028.兄、不本位な同意を得る
話は進みません。
外堀が埋まった音がするだけです(?)
「……あれ?」
気が付けば朝だった。窓から差し込む日差しは明るく、少なくとも早朝、と言えるような時間ではないと思う。
体を起こし、今いる場所を見回してみる。
三人家族で暮らすには広すぎるであろう小屋。
丸太でくみ上げられ、屋根もちゃんとあり、暖炉だってある……というか、フロルでの家だ。
寝床ではなく、入ってすぐの部屋で何かの毛皮であろうものを敷かれた上に寝ていた形だ。
ふと、暖かさを感じて視線を下ろすと、肌色が2人。
(うぉ!? ってミィとイアか)
冷静に考えればそれはそれで驚くべきはずの状況だと思うのだけど、かけられていた毛布から覗く顔は馴染んだものであり、どこか安心する。
「昨日は……確か祝勝会として宴会になって……こんな場所で?
あれ、俺……裸か……服はあっちか」
小屋の隅に脱ぎ捨てられた状態の俺の服を見る限り、上どころか下も脱いでいるようだ。
道理でスースーすると思った。よくわからないが、俺は上半身が上に突き出た形でミィとイアは俺のお腹付近に抱き付いているようである。
二人の髪が妙にくすぐったい。
少しどいてもらおうと毛布をめくった時、俺は目に入ってきた光景に慌てて毛布を元に戻した。
どちらも上に何も着ていなかったのだ。そして、恐らくは下も。
(……なんで下まで? 俺……まさか!)
今日は腰のあたりがすっきりするなとは思っていたのだ。
それに、ミィもイアも髪が妙に乱れており、脇に脱げている服もかなり雑に置かれている。
痛む頭を振り絞り、昨夜のことを思い出す。フロルに戻った日、飲め飲めと、勧められて7杯ぐらいまでは覚えている。
確か……。
『ふふーん』
大きく組まれたたき火が街の中心部の広場で周囲を煌々と照らしている。
それに対して円陣を組むようにあちこちに座った面々が酒だ、肉だと好き勝手に騒いでいた。
俺もまた、ソーサバグの女王まで倒したのだから参加していけ、と誘われたのだ。
ここで俺だけ辞退するというのもどうかと思い、参加を決めた。
決めたのだが……。
先ほどからイアが酔っぱらった顔で俺にもたれかかってきては頬を指でなぞる。
とろんと明らかに泥酔気味の瞳が俺をとらえて離さない。
どうやってイアの体で酔えるのかが不思議だけど、雰囲気で、というのもあるのだろうと思う。
「イア、見えてる。ちゃんと隠すんだ」
周囲は飲めや歌えやと騒々しく、1人1人の状態や会話には気が付いていない。
だからといって、肩をはだけた状態ではよろしくない。
『いいじゃない……お兄様ぐらいしか見てないんだし。あ、他の男に見せたくないの?』
俺が服を直すのをうっとおしそうにしながらも、何かに気が付いた顔をして腕を絡めてくるイア。
「……そうだな。たぶん、そうだ」
からかいだとはわかっていても、そんなことはない、とは答えるつもりはなかった。
実際、イアが誰か他の人間、あるいは魔族などについていくことは考えたくもなかった。
いつの間にか、俺の中で彼女はそれだけ大きな存在となっていたのだから。
『あら……そう。でも、駄目よ。私達だけじゃ贅沢だわ』
胡坐をかいた俺の足の中で既に寝ているのか、うにゃうにゃとうめいているだけのミィの頭を撫でるイア。
そんな彼女のつぶやきは妙に熱を帯びているように感じた。
「イア?」
『お兄様は優しいもの。きっと私達だけじゃないわ。みーんな拾い上げてしまう。
何人いればいいかしら? 一人、二人、三人、四人……うーん、六人が限界?』
「どこを見て……何の話だよ……まったく」
イアはなぜか俺の右手、左手、右足、左足、そして口元、最後にミィの顔が近い俺の下半身に指をやってくすくすと笑った。
『お兄様も初心なんだから……女にそこまで言わせる気?』
「そういうのはもう少し大きくなってから言ってくれ」
本当のところは、大きくなるどころか今でもかなり、来ている。
酔いのせいか、いつもより熱いイアの暖かさが伝わり、吐息すら熱を感じるのだ。
そろそろどうにかしないと、と思った時にミィの頭が動く。
ん、と下を向くとぱちっと開いた目と目があった。
「ふにゃ……お兄ちゃんだー。にゅふう……なんだかお兄ちゃんのいい匂いがするー」
「こら、どこにこすりつけてるんだ。起きるか寝るかどっちかに……むう」
何が気に入ったのか、俺の足の中に顔をうずめたまま、ミィはすりすりとあちこちに顔をこすりつけている。
戦いで高ぶっている俺はかなり、危険な状態に追いやられていた。
『お兄様、お兄様のお兄様を解放してあげないと』
「そのぐらいにしておけ。さ、寝るぞ」
もう少し飲みたいとごねるイアを片手に抱え、ミィももう片方で抱えてその場を立ち去る。
途中、俺達の関係を知らない魔族や獣人から、かなり冷やかしを受けたのだが……多くは語るまい。
「そうだ。そうしてここにきて2人を寝かせてから……そこからはどうも怪しいな」
どうやら俺も酔いがそのあたりからかなり回ってきたようで、随分と記憶があいまいだ。
着替えるにも着替えは無く、かといって着たままというのが邪魔に感じたのではないだろうか。
だからといって2人まで脱がしたかと言われると何とも言えない。とりあえずは一度起きるべきだろう。
「ミィ、イア。朝だぞ」
二人を揺り起こそうと試みるが、効果は芳しくない。
2人とも呻くようにして片腕が俺の胸元に伸びてくるのが精一杯であった。
「ほら、起きないと」
「ううーん……おはよう……」
『なんだかだるいわ……』
ずりずりと毛布から這い出すように俺の胸元にのしかかってくる2人。
丁度毛布でぎりぎり隠れているが、二人の胸までが光の元にさらされている。
その輝きと成長を感じる胸元に一瞬目が奪われるが、慌てて入口の方へと顔を上げる。
と、そこにはなぜか人がいた。
「……おはよう、ヴァズ」
「うむ。声はかけたが反応がないのでな……おはよう……お邪魔だったか?」
紳士的に反対側を向き、俺のつぶやくような声にいつも通りの冷静な声でヴァズが答える。
「お邪魔も何も、二人とも妹だ」
そんなヴァズの予想外の言葉に慌てて反論するも、反応は静かな物だった。
「……魔族では近親はそう珍しい物ではない。魔力の強化のためには素質の掛け合わせが一番だからな。
それに、若いころから付き合う者も結構いるのだぞ?」
「その情報、今いるかな!?」
物を知らない子供に諭すように淡々というヴァズに俺はそう返すので必死であった。
「大事なことだ。愛のない家庭は子供が不幸せだからな。
何よりラディと2人では近親による血の問題がなさそうではないか。
何も、問題ない……祝福するぞ。式には呼んでくれ」
格好良くそれだけ言って立ち去ってしまうヴァズ。
俺は誤解を解く時期を見失ってしまう訳で……。
「ちょ、まずい。止めないと……あれで意外とヴァズは話好きなんだぞ……」
慌ててイアとミィを引きはがし、強引に服を押し付け、自らも服を着こんで小屋を飛び出した。
ヴァズを追いかけ、必死に説明するも彼は何やら頷くだけで果たして、誤解が本当にとけたかどうかは……正直わからなかった。
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R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
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