037.冒険団が行く遺跡探検!
「魔王統治時代より前の遺跡? 大丈夫なのか?」
何事もなくフロルに戻って来た俺達を迎えたのは、ここに行ってみたい、と集まって来た冒険団の少年少女たちだった。
ほんの1週間程度しか離れていないのに、幾人かは良い顔をするようになっている。
自分の足で立っている、一人前の顔だ。戻ってきた時、不在の間の礼をロランに言うと、やれることをやっただけだ、と照れくさそうな返事が返ってきた。
彼がこの話を聞いていないということは無いと思うが……。
「ねーねー、いいでしょー? もう何にもないってみんな言うしさー」
「何もない? ああ、探索されつくしてるのか」
生意気盛り、といった感じの魔族の少年の言葉に、地図へと改めて視線を落とすと、北西に少し行ったところにある丘のふもとにあるようだ。
確かに、未発見だった場所や危険のありそうな場所ならロランどころか他の大人も止めるよな。
ルリアを紹介して元気に騒いでいる女性陣と、ヴァズと一緒に持ち帰って来た物資に興味津々の男性陣。
なるほど、子供たちにとってはこっちのほうが大事か。
しばらく目を閉じて考える。危険性は恐らく少ない。
古代の遺跡の防御機構というのはひどくめんどくさい印象があるが、大体は……そう、大体はなんとかなる。駄目になってるやつも多いしな。
「よし、行こう。希望者を募って準備をしっかりとな」
「やった! すぐ準備するよ! 行きたい奴は決まってるんだ!」
思い思いの方向に駆け出していく冒険団の少年少女。
獣人と魔族の子が手を取り合って走っていく姿に、俺はフロルの未来を見た気がした。
出来れば人間もこういった輪に加わってほしいものだけど……。
(それにはあの対魔族を煽る一部の教会がなぁ……)
そのうち、ミィを魔王転生先と認定して襲撃の指示を出したところには顔を出さないといけないかなとは思うが、今はまだ早い気がする。
なにせ、相手は国教として食い込んでいる上層部も上層部だろうからだ。
その割に、神様の言葉をまともに聞けていないのだから実力は知れている。
だからといってまとめて吹っ飛ばす、なんてことは出来ないからな。
今は、今できることをやっていこう。という訳で荷物を家に置き、3人に冒険団に出かけることを告げる。
『もう、働き者なんだから』
「お兄ちゃん、お土産よろしくね!」
「いって……らっしゃい、にーに」
ついていくと言い出すかと思ったのだけど、ルリアに街を案内するの、と彼女に抱き付きながらミィが笑う。
ルリアもそんなミィに抱き付かれてまんざらでもなさそうだ。
仲がいいのは結構なことである。お兄ちゃん的には少し寂しいけれど。
『次の冒険団の仕事もついでに探しておくわ。また開拓員が増えたらしいから』
「助かる。じゃあ畑も広げないといけないか。よし、行ってくるな」
3人に見送られ、集合場所の広間へと向かう。
僅かな時間なのに、確かにまたフロルは変わったように見える。
大きさを変え、人の動きを変え、そして、きっと立場も変わっていくのだろう。
東の、対レイフィルドの要所、あるいは防波堤としての場所からダンドランにフロルありと言われるような街になるのをヴィレルは目指していると思う。
そのうちに、何らかの戦いになることだろう。
ミィやイアが戦いが嫌だというのなら、俺は別の場所に行くこともいとわない。
ルリアだっていることだしな。そんなこと思いながら、集合場所へと着くと既に10人ほどの少年少女。グイナルと荷台も用意してるあたり、本気だ。
「あ、隊長! こっちは準備できたよ!」
まとめ役の少年の発言に、他の子達もわいわいと挨拶をしてくる。
1人1人の顔を見て、体調を確認していくが特に問題のあるような子はいない様だった。
「よし、じゃあグイナルの荷台に乗りこめ。出発だ!」
