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035.妹増えて笑顔も増える

妹、増えました。

 

 テイシアの市場は朝から活気に満ちていた。

 街に住む人と、商売のために店を出している人。ここから他の街に旅立つために様々に買い込む者、様々だ。


 俺達はそんな中を4人一緒に歩いていた。右手にはミィ、左手にはルリア。

 ルリアの左側にイアが浮いた形。大通りはさすがに歩きにくいので、少し横にそれた道を歩く。

 それでも珍しい物が多いらしく、3人とも目を輝かせている。

 俺もまた、以前に人間の街で見たような活気にどこか懐かしさを感じていた。

 人の営みという物はどこもいいものだな、と。


「あ、お魚だ!」


「ふうん。何かタレを付けてるんだな」


 ミィが目ざとく見つけた屋台は手のひら大ほどの、恐らく海の魚を串焼きにしている店だった。

 表面がやや茶色で焦げとは違うらしいことからたれをつけているのだと判断した。

 その魚から何とも言えない香ばしい匂いがこちらまで漂ってくる。


「お、兄ちゃん。可愛い3人のお嬢さんもどうだい」


 こちらも声を聞きつけたのか、陽気に話しかけてくる日焼けした魔族。


(日焼けしてると、魔族だか人間なんだかわかりにくいな……)


「じゃあ4本。これはここじゃ普通なのか?」


 そんな感想を抱きながら書いてある値段から4本分を取り出して渡す。

 慣れた手つきでお金を受け取り、串を1本ずつ渡してくる魔族は一層笑みを深くした。


「そうさ。忙しい奴はこれだけ食って昼までしのぐってのも多いな。

 頭からしっぽまで食えるからそのままがぶりといっちまいな」


 頷き、一口齧る。予想以上に味と匂いが口中に広がり、驚きが顔に出るのが自分でもわかる。

 ミィは言うまでもないが、イアもまた、満足そうにかじりついている。

 ルリアは……遠慮がちに小さく齧っている。


「誰もとらないからな。自分の速さで食べるといい」


「(フルフル)ミィちゃんが欲しそうだから急ぐ」


 何気なくそういったのだが、ルリアはそんなことを言って先ほどよりも急いで齧り始めた。

 顔を上げると、ミィが何かを誤魔化すように横を向いているのが見える。


「ミィ、駄目だぞ?」


「そ、そんなことしないもん! ミィ、我慢できるよ」


 恐らく、最初はミィも食べないなら自分が、と思ってしまったのだろう。

 それをルリアの瞳に見抜かれてしまったわけだ。今度はほっとした様子でルリアは食べているので、本当の事らしかった。でもまあ、無理もない。

 川魚と比べると海の魚はどこか味わいが違う。何がというのが難しいけど、やはり別物なのだ。

 その後も市場を冷やかしながら、あちこちで買い食いをする羽目になる。


『お兄様、気づいてる?』


「ああ……」


 静かにミィとルリアの面倒を見ていたイアが、唐突に耳元で囁く。

 他から見ると何かわがままを言っているのかな、と思われそうな仕草で。

 視線を少しだけ向けた先には金属の輝き。そう、武具だ。

 対魔物のため、とも考えられるが大体世の中において、こういう時はよくない方向で考えておいて損は無い。

 何度も結果的に騙され、戦争の片棒を担いでしまった俺だからこそ言えるのかもしれない。

 武具を積み込んだ荷台をグイナルが引っ張っていく。向かう方角は西。


(ヴァズは小競り合いは起きていると言っていたが……ふむ?)


 思っているより、魔族の間でも騒動が起きそうな、きな臭い予感がした。

 出来ることなら争いには巻き込まれたくないが、時には身を守るために何とかするときも来るのだろう。


 その時俺は……やれるのか?

 ミィ達や、ヴァズらに敵対する相手に戦えるだろうか?

