027.兄、妹のために自重を少し止める
俺とヴァズの援軍が間に合った街……あ、名前聞いてないや。
ともあれ、街は熱気に包まれている。それは歓喜というわけではなく、襲い掛かって来たソーサバグに対しての物だ。
老いも若きもという状況で多くが武器を手に周囲を行き交っている。
ヴァズ曰く、ソーサバグは魔力のある土や植物、あるいは動物を餌として女王へとそれらを集め、女王がそれらから魔力を抽出し、そして部下のソーサバグに渡していくという生き方だそうである。
ソーサバグ単独ではなぜか餌から魔力を吸収できないそうで、恐らく魔力以外の何かに変わった物を食べていると推測されている。
そうして周囲を食べつくすと女王以外が死に絶え、女王は新たな土地を探して旅を続けまたどこかに住み着き、というのを繰り返しているのだそうだ。
なんというか、迷惑しかかけないやつだな……。
「幸い、この感じであればまだ巣は若い。女王も表層にいるだろう。そこでだ、女王を引きずり出す」
「やれるのか?」
街の代表者らしい魔族と、ヴァズが険しい顔で会議を続けている。
俺は敢えて口を出さない。魔族の事情も良く知らないし、下手に口を出して混乱を招いても事だ。
今は周囲を観察して、どこまでやっていいかの範囲を見極める方が重要だ。
(鉄剣も魔法で強化するには限界があるからな……)
今のところ刃こぼれなどは無いけど、耐久性に難がある。
出来れば何か武器を手に入れておきたいところだけど……。
「自分と彼、ラディなら行けるかもしれない」
「ん、どうすればいい」
どうやら話がまとまりつつあるようなので確認のためにも声をかけることにした。
辺りにいる幾人かはこちらに懐疑的な目を。あるいは別の魔族は期待に満ちた熱い視線を送ってくる。
どちらも勇者時代に感じた視線にそっくりだ。
その時と違うのは、俺が自分の意志で動くことになるだろうこと、かな。
「街の戦える物でソーサバグを引き付ける。倒し続けるとそのうち親玉がしびれを切らすはずだ。
今回でいえば女王が自分で何とかすべく地上に出てくる。そこを、叩く」
(なるほど……一人じゃなければこういう手段を使えるのか)
俺のソーサバグの討伐の際には俺一人。しかも山ごとをドーンという物なので作戦もあったもんじゃなかった。非常にためになる話である。
「ちなみに、女王ってどれぐらいの大きさなんだ?」
「そうだな……あの建物よりは低いと思う」
ヴァズがそういって指さすのは……なるほど。
俺が大体8人分ぐらいってところか。思ったより大きいような、そうでないような。
ただ、どちらにしても届く高さだ。
「了解した。1つ問題がある。俺、鉄剣1本しかないんだ。何か使い捨てていい武器があれば頂ければ」
「それならこれを使え。ソーサバグの酸にも強い」
指を1本立てて、俺がそういうとすぐさま横合いから声がかかり、見知らぬ獣人が俺に長剣を1本差し出してきた。
武骨ながら、良い造りの一振りだ。素材は……んん?
黒く、ぬめっとした感じの表面は見覚えがあるようなないような。
「気が付いたか。これはソーサバグの甲殻を鍛えた奴だ。
この戦いが終われば材料は大量に手に入るからな、気にせず使い潰してくれ」
軽く頭を下げて礼を言い、空いてる方で抜き放って……構える。
何回かゆっくりと刃を動かして癖を見るが、変な癖は全くない。
(うん、良い剣だ)
鞘に納めて振り返ると、ヴァズは何やら納得した顔で、懐疑的な視線を向けて来ていた何人かはこわばった表情になっていた。
あれ、俺何かしたかな?
「ふふっ、彼らも戦士だからな。気が付いたのさ、たった2人だがただの2人というだけじゃないということをな」
笑いながら俺の肩を叩くヴァズ。何がおかしいのか、普段見ないような笑顔だ。
「そうか……。もう行くのか?」
俺は近くの魔族や獣人が先ほどと違い、外に向きを変えていることに気が付いて自分も構えなおしながら聞いてみた。
「いや、ソーサバグは昼には巣にこもる。何より今はまだ女王も警戒しているだろう。
明日の襲撃の時が本番だ。フロルからの援軍もなんとか間に合うかもしれん」
夜の闇の中にあの黒い体を活かして溶け込み、獲物を狙うというわけだ……厄介だな。
逆にそうして出てきたところを不意打ちしていくわけだ。
その日は緊張感の中、次の日のために休息となった。
翌日、明るいうちは騒動が無く、夕暮れとなるほど街は戦意に満ちていった。
あちこちで炊事の煙や、夜に備えての松明の準備などに余念がない。
「出来れば夜明け前に片を付けたいからな……」
隣に立つヴァズへ頷き、駄目になるまではと思いながら鉄剣の方の柄に手をやる。
一般のソーサバグならまだまだこれで問題ないはずだ。
そして、日が暮れる。
俺達が見守る中、雄叫びを上げ、ソーサバグの巣があるであろう方向へと街から戦士たちが出ていく。
俺とヴァズはそれから少し離れた形で同じように進む。
すぐさま森の中で戦闘音が響き渡り、空に松明や魔法による灯りが煌々と生まれる。
彼らとソーサバグの戦いが始まったことを教えてくれた。
飛び込みたい衝動を我慢し、早く終わらせてミィ達の元に帰ることを考えた。
きっと、フロルはフロルで何かしらの騒動に巻き込まれていると思う。
森にいるはずの魔物や獣がまったくいないからな……。
ソーサバグが開けたであろう地面の穴を見ながら、そんなことを考える。
ほとんどの相手は前の方に集中しているようだけど、たまにこちらにもはぐれの様な奴がやってきてしまうが、俺かヴァズによってすぐさま物言わぬ躯と化していく。
「ラディ、それだけの力があって何故怪我を負った?」
「油断、さ。それにミィ達を巻き込みたくなかった」
嘘も言っていないし、真実も言っていない。
そんな俺の言葉にヴァズはしばらく考えるようにこちらを見ていたが、視線を先にそらしたのは彼の方だった。
「そうか、そうだな。世の中は理不尽なことが多い物だ……何とかしたいとは思うのだが」
「ヴァズは時々、偉い人のようなことを言うんだな。しょうがないさ、王様も、一般人も、みんな同じだからな……ぶつかり合いもするさ……」
歩きは止めないままの会話が沈黙に変化する。
さて、次の話題は、と考えたところでいつだった感じたことのある気配を感じた。
これは……でかい!
無言でうなずきあい、一気に加速して駆け出す。
向かう先の騒がしさは先ほどの比ではない。昨日と同じ月明かりの元、すぐに