聞いて、2人して歩き出す。ミィはその間、何かを考えているようだった。

 手袋越しでも寒いのだろう、手を握ったり開いたりしている。


「ミィ、どうした?」


「えっとね、お兄ちゃんたちすごいなって。ミィ、何もできないから」


 手袋を取ってつぶやく手は小さく、真っ赤になっている。

 そんな彼女に俺はミィの手を握ることで応える。すっぽりと俺の手の中に入ってしまう小さな手。

 ぎゅっと握ると、きゅっと握り返してくれる。


「そんなことないさ。ミィは役に立ってるよ」


「ほんと?」


 不安そうに俺を見上げる瞳は潤んでいる。実際問題として、俺はミィに例えば一緒に戦う力は求めていない。

 家族だからというのもあるけど、俺がミィと一緒にいたいのだ。


「ほんとさ。ミィはそのままでも大丈夫だよ」


「うーん、でもね。ミィはお兄ちゃんを助けてあげたいの!」


 きりっとした顔でこちらに宣言するミィ。お兄ちゃんはもうそれでお腹いっぱいだよ、うん。


『さすがに兄馬鹿すぎるでしょーよ』


 突然、屋根の上からイアが降りてきた。実体化していなかったからか、冷たくないのが少し不思議な感覚だった。


「うっせ。それより、何かあったか?」


 イアは屋根の上から事故が起きていないか等、見張っているという建前のはずだ。


『平和なもんよ。それはそれとして、いつまで隠すのよ』


 イアが腕組をしながら言うのは、俺達の正体や力の事だろう。

 俺がそこそこ戦える人間だというのは村に貢献することで置いてもらうというために必要な札であったが、勇者と魔王であることはまだ誰にも言っていない。

 イアもまた、魂だけになってしまったかわいそうな同行者という役割だ。


 最初にイアが見られてしまった時には慌てた物だが、なんとイアのような存在は獣人には意外といるらしい。大体はご先祖様が意見役として魔力を糧に残っているのだとか。


「俺はともかくミィやイアが便利に使われるのは回避したいからな……」


 俺自身は勇者として経験のあることでもあるし、今さらというところだ。

 でも2人にはあまり苦労させたくないのだ。と、いつの間にかミィとイアはひそひそと話していたかと思うと、俺の方を向いて頷いてくる。


「? なんだ、2人して」


「なんでもないよー」


『そうよ。何でもないわ。お兄様は優しいねって話』


 問いかけてみるも、2人してはぐらかされてしまう。


「どういう……」


「おう、ラディ。みんな待ってるぜ」


 振り向けば雪かき道具を持った顔見知りの獣人が1人。どうやら遅い俺達を呼びに来たようだった。


「悪い。今行く」


 2人の会話が気になるところだけど、今は雪かきだ。

 その後も昼ごはんの時間までみんなと一緒に雪かきに勤しみ、足元をぐちゃぐちゃにしながら仕事を終える。

 朝からきつい仕事だけど、やらないわけにはいかないからな……。

 2人に聞き出すことをすっかり忘れていたことに俺は夜にようやく気が付くのだった。


ウサギ耳だと隠しようがないような気がする今日この頃。


感想やポイントはいつでも歓迎です。


こんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

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