044.シスターズ オン ザ ビーチ!・前
老婆の家からのその足で領主の館に行き、どちらかがいないかを確認したところ、ヴァズは帰ってきていることが分かった。
ヴァズの部屋を訪ねると、まだ水浴びを済ませていないのか汗をかいた姿のヴァズが出迎えてくれた。
「出直そうか?」
「いや、構わない。どうせすぐに汗をかくからな……」
本人の許可をもらい、部屋に入る。招かれ、入った部屋の壁には大きな地図。
地形的にこのフロルを中心とした大まかな物だ。それでも大陸の5分の1程度は書いてあるように見える。
「少し、なかなか来ない雨季のことで相談があってな」
「ほう。偶然だな。こちらも一度話そうと思っていた」
顔の汗は布でふいたヴァズが水筒から中身をあおったあと、地図の一角を指さす。
「ここに出来れば一緒に行きたいと思っている」
偶然にか、あるいは必然か。それは老婆の指摘した、フロルから南に下がった川沿いの海岸線だった。
「少し前、海鹿が川で確保された話があっただろう?」
「ああ、何かあったのかなと思っていた奴だな」
頷くヴァズに俺は考えを巡らせる。この流れ、雨期が遅いことと無関係ではないのだろう。
ということは、この異変はその時期から予想されていた?
「海鹿は臆病な奴だ。当然、狩人が近づくと逃げる。つまり、このあたりの海辺に彼らが逃げるような奴がいるということになる。最初は一時的な物かと思ったが、海鹿たちが海に戻る気配が無い」
「まだ原因が居座っている……ということか」
この海岸線の向こうはドワーフが主に住む大陸のはずだが、彼らは大丈夫なんだろうか?
もっとも、レイフィルドとダンドランの海峡と比べると全く別物ぐらい間には海が広がっているので大きく状況は違うのだが。
「強力な魔物の中には、天候を操るとまではいかなくてもそれを力にする者がいると聞く。恐らくはそれが原因だ。そして、周囲には眷属がうじゃうじゃといるに違いない」
脳裏によぎるには海竜。
あいつは嵐の中でこそ力を発揮するため、自らの力で周囲を嵐へと変えることがある。
そう考えると、今回は海竜ではない……どちらにせよ、自然現象でないのなら何かがそこにいるということになる。
「つまり、例のごとく討伐戦。親玉を倒して、周囲はお任せするということで?」
「その通りだ。魔鉄の武器も少数だが出来上がっている。品質も確認したい。後は、カーラもだな」
ヴァズの言うように魔鉄の産出は再開され、お試しながら武器の生産も始まっている。
確かに試すとなれば魔物は最適であろう。それにしても、カーラをか。
「確か、竜は魔力以外も食べることは食べるのだろう? であれば、相手には困らないのでは、と思うのだが」
「なるほど……言えてる」
竜がお腹を壊したという話は聞かないのできっと大丈夫……かな?
その後はとんとん拍子にという感じで話は進み、ミィたちが戻ったらすぐに出発となった。
置いてくと後でミィたちが騒ぐからね、仕方がない。
何より、カーラはミィを母親だと思っているのか余り離れたがらない。
今回は出発前に何度も説得した結果の留守番なのだ。
「それと、今回はテイシア、それにソーサバグの時に行った街からも援軍が来る。
この川はフロルだけのものではないからな。同盟前の共同作戦、といったところだ。失敗するわけにはいかない」
地図を見ると、確かに問題の地点へと川が伸びている。
上流には例の街。テイシアもまた、この海岸線を通ることがあることと、水不足なのは向こうも同じ、いや……人の数を考えると向こうの方が深刻か。
「思ったより大所帯になるかもしれんな」
「ああ、雨が無ければ文字通りに干上がってしまう」
その後の打ち合わせの結果、街に布告して援軍の合流後、一気に目的に向かうとのこと。
その参加者には冒険団も参加許可が出た。厄介なのもいそうだけど、それ以外にも手ごろな何かがいそうではあるし、そうでなくても道中の水確保だけでも役に立つことは確実だから、だそうだ。
子供達も喜ぶと思う。街のために何かしたいと思う頃だからな。
それから2日後。
ミィたちが戻ってくるなり、カーラは喜びのあまり河原から広場までかっとんできた。
距離はそこそこあるはずなのに、やはり何かを感じるのだろうか。
「わわっ、ただいま。カーラちゃん、元気だね!」
『ミィがいるからよ。私じゃこうはいかないもの」
「……ミィ、おかあさん。えらい」
また少し大きくなったことにびっくりしている冒険団の少年少女を尻目に、首元をこすりつけるように懐くカーラにミィ達は笑う。
「よし、みんなに知らせがある。雨期が来ていないのは知っていると思うが、どうやら南の海岸付近に原因となるやつらがいるらしい」
「隊長! やつらってことは魔物ですか!」
俺が合図を送るとしっかりと並ぶ彼らに感心しながら情報を伝えると、代表して質問をしてくる年長者。
見渡すと、魔物がいるらしい話に怖がっている様子は見られない。良い事でもあるし、悪いことでもある。
「恐らく、な。どれぐらいいるのか、どんな相手なのかはわかっていない。だが、テイシアと他の街からも援軍がやってくることになっている」
冒険団の間にざわめきが広がる。
憶測を口にする子、やる気に満ちたつぶやきをする子、そして、どんな奴らだろうと怖がる子。
俺は1人1人を見ながら静かになるのを待つ。言われるままに依頼をしていては成長しない。
こうして憶測であっても何かを話し合うというのは大事だ。
「みんな参加する気になっているようだが……」
ここで敢えて言葉を区切って、話が先走っていることを気が付かせる。
まだ、雨期の来ない原因について推測と予定を継げただけなのだから。まあ、行くんだけどさ。
「街の守りも重要だ。そこで水魔法を使える者の半分はここで街の畑や生活の維持。
残りは一緒に現場に向かう。水魔法が使えない奴は役目はあるが、しっかり準備が必要だ。……わかったか?」
「「はい!!」」
次は人選はどうするのだと全員の目が訴えている。
将来が楽しみなことである。魔物と戦うだけが戦いではないと、すぐにわかってくれるはずだ。
どちらかというと終わらない水の供給の方が戦うよりつらいかもしれないしな?
50人近くに膨れ上がった獣魔少年少女冒険団。
最近ではフロルに引っ越してくる人も増え、その分参加者も増えているのだ。
分隊も常時4隊とし、大人がめんどくさがるような依頼もよく受けている。
合間合間にしっかりと訓練をしているので、下手な大人の集まりより戦力が上になる時もあるのが面白い。
そんな彼らだからこそ、こういう時にはしっかり連れ出してあげなくては。
ちなみに1隊はミィ、イア、ルリア、そしてカーラである。
カーラがルリアを背中に乗せ、左右をミィとイアが固める。
3人と1匹だけど、何気に最強の布陣なのだ。
「よし、では準備を始めよう」
「「わかりました!」」
元気よく叫び、子供たちが解散していく。
『海魔……かしらね?』
「どうだろうな。あいつらが丘に上がってくるとは思えないが」
イアのつぶやきに俺も腕を組みながら答える。
海魔にもいろいろいるからな、どうだろうな。
「食べられる奴、希望」
「え? カーラちゃんに焼いてもらわないと。お兄ちゃん、おいしいかな?」
ルリアの静かな希望のつぶやきに激しく反応するミィ。
そんなミィの頭を撫で、俺達も準備をするために一度家に戻ることにする。
見上げれば、夏が過ぎようというのにまだ空の太陽は強い日差しを誇示していた。
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