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030.兄妹、ちょっとそこまでと旅に出る

 


「でっけえええー!」


「隊長、乗っていいの? いいの?」


「おう。順番にな」


 ある日の事、冒険団の集まりは子供たちの歓声に包まれていた。

 彼らの視線を独り占めするのは、四つ脚の獣。フロルに来る時にも使っていたアレだ。


 種族名はグイナルというらしい。毛の生えている部分以外は獣というよりトカゲに近い質感だが、力強さを感じる見事な体躯である。

 そんなものが何故ここにいるかと言えば、領主であるヴィレルから、別途報酬の希望を聞かれたのだ。

 なので、俺達自身と冒険団にと専用のグイナルをもらったのだ。


『これで遠出にも便利よね。子供たちの依頼の幅も広がるじゃない』


「ああ。俺達3人ぐらいなら直接乗っても十分だしな」


 よく調教されているのか、子供たちがそばで大騒ぎしても暴れる様子の無いグイナル。

 それどころか、背中に乗った何人かが歩かせると他の子が横に一緒になって走ってはしゃいでいるのに速度を合わせることすらしてくれる。


「みんなのお仕事も増えたもんね。お留守番する子はグイナルちゃんのお世話をするのもいいことだね」


「お、ミィがお姉ちゃんみたいだな」


 わしゃわしゃと耳ごと撫でてやると、ミィはえへへと笑いながら尻尾を絡ませつつすり寄ってくる。


(あれ? ミィ、尻尾が長くなってきたな)