 なんとも、答えの出にくい問題だ。ただ、1つ確かなのはミィ達が楽しく暮らせるためになら何も惜しむものはないということだ。

 思わずミィの頭をわしわしと撫でてしまう。


「ぅん? くずぐったいよお兄ちゃん」


「悪い。まだ食べられそうなら何か買おうか」


 ひとまずは暗い気持ちを横に置き、今に集中する。

 今は3人が楽しんでいられる方が大事だと思うからだ。

 こうして市場を眺め、話を聞いていくと色々なことがわかる。


 主に魔族に敵対する人間の住む大陸がレイフィルドだけであること。

 他の大陸の人間はそこに住む他の種族と今は折り合いをつけていることが多いということ。

 結界の問題で西側は魔族以外の種族の入植も盛んであること。

 そして、魔物の被害が増えているということ。


「……ちょっと、痛い」


「あ、ごめんな」


 知らず、手に力が入っていたのだろう。小さくルリアに呟かれ、慌てて手を緩める。


『お兄様は心配し過ぎよ。第一、やれることしかやれないのよ?』


 イアがミィの頭に覆いかぶさるようにしてそんなことを言い、ミィもにこにこと笑っている。


(そうだな、俺は1人じゃない)


 ついつい、孤独に戦っていた時期を思い出してしまうようだ。

 だけど、今の俺は1人じゃない。ミィ達もいるし、冒険団の皆も鍛えないといけない。

 少なくとも、彼らが選択肢を持てるぐらいには……と、ぴたっとルリアの足が止まり、俺達も立ち止まる。


「どうした?」


「……ちょっと、疲れた」


 ルリアはその瞳の能力のためか、物事を単純に言う癖があるようだ。

 それでもちょっと、とつけた分だけ頑張ったほうだと思う。


「よいせっと。ルリアは軽いな、もっと食べて太らないといけないな!」


『あら、女の子に太れだなんて、もうお兄様ったら』


 声を出すが、ルリアはそんなものはいらないぐらいに軽くて小さい。

 ミィもまだ子供だけど、それ以上に幼いのだ。一気に視点が上がったルリアは驚いている様子だったけど、そのうち俺の頭に手を回して前の方を向いた。


「わぁ……」


「どうだ、ルリア。広いだろう?」


 伏し目がちだったルリアの顔が正面を向き、目が輝いている。

 きっと彼女の目には、本物の活気が映っている。

 それはとても大切にしなくてはいけない物だと思った。

 ふとミィの方を見ると、こちらを伺いつつも手をつなぐだけにとどめている。


「ミィ?」


「な、何でもないよ」


 慌ててごまかそうとするミィだったが、俺の耳元でルリアが呟く。一緒がいい、と。


「ほら、おいで」


「うー、我慢するつもりだったのにぃ……」


 反対側の手でミィを誘い、持ち上げる。うん、やっぱりミィも軽い。


『あのね、お兄様が重いって思う様な子がいるとしたらサイクロプスの大人ぐらいよ、きっと』


 何かを察してか、イアがそんなことを言いながら頭に乗っかってくる。

 心なしか、周囲の視線が面白い物を見た、というような物に変わってきた気がした。

 多分、おかしな格好になっているからな。その後もあちこちを冷やかし、時には買い食いを続け、時には変な道具に笑い、時間が過ぎていく。

 夕方過ぎには、ルリアは俺の頭を掴んだまま、次はあれが良い、と自分で意見を言えるようになっていた。


「どうだ、元気が出たか、ルリア」


 夕日に街が赤く染まる中、宿に戻りながら俺はそう聞いてみた。

 朝のルリアなら、わからない、とか言っていたかもしれない。

 でもきっと、今なら……。


「元気、いっぱい出た。ありがとう、ございますっ。

 えっと、これからよろしくお願いします。それで……にーに、って呼んでもいい?」


「ミィはいいよー!」


『あらあら』


 俺は答えの代わりに、ルリアを抱いたままその頭を撫で、微笑んで答える。

 ルリアのその後の笑顔は、元気に満ち溢れた少女らしい、輝く物だった。


ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。

増えると次への意欲が倍プッシュです。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



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