036.いもうとひゃくにんできるかな
いや、まあ、100人は無理なんですが……。
意外と俺は暇というのが嫌なのかもしれない。
というのも、買い食いや街を見て回るのも3日目には多少飽きが出てきたのだ。
どちらかというと、何も働かずに過ごすのがどうにもムズムズしてるというのが正しいかもしれないが。
かといってヴァズも来るのに何か仕事をするのもなあ。そんなことをミィとイアに言ってみると、二人して笑われた。
「お兄ちゃんは向こうにいた時もすぐにどこか行ってまた帰ってきて、忙しかったよね」
『ほんとよ。まるで動いてないと生きていけない、みたいな感じだったわよね』
こういう時の2人の連携には太刀打ちできる気がしない。
首をすくめてごまかすしかなかった。だからというわけではないけども、俺はルリアと一緒に部屋にいた。
本人に頼まれ、ルリアに体作りの運動を教えているところだ。
と言っても走り回るということではなく、柔軟に近いだろうか?
ルリア以外の2人ともまだ小さい体なのでその意味では出来上がっていない。
その分、体も柔らかくいろんなことができる。
「……にーに、ぷるぷるする」
「頑張れ。元気にならないと遊びに行くのも大変だぞ?」
小さな顔に汗をかき、両手に1つずつ持った水筒を落とさないように必死に頑張るルリア。
意識しないと普段使わないような場所はちょっとの時間でも効果的に体を鍛えられる。
いつぞや山で出会った武芸者はそういってよく後ろ向きに坂を上ったり、妙な姿勢を取ったりしていたのだ。
そう、別に俺もルリアに何かさせるために鍛えているわけではない。
フロルに一緒に帰ったとしても、外で走り回れるぐらいにならないと一人で留守番、なんてことにもなりかねない。それでは寂しいだろうという判断だ。
「魔法使っちゃ……駄目?」
「ルリアが鍛えたいって言いだしたんだぞ?」
ルリアは素直な子で、大変であろうこの運動もなんだかんだと朝晩としっかりこなしている。
彼女の体は俺が驚くほどに健康を取り戻しており、エルフが長命かつ強靭な種族だというのを強く印象付けることになっていた。
この発言もどちらかというと甘えたいのだろう。
ミィとイアは気になって買った道具というかおもちゃのような物をあれこれ触っている。
対の絵札がいくつも束になっており、めくって同じのを当てるというのがお気に入りだ。
2人もあまり買い込んでも持って帰るのが大変だと気が付いたようで、ご飯の時以外は出歩かないようになっていた。
(泳ぐ場所があれば別だろうけどなあ)
そんなことを思いながら、まだ頑張っているルリアを見ると……そろそろ限界みたいだ。
「よし、その辺にしとくか」
「うう、むきむきになっちゃいそう」
大きく息を吐くルリアの顔を布で拭いてやり、適当に果物を切って渡す。
この硬い中に白い果肉が入っているのは3人のお気に入りで、下手をするとご飯もこれで済まそうとするからこういう時ぐらいにしかあげないのだ。
「あー! ルリアちゃんアレ食べてる!」
『もう、私もお気に入りなのに、ほいっと』
ミィが指さして叫ぶ中、イアは普通に魔力を練って魔力障壁を器用に下から上に展開、籠から1つを手元に弾き飛ばすという芸当をやってのける。
「こら、はしたない真似はするもんじゃない」
『誰も見てないからいいじゃない、ねー?』
どこかで聞いたことのある、女の子が集まると別の生き物になる、という話をなんとなく思い出す。
現に、ルリアとそろった3人は何がどう楽しいのかわからないけど、何事かしゃべっては笑い、ころころと表情を変えている。
ミィとイアが、きっとつらい体験をしたであろうルリアのためにわざと話を振っていることは本人もなんとなくわかっていると思う。
何にせよ、笑顔が出てきたのは非常にいいことだ。
(妹は、良いよなあ)
そんなことを思いながら、今日明日にでもつくであろうヴァズの事を気にする俺。
ヴァズはルリアを見て何か反応するだろうか?
「ラディ、あれか? 大陸中に妹を増やすのが実は野望だったりしないか?」
翌日、出会うなり真顔でそんなことを言ってくるヴァズ。
昨夜というか深夜についていたらしいが、明るくなってから俺を探してたというところか。
「どんな野望だよ!?」
俺も思わず叫び返すが、どちらからともなく笑い出す。
「冗談だ、ただ……10人ぐらいは増えそうだな」
「いやいや、そんなことになったら将来が大変だ」
荷物を下ろすフロルの面々を横に、二人で語り合う。と、ヴァズが真顔になってこちらに少し近寄って来た。いわゆる内緒話ってやつだな。
「聞いたぞ? 見事に海魔共を退けてフロルに新たなる人材在り、と示してくれたそうじゃないか。
母上も聞けばきっと喜んでくれるだろう」
「勧誘された時にいい返事が他に浮かばなくてな。ちょうどいいと思ったら……思ってない出会いがあったよ」
背中にはグイナルの巨体。気配からして聞き耳を立てているような変な奴はいないようだ。
だからこそ、俺はやや声を抑えてここで感じたことを口にする。
「ああ……そうだ、すぐにわかると思うが……思ったより動きが怪しい。
商談の後はさっさと戻って開拓を進めたほうが良いかもしれない」
「やはり、か。母上も、物資の動きをよく見て来いと言っていたよ。
出来れば何もない方がいいんだがな……そうもいかないか」
お互いに軽くうなずき、肩を叩きあうようにして離れる。
「やはり、先に行ってもらっていてよかった」
「俺も、ヴァズが後から来ると思ったから安心して過ごせたよ」
自分でもわかるほどにこやかに笑い、改めて握手。
『男の友情ってやつね……いいわ』
「お兄ちゃんの横はミィの物だもん」
「にーに、カッコいい」
いつの間にか、グイナルの陰からこちらを見守る3人の感想に苦笑しつつ、俺も荷物を運ぶのを手伝う。ミィ達も小さい物をちゃんと運んでくれるようだ。
後で何か買ってあげないとな。フロルからの交易品は俺が先行して持ってきたのとほぼ同じ。
その中には誰が狩ったのか、海鹿の素材もあったりして驚いた。
フロルからだとかなりの距離を移動するか、たまたま川を上ってきたやつを狩ることになるからだ。
(ここ以外の海辺でも何かが……?)
荷物を手に、考え込みそうになった俺の肩をヴァズが叩く。
「考えるのは後にしておこう。私も気になって仕方がないのだ。だがまずは目の前の戦いをしのいでからだろう」
彼自身も何かが入った樽を担いだまま。頷き、俺も海鹿の素材が入った箱を決まった場所へと運び込んでいく。
「ああ、そうだ。バイヤーに会う時に頼みがある」
「ふむ?」
こちらを興味深げに見るヴァズに、俺は何かを飲むような仕草をして見せる。
「例の黒い奴、売ってくれそうならいくらか買っておいてくれ。市場に売ってたやつはなんだか味が違うんだ」
「ふふ、彼は喜ぶだろうな。味のわかるやつを常に求めてるようだから」
笑ってヴァズは建物の中に消えていく。俺達は後は待つだけだ。
こうして、日差しの強い海の港での日々は過ぎ、いくつかのもやっとした予感を胸に抱きながら俺達はフロルへと帰路に就く。
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