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042.妹曰く「はい、おーきく息をすってー」

ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。

 

「なるほどなるほど……息子殿が慌てて飛び込んできたかと思うと……これはとびきり愉快な物を持って帰って来たねえ、ラディ」


「まあ、偶然の偶然というもので」


 楽しさと、興味が入り混じったつぶやきに俺も微笑みながら答える。

 ここはフロルから少し離れた何もない河原。覆い隠すような物は無いが、逆に邪魔になる物も無いような場所だ。

 産まれたその場に置いていくということは出来ず、火竜の子供と一緒にフロルへの帰路。

 最終的にはひとまずここに待機ということでヴァズがヴィレルを呼びに行ってくれたのだ。


 護衛もそこそこにやってきたヴィレルは俺達からの説明を聞き、そしてミィ達とじゃれ合う火竜の子供を見、笑う。

 その笑みに黒さは感じない。ルリアがいるから嘘もつきにくいとは思うけどな……。


「ふむ。まずはこのまま殺すのはやはり無しだな。もったいないというのもあるが……試してみたい。ラディ、チャネリングの魔法は使ったことは?」


 為政者の顔に戻ったヴィレルからの問いかけ。

 その内容に俺は首を傾げた。チャネリング……戦闘には使った覚えがない。

 魔力消費も少ないし、特に誰かに祈るというほど特定の神様のための魔法でもない。


「確か伝書鳩や家畜に使う意思疎通の……ミィに火竜の親となれと?」


「そこまでは言わんが、しつけぐらいはしておかんとさすがに許可は出せんぞ?

 かつて、火竜に焼かれた者はいないが、嫌な思い出には違いないのだ」


 一瞬、火竜とミィを利用するつもりでもあるのかと考えた俺だったが、ヴィレルの言葉に改めて1人と1頭を見、頷いた。

 確かに、上手く覚えてもらわないと火竜はそのままかなりでかくなる。

 しっかり成竜のように力の制御を覚えてくれれば違ってくるはずだ。

 そうなれば有用性は色々示せるはず。

 それまでは火竜は恐怖の対象として記憶に刻まれているのだから受け入られるとは思えないのも事実だ。


「了解しました。しばらくここで様子を見ながらやってみるということで」


 いざという時は自分が責任を持って止めますと言い切って、ひとまずの許可をもらうことに成功した。

 ここで火竜と過ごし、しつけというか周囲を巻き込まない術を身に着けてもらわねば。

 後は……。





「いい? がおーってやると危ないから、中にぐっと縮めるんだよ?」


『ガウ?』


 ミィとつなげたままのチャネリングから、火竜の思念が伝わってくる。

 戸惑いと、やる気、その両方だ。火竜の魔力は竜種の中でも非常にわかりやすく、その分強力だ。

 単純に自身を火の塊として鎧と化し、爪にも炎をまとわせて相手を切り裂いたうえで焼く。

 そして何よりもブレスだ。


 また火竜に限らず、実は大人の竜は何も食べなくても生きていける。

 正確には、マナを糧として自身の竜玉で魔力と生命力のような物を生成できるのだ。

 なので、例えば動物を進んで食べるということは無い。

 勿論、食べることでその対象からマナを吸収する、ということもできるらしいが……。


 竜玉は卵の周囲にあった竜魔石を体内で圧縮、結晶化したものと言われている。

 要は第二の心臓ということだ。子供の内はまだ外部から何かを摂取したり、ミィにやってもらってるように魔法などを吸収していくことで成長する……と、聞いてはいるのだけど育てるのなんて初めてだからな。


 どきどきしているのは間違いない。

 こうしてる間も、ミィは魔法の炎をご褒美に火竜をしつけている。

 むやみに吠えないこと、襲い掛からないこと、自分が大きいから抱き付こうとすると危ない事、等だ。

 そして今日は魔力の制御を教えている。自覚が無くても炎が漏れる、それが火竜だ。

 火竜の隣に立ち、汗だくになりながらもミィは手を伸ばし、息を吸っては吐いてと繰り返す。

 面白いことに火竜もまた、ミィを親だと思っているのか一生懸命に従っている。


『ガウ……ガウ!』


「そうそう! おーきく息を吸ってー、吐いて―。ぐっと縮める!」


(おお……)


 それまでやはり漏れてしまい、河原のあちこちにあった残っている水場が湯気を立てていたのだが、それが収まったように見えた。

 火竜からの追加の熱がひっこんだのだ。今はほんのり温かいかな?といったところだ。


「えらいえらい! やったね!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ね、火竜の周囲を飛び回るミィ。

 自分が役に立ったのがうれしいのか、非常にうれしそうだ。


「ミィ、そろそろ名前を決めてあげなさい」


「え? あ、そうか……うーん。よし、カーラ、キミは今日からカーラちゃんね!」


 何気なく言った俺だったが、続いたミィの言葉に一瞬固まる。

 あれ、女の子だったんだ。嬉しそうにこちらも翼を広げながら飛び回る。

 言われてみれば確かに女の子っぽい? あ、飛んだ。

 産まれて1週間で空を飛ぶとか、早いな、うん。

 まだちょっとしか飛べず、浮かぶといった方が正しいけど。

 ひとまず、ヴァズとヴィレルには報告だな。






「この短期間ですごいものだ。よほど相性がいいのだろうな」


「何、子供は素直ということだ。息子殿とて昔は……」


 感心した様子のヴァズの背後から、忙しい身であるはずのヴィレルがからかうように言いかけると口をつぐむ。

 さすがに一人息子には嫌われたくないらしい。


 2人の視線の先で、かなり仲良くなったミィを背中に乗せて河原を駆ける火竜、カーラの姿がある。

 今日はルリアも付き合っており、時折氷で目標を作っては殴り、尻尾ではじき、爪で貫く。

 最後には小さいながら火球を生み出してボシュン、と砕いている。

 続けて打ち出された魔法を避け、時にははじき、動きの特訓に移っている。


 ミィを背中に乗せたままだから、まるで竜騎兵とでも呼べそうな姿になっている。

 これで大きくなったら竜以外の相手には敵なしとなるな……空から襲い掛かる竜と魔法を使う獣人の戦士。

 控えめに言っても贅沢の塊で、強敵だ。


「さすが火竜よの、あの大きさでも並の戦士では戦えまい……ふむ? ラディ、あの炎を例えば、そう例えば……金属に向けて絞って吐けるのか?」


「金属に? なるほど、魔鉄の武具だけでなく、竜の鍛えし特別な、と」


 悪く言えば利用されている、と言われる状態になるだろうけどこれは非常にいい話だ。

 火竜はさすがに人ではない。街の近くで過ごすには色々と理由がいる。

 かといってまたあの露天掘りの穴に戻るには採掘の邪魔だ。

 であれば火竜の寄り添う街、としてしまい、さらに火竜が役に立っているとなれば全く別の話になる。

 俺の知る限り、竜と共存した話はほとんどない。もう伝承の域だ。


「ふふふ、話が速い。出来れば冬には少量でもテイシアに出してみたいものだ。忙しいとは思うが、よろしく頼むぞ?」


「俺はミィ達が楽しく生きられるならそれでいいですよ」


 いつの間にかイアも合流し、3人と1頭が河原で駆け回る。


(ふむ……まだ体は出来上がってないな……)


 よろけるカーラの姿を見て、俺が出来るのは物理的な特訓だな、と思うのだった。




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