 以前はここまで長くなかったような気がする。

 成長しているということか……まあ、体つきはまだまだのようだけど。

 そんなことを思っていると、はっとなったミィがこちらを伺うように見上げてくる。

 気のせいか、少し顔が赤い。


「お兄ちゃん、そんなにじっと見て、見たいの?」


「!?」







 そんな騒がしさの昼下がり、仕事を見繕っていた俺の背後に覚えのある気配。

 振り向けば、予想通りのいつもぴしっとした感じのヴァズだ。

 なるほど、領主の息子となれば周囲の信頼もあるし、自分がしっかりしていないと不用意な噂を招く、とこうなるのもわかるな。


「よう、元気そうだな」


「ラディも、元気そうで何よりだ。……仕事探しか?」


 俺の隣に立ち、貼り出されている物や板に書かれている物を一緒に眺めるヴァズ。

 うむ、男の俺から見てもモテそうなものだが、恐らく立場が邪魔をして相手も躊躇していそうだな。


「そんなとこだ。子供たちに割の良いのがあれば確保しておきたいし、うっかり変な仕事を受けないように、厄介そうなのがあれば警戒しないとな」


 そう、確かに獣魔少年少女冒険団は活躍の場を広げている。

 グイナルが手に入ったことにより、それは一層拡大するだろう。

 徐々に団員も増え、遊びも訓練用の広場で特訓がてら、なんてのも増えてきた。


 ただ、それでも子供は子供。

 責任を取れる範囲には限界があるし、同じ感覚でやれない仕事も多いのだ。

 成人してない子にやらせるには早いようなのもあるんだよな……まったく。

 張り紙を冒険団向けの場所から一般向けに張り替える。


「ふふ、確かにグレイタートルを丸ごと、なんてのは子供が狩ってくるには親は驚くだろうな。弟か妹が欲しいです、なんて言うような物だ」


 クックックと押し殺したような笑いがヴァズから漏れ、聞き耳を立てていた背後の人々にも小さな笑いが広がるのがわかる。誰だ、こんな依頼をしたのはってね。


「おっとそうだ。頼みというか話がある。家に行ってもいいか」


「ん、どうせこれだけだからな。わかった」


 ヴァズと連れ立って、建物を出て家へと向かう。

 道すがら、今日は仕事に参加していない冒険団の子達から、幾度も声をかけられ、その度に2人して返事を返していく。


「……子供の笑顔は、大事だな」


「ヴァズだってそんな年寄りじゃないだろう? まだ老けたこと言うには早い」


 しみじみとした様子でいうヴァズにからかいの言葉を投げながらも心の中では同意しながら家へ。

 丁度ミィが洗濯を終え、イアがふわふわと浮いて干しているところだった。


「あ、お兄ちゃんお帰りなさい!」


『あら、ヴァズも一緒なの。お茶でも出しましょうか』





「海辺の街へ先触れに出てほしい? 俺達でいいのか?」


 お茶を一口、綺麗な仕草で飲んだヴァズが口を開いたと思ったら、俺達にグイナルで行ってほしい場所があるという。

 それはこのフロルから5日ほど行った先にある海辺の街、テイシア。

 港も作られており、海洋移送の拠点ともなっていると聞いている。


「誰でもいいという訳じゃないのだが、先方が新しい物好きでな。

 出会いも新しい人が良い、という始末なのだ。幸い、交渉本番はいつもの相手でもいいらしいのだが……」


『へぇ、変な人ね。まあ、その点で行けば魔族に獣人、私が精神体みたいなものだし、相手も納得するんじゃないか、ってとこなわけね。いいんじゃない、お兄様』


 俺が人に見せるな、と強く言ったからか、最近イアは人前で足組をしなくなった。

 その代わり、気が付くと俺の視界にスカートの中が目に入るように浮いたりしてるので油断できないが。


「お魚さん……にへへ」


 ミィは……すでに旅の先に思いをはせているようだ。これで断ったら泣かれるな、多分。


「俺達でよければ。で、行く理由は交易でいいのか?」


「うむ。ソーサバグの素材やこちらに来た魔物達のもな。まずはいくつかを参考品として持って行ってもらいたいと思う」


 その後、話は早く転がっていき、ロランに不在の間を任せたり、子供たちに説明をしたりと忙しいまま出発の日を迎える。





 出発の日は、雲1つ無い陽気であった。時折吹く風が心地よい。


「では、よろしく頼む。後から私達も行くからな」


「任せておけ。友人の頼みだからな、やることはやるさ」


 グイナルの背の上から、見送りのヴァズへと手を振って前を向く。

 俺の合図に従い、グイナルが前へ前へと歩き出すと思ったより早い勢いに少し体が後ろへといく。

 やはり、荷台にいるのとではだいぶ感じが違う。走っている感じがして面白いな。

 それはミィやイアも同じようで、2人してにこにこと景色を眺めている。


「イアもそんなに楽しいか?」


『楽しいというより、新鮮味、かしら。記憶じゃお城か戦場にばかりいたようだしね。

 じっくり景色を見るなんてほとんどなかったもの』


 振り返ることなく、昔の自分は仕事ばかりだったのよ、と続けるイア。

 そんなイアに、ミィは肩を組むようにして抱き付いていく。


「ミィはイアちゃんと一緒に旅ができてうれしいよ!」


『ふふっ、そうね。私もよ』


 どうやら俺がいない間に、2人は前より仲良くなったようで体を一緒に揺らしては騒いでいる。

 それはいいことなのだけど、気が付くと俺の体を撫でていたり、お風呂の時に全身洗うとか言い出して1人で入らせてくれないので兄としては、寂しい思いをしているのかなとか考えてしまう。

 もっと家族として接してあげなければいけないのだろうか?


「テイシアについたら、美味しい物を食べようか」


 そんな思いから、そんなことを呟くとミィががばっと振り返る。


「美味しい物? お魚だー!」


『他にも色々あるんじゃないかしら……って聞いてないわねもう』


 イアが呆れるように、ミィは前を向きながらお魚お魚!と何やら自作の歌を歌っている。

 可愛いけれど、まだ何日も先だということを……忘れていそうだなあ。




ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。


リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。


あ、もうすぐ妹が増えます。

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