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048.一家に一頭、竜的重機!

 

 フロルより北西に進み、山を越えた先にある街、パンサーケイブ。

 そばを通る大きな川と、露天掘りによる堀跡のそばにある街だ。

 火竜がそばに住み着いたことで一度は放棄されてしまった街の復興は、思ったよりも楽だった。


 元々、火竜による破壊活動が行われたわけではなく、一番掘られている鉱床部分に住み着かれたことと、火竜の熱により井戸が熱湯となってしまう、といった理由からの放棄なので建物自体はそのままだったのだ。

 勿論、掃除だけで使えるということは無かったけど、補修も最低限で済み、井戸も掃除をしたら温度は問題ない範囲だった。

 ただ、水に溶けだしている何かが体にいいとは限らないのでしばらくは煮沸してから飲むように常駐となったヴァズに進言し、認められた。


 どこでそんなことを?と聞かれたが逃亡中に人間の鉱山に潜んでいて水に当たった、とごまかしておいた。

 実際には昔いろいろ教えてもらった教会のおじいちゃんの知識だ。僻地で掘った井戸の水が良くない水だった苦い記憶だそうだ。


 現在、先行して復興に当たっていた人らから作業を引き継ぎ、俺達兄妹と冒険団の一部は周囲の開墾などに移っている。

 元々、もうすぐ大人かなという歳の子もいたのでその子らにフロルの冒険団は任せ、分隊と言ったところかな。

 自然も豊かで、魔物もいるだろうけど獲物となる動物も多い。水場もあり……立地としては申し分ない。


 ただ1つ、懸念があるとするならば。


「ヴァズ、いつぐらいに来ると思う?」


「早ければ今年中には来るだろう。最低でも、領土の境界線をいじりにな」


 街の近くで、元々街道だった場所を整備しているミィ達を見ながら俺は隣にいるヴァズに問いかける。 彼もまた、硬い顔のまま自身の意見を口にした。


「魔族至上主義、そして魔王候補の自称……か。ダンドランは広いのになぜそうも奪い合おうとするのか……わからないな」


「私もさ。北はまあ、山脈が厳しい土地なのはわかるがな。それでも中央とて、まだ未開拓の土地ばかりであろうにな」


 そう、この土地の懸念はさらに西、あるいは北に行くと別の魔族が治める領地に接しそうになるということだ。

 魔族が主に住むダンドランは広さでいえば人間が主に住んでいるレイフィルドの3倍以上は軽くある。

 これも俺が知る限りの土地の話なので、実際にはもっと広いかもしれない。そんな大陸を、かつての戦争で数を減らした魔族が生きているのだ。

 むしろ魔族が把握している土地の方が少ないぐらいなのだ。


 それなのに、北と西、そして中央に住む魔族達はかつての魔王統治時代が忘れられないとばかりに人間でいう貴族の様な立場を自称しているらしい。

 経済の問題からか、貨幣の鋳造は中央の都市で行われているらしいけど、この状況だといつ物々交換の時代に戻るか……わからないな。


 実になるかわからない未知の開拓より開拓済みの物を奪う方が楽、というのは理屈ではわからないでもないけど、それは奪われる相手にとっては良い話では当然、無い。


「今は火の粉を振り払うのみってとこかな?」


「うむ。そのためにも色々と惜しむわけにはいかない」


 現状の確認を終えて、俺達は街へと戻る。

 道すがら、ふと落ちていた石を適当に拾って調べる。


(やはり、か)


 微量だけど、魔力のような物を感じる。


「ラディ?」


「ああ……どうも鉱床以外の石も何か変だなと思ってな。そこいらにある石材ももしかしたらこの場所、魔力の道でもあるのかそれの影響を受けてるんじゃないか?」


 手の中の石をヴァズに放りながらそう答える。

 思えば、なぜ火竜はこんな火山でも何でもないような場所で卵を産むことにしたのか。

 露天掘りの場所が巣にちょうどよかったから、という話も全くないわけじゃないと思うけど、俺としては魔力の泉、あるいは魔力の道を理由に考えている。


 世の中には、大地の魔力が噴き出る場所、あるいはそれが通る場所というのがある。

 俺も何度かそれを利用して高位竜と戦ったり、かつての勇者は魔王とそうして戦ったともいわれている。

 お湯の中に物を入れれば温まるように、そんな魔力のあふれる場所にある物が影響を受けないとは誰も言えない。

 現に、適当に拾った石が上手くすれば魔道具に使えそうなものに見えるのだからこの土地の特殊性がわかろうという物だ。


「なるほど……。職人だけではなく戦士も増やさなくてはいけないか」


「しばらくは何もないと思う。火トカゲも寄ってこないしな。

 カーラがミィ達と一緒に木も切り倒してるし……なあ」


 まだ時間はある、とヴァズの背中を叩いて別れる。

 向かう先はミィたちが街道を広げている現場だ。





「お、やってるな」


 視線の先では、街道が狭くなっているところに生えている木であるとかを魔法、あるいは自力で排除しているところだった。

 細い物は手で、あるいは武器で。中ぐらいの物は魔法や協力して。

 そして、太い物や街道沿いで邪魔なものはカーラの出番である。


『ガウ!』


 叫びと共に口から出るのは威力も範囲も絞った、ドラゴンブレス。


(正直、竜種の器用さを舐めていたな)


 今まで戦うばかりであったから気が付けなかった竜種の頭の良さに俺はひどく驚いていた。

 昨日の今日だというのに、カーラは魔法を手加減するかのようにドラゴンブレスをかなり器用に撃てるようになっていた。

 今もまた、数本の木だけをなぎ倒せるように威力を絞ったブレスが放たれ、狙い通りに根元から焼き切っていく。

 魔力のこもった炎は普通の物と違い、柔らかい何かを切り裂くかのように木が燃え、焦げ付きながらえぐれていく。

 よほど力を集中しているらしく、切り口から燃え広がる様子はない。


 常に水の魔法が使える子をそばに置いているからか、山火事の心配もないようだ。

 もっとも、雨期が終わったばかりなのであちこちは水気に溢れ、そうそう燃え広がることもないだろうけれども。

 この連携を考え付いたのがミィや子供達だというのだから子供の頭の柔軟性はすごい。

 俺もまあ、大人というにはまだまだ若造だろうけどな。


「あ、お兄ちゃん!」


 俺に気が付いたミィが叫び、近くの皆も俺へと向き直る。

 ついてきた冒険団の子はほとんどが親が片親かいない子達だ。

 それでもこの街なら確実に仕事があり、生きていけるということで親も覚悟を決めて引っ越しとなったらしい。


 確かに、この先絶対必要になる物を作る街だからなあ。

 少なからず、俺達がしばらくはいるから、という気持ちで来てくれた人もいると思う。

 そう考えると、下手なことはできない。


「あんまり切りすぎると雨の時に困るから、気を付けるんだぞ」


 ひとまず、必要以上に街道を広げない様にだけは言っておかないといけない。

 ルリアは他の子達と一緒に倒した木の枝葉を細かく切り取っているようだ。

 イアはその間、空に浮かんで周囲の警戒。役割分担もだいぶ板についてきたように見える。


「ミィ、細かいのがわかんないからイアちゃんとルリアちゃんにお任せしてるよ?」


「そうか、わかんないなら人に聞く、大事だな!」


 カーラから飛び降り、抱き付きながらそんなことを言うミィが妙に可愛く、わしわしと頭を撫でてしまう。

 ちょっとだけ周囲からの視線が温かったような気がするが……気のせい気のせい。



 気のせい……だよな?


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

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