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003.自称妹は金髪少女でした

1人でもこんな妹どこに行けば拾えるの!とか思ってくれたら幸せです。

ストック数話分は毎日投稿でその後3日に1回予定です。

 ふと目が覚め、そのまま外を見ると窓の外はまだ薄暗い。

 まどろみの朝。 勇者として戦いに身を投じていた頃はいつ誰に襲われるかと警戒し、熟睡した記憶はあまりない。

 そう考えると、今はとても贅沢と言える。畑を見に行く役目の奴もまだ起きるかどうかと言ったとこだろう。


(二度寝でもいいが……ん?)


 起き上がろうとして、両腕に重みと温かさを感じて動きを止める。

 毛布がかかっているので見えないが、片方は間違いなく、ミィだ。


 いつも俺の右側に潜り込み、抱き付いて寝ている。

 しかも潜り込むのが好きらしく、頭をいつも出さずに俺の腰当たりに丸まるように抱き付いている。夏場だと熱いだろうけど、今の季節なら問題ないか。

 下手に動いて彼女を起こしてしまう訳にもいかないので息をゆっくり吐きながら姿勢を戻す。


 兄は妹の安眠を妨げるわけにはいかないのだ。問題は、左側だ。


「またか……」


 頭だけをなんとか動かして下を向くと、そこには予想通りの金色。

 こちらも毛布にくるまっており、顔の下半分は見えないけど間違いない。

 イアがミィのように俺に抱き付いているのだ。しかも若干浮いて。


 俺の視線の先で、呼吸に合わせるかのようにイアが俺の腕ごと浮いている。

 おかげで左側だけ毛布が少し浮いてしまい、隙間がある。起きてしまった理由はこのせいらしかった。


(こうしてると見た目通りの年齢に見えるんだけどなあ)


 ふわふわと揺れながら俺の左腕をがっしりとつかみ取っているであろうイア。


 胸元はささやかであるがゆえにそう感じないが、手首に近い方は足でしっかり挟み込まれているので生足だということがはっきりわかる。

 ただ抱き付かれているだけなので動かそうと思えば動かせるけど、変な場所に当たってしまうな……。


(下手に動けないな……イアらしい)


 どうせ起きた時の俺の反応を楽しみにしているのだろうと考えた。

 イアは出会った時からこんな感じだった。彼女曰く、イアは初代魔王の残滓であり、将来を憂いての保険であり、ミィの中にあった魔王の力の蓋でもあるという。


 イアと出会ったのはこの土地に来る前、レイフィルド大陸最西端にあるそびえたつ壁の様な雪山で吹雪に遭遇した時の事だった。








「くっ、しつこい!」


「みゃああああああ!?」


 左手にミィを抱え、俺は祈りである詠唱もそこそこに後方に風の壁を作り出す。

 すぐさま、白い力と言った方が早いほどの吹雪の塊がぶつかってくる。

 まともに食らえば生き物はすぐさま凍り付く、そんな強さだ。


 展開した風の壁もその勢いに押され、結構な勢いで俺は後退してしまう。

 腕の中のミィも思わずいつもは我慢している叫び声をあげてしまうほどに。


「ミィ、舌をかむぞ。しっかり抱き付いてろ」


 コクンと声を抑えて頷くミィを改めて抱き寄せる。


「グルゥウウ」


 吹雪の向こうから聞こえるのは低く、腹の底まで響くような声。

 雪山を超えるべく魔法を身に帯びた俺の力を感じてやってきたのか、唐突に襲ってきた白竜の物だった。

 青白い体躯と鱗、永久凍土をやすやすと切り裂くであろう爪、吹雪すら凍らせそうなブレス。


 高位竜が1柱、フェルアノークだ。目撃されることはほとんどなく、不老とも不死とも言われる伝説の怪物。

 無事なことに納得がいかないのか、にらみつけるような瞳で俺達を見る。


(ここで倒すと雪崩が……やばいな)


 フェルアノークを倒せるほどの戦いをしてしまえば、俺達自身もそうだけど、麓まで届くような雪崩が起きてしまうに違いない。

 出来るだけ襲われないように平地の少ない場所を選んだのが裏目に出たようだ。

 ただでさえ、コイツのブレスや魔法のせいで周囲は雪が異常なほど降り積もっているのだ。


 第一、高位竜は倒しても不滅と言われ、何年かするといきなり復活してくるらしい。

 もう神様のようなものかもしれないな。ともあれ、今はコイツから逃げなければ。


「ミィ、しっかり掴まってろよ」


「無理しないで、お兄ちゃん」


 小さく、それでも必死に口にしたであろう声に微笑み、ミィを抱き直す。と、竜の口内に魔力の光。 経験上、必殺の一撃の構えに他ならない。


(やばい! こうなったら!)