見張り役に何人かは直接背中に乗せ、残りは荷台に。
合図とともに、グイナルは結構な速度で走り出す。俺は、普通にいつも通りの手段で走るけどな。
「隊長はえええ」
「ちょっとした魔力の応用だ。すぐにみんなも出来るさ」
そう言いながらやっているのは足裏への魔力障壁の展開である。
小さなそれを何度も足裏に展開し、その反発で前に動く力を手に入れるのだ。
魔法で空を飛ぶことも出来るけど、何かと戦ってるときなんかはこうして足場の手ごたえ……足ごたえ?がないと威力が剣に乗らないからな。
俺は今、まだ壊れていない鉄剣とソーサバグの素材による剣、甲殻剣を両方下げている。
二刀流をするつもりはないけど、盾代わりに使うぐらいはできるだろう。
その機会があるかは別として、だが。途中に休憩をはさみ、さらに進むと向かう先の道が細く、あまり利用されている印象の無い物になってくる。
なるほど、探索されつくしているらしいというのはやはり当たりのようだ。
行く先が草でほとんどが覆われており、そのまま進むのは少し面倒な状態になって来た。
俺はグイナルの足を止めさせ、こちらを見るように言う。
「よーし、いいか? 魔法は強けりゃいいってもんでもない。
大切なのは、弱いはずの魔法に力を込めて強くして使う、あるいは、元々強い魔法を手加減して適切な威力に収めるか、だ」
俺も手加減が出来ているかというと時にはなかなか難しいのだが、少なくともここで大規模の威力は必要ない。
詠唱するのは風の下位神への祈りの言葉。途中、上位神のいくつかから、最近絡みが少ないねーという思念が届くが謝っておくだけでさすがに今回は使わない。
だって、草を刈り取るだけなのだから。
いくら本当に神様なのか?と思うほど気軽に絡んでくるような相手とはいえ、下手に力を借りて正面がみんな吹っ飛びました、ではシャレにならない。
「「おおおー!」」
子供たちの声が響く中、俺の手から放たれた緑色の光を伴う刃が木を避けながら草をさくさくと刈っていく。
もしかしたら小動物がいるかもしれないが、その時はご飯になってもらおう。
ぎりぎり残っている道を広げるように風の刃は突き進み、しばらくして消えたのがわかる。
「直接相手を倒すんじゃなく、この前の戦いみたいになんでも役割があるってことだな」
聞いた話によれば水魔法で汚れを取るのに頑張ったりした子もいたはずだ。
俺がそういうと、やはりどこか自分も戦って活躍したいという気持ちがあったのだろう。
何人かが恥ずかしそうに頭をかいたり、バツの悪そうな顔をしている。
うん、こうして自覚があるならきっとみんな大丈夫だな。
俺は……それができなくて小さい頃色々失敗したのだ。
「よし、先へ進もう」
そしてさらに道を行くことしばらく。草が無造作にはえ、荒れ果てた道に人工物が混じってくる。
レンガや敷き詰められた石等だ。唐突に視界が開ける。
人の手が長い間入っていないであろう自然の中、それはあった。
(遺跡? いや……古代の神殿か?)
魔王統治前ということで、下手をすると1000年以上前ということもあるかもしれない。
とっくに森に埋もれててもいいような物だが、不思議な物だ。
子供達も、言葉なく建物というか遺跡を見上げている。
経験という点では、やはり来てよかった。後は、中が安全かどうかだが……ここまで来て帰るというのも無理があるな。
「グイナルをここに固定。入る準備をしよう。毒虫や魔物が入り込んでるかもしれない、油断するなよ?」
「「はい!!」」
揃った声を聴き、準備を始める彼らを背に俺は建物をじっと見つめる。
(何かあれば……突破するのみか)
そんなことを思いながら、鉄剣の柄に手をやって遺跡へと進むのだった。
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