 魔力の含まれたブレスは威力が桁違いなことが予想でき、属性に対応した魔法だけでは防げない恐れがある。

 俺だけはともかく、ずっと抱き付いたままのミィは耐えるのは辛いはずだ。 咄嗟に腰からダガーをつかみ、竜へ向けて投げ放つ。

 普通に切りかかれば鱗1つ切れなさそうなダガー。それが竜の口内へとすべり込み、爆散した。


 とあるダンジョンで見つけた魔道具の1つ。ため込んだ魔力を爆発力に変えるダガーだ。

 本当は再利用可能で使い捨てにするにはもったいないけど仕方がない。

 勇者である俺の魔力なら馬鹿にできない効果を発揮するはず。


「よし、今のうちに。何っ!?」


 俺は高位竜という物を甘く見ていたらしく、煙と吹雪の向こうからフェルアノークの巨体が迫ってくるのを正面から見ることになる。

 1つ1つが俺の胴ほどありそうな爪が吹雪を貫いて迫る。


 なんとか聖剣で防ぐべく剣を構えようとしたところで俺の腕の中で、誰かが魔力を産みだした。

 誰かがと言ってもミィしかいない。驚きにミィへと視線を思わずやってしまう。

 その間にも相手の攻撃は迫っているというのにだ。


 白と青の世界に広がる金色の魔力光。

 世界が悲鳴を上げるような音を立て、大きな魔法陣はそのまま魔力障壁と変わり、竜の爪を受け止める。


「ミィ?」


 俺は茫然と、竜へ向かって右手を突き出すミィを見る。

 そこにあったのは普段の優しい目ではなく、意志に満ちた勝気な物。

 吹雪と、爪と障壁のぶつかった衝撃でミィの桃色の髪が躍り、それを包み込むような金色が見えた。


「馬鹿ね。兄なら妹のために踏ん張りなさいよね! 出てきちゃったじゃないのよ」


 ミィならば絶対言わないような口調で、彼女はなおも魔力を膨らませ、次なる魔法陣から魔法を生み出す。

 それはなじみのある土の神……ベヒモスへの祈りによる力の行使。


「集え集え集え! アースソーン!」


 ミィ?が言葉を解き放ち、フェルアノークのいる地面、いや雪の下から無数の茶色い何かが鞭のように伸びて竜を拘束し始めた。


「今の内に!」


「お、おう!」


 あれでは拘束しきれない、と俺が思う間にミィ?が叫び、俺はそれに従ってその場をすぐに飛び去る。雪原の少し上あたりを滑るようにして進み、いつしか吹雪が止んだことを知る。


 山脈の西に抜けたのだ。


 フェルアノークが追ってこないことを確認し、俺はわずかな木立の間に潜り込むと木に背中を預けて息を吐く。


「はー……、お前誰だ?」


 落ち着いてきたところで、腕の中にいるミィ……に問いかける。

 抱き付いたままのその姿はミィのまま。


 しかし……。


「誰だとはひどいわ。ずっとミィと一緒だったのに、薄情なお兄様ね」


(ずっと一緒? どういうことだ?)


 と、俺の視線の先でミィから何かが浮き出てくる。ふわりと浮く人。

 金色の髪に、ぴったりとした光沢のある服。何故だかスカートだけはひらひらとしたものだ。


 ミィと同じぐらいの少女がそこにはいた。


「あ、お兄ちゃん。あれ?」


 ぱちくりと瞬いたミィがこちらと少女を見、困惑の表情をする。当然だろうなとは思う。


「初めまして。ミィ、そしてお兄様。初代魔王の現身であり今代魔王の……蓋……かしら?」


 イアよ、といって笑う姿はまばゆいほどの姿で、何故だかミィは驚いている俺を尻目に彼女に抱き付いていた。








「ずっとミィと一緒だったから私も妹同然よ、って。今思えばとんでもない理屈だな」


『あら、そうかしら?』


 小さなつぶやきに答える声。


「起きていたのか。イア、実体化は疲れるんじゃなかったのか?」


 立ち木に登るように俺の腕を少し上がってくるイアが赤い瞳で俺を見る。

 そういえば聞いていなかった、と思い出して何故抱き付いたまま寝ているのかを聞く。

 寝ている意味が無いように思えたからだ。


『全然大丈夫。寝てるときはお兄様にくっついてれば勝手に魔力をもらってるもの』


 あっさりと、イアはとんでもないことを言いだした。

 道理で朝は少しだるいはずだ。おまえっと思わず声を出して動こうとしたが、それを予期していたかのようにイアがぎゅっと先ほど以上に抱き付いてくる。

 肩や二の腕、そして手首付近にかけて感じる少女特有の暖かさと感触に思わず動きを止めてしまう。


 イアはもちろんミィと同じまだまだ子供に見える。しかし、魔王だったという経験を活かしているのか、1つ1つの仕草が妙に様になっている。


「駄目よ。ミィが起きちゃうじゃない」


「そう思うならもうちょっと慎みをだな……。第一、なんで何も着てないんだよ」


 天井を見ながら愚痴のようにつぶやく。


「私、寝るときは付けない主義だもの。いいでしょ別に。それに他人ならともかく、兄妹じゃない。何がいけないの?」


「誰が兄妹だ。実の……いや、すまん」


 からかう様なイアの言葉に反論しようとして、俺はそれに気が付いて謝罪を口にする。


「そうよ……私とミィは一緒。だから……ね? それとも……お兄様は妹なのに気にしちゃうの?」


「っ! それはっ!」


 小悪魔、とはこういう奴の事を言うのだろう。

 見事な速さで瞳を潤ませ、姿勢だってきっと計算している。

 それでも年齢を超えた何かを感じる姿に言葉に詰まる。


「……にゃ? おはよう、お兄ちゃん、イアちゃん」


 なおもイアが動き出そうとしたところでミィが起きてしまった。

 両耳がひょこひょこと動いている。眠そうな瞳でぼんやりと周囲を見、俺とイアを見つけてにぱっと笑う姿に色々な何かが抜けていくのを感じた。


「……朝ごはん食べるか……」


「そうしましょ……」


 小さいのか大きいのかわからない騒動に妙に疲れた気がしながら、俺達は今日を始めることにする。






裸マントとか、いいですよね。


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いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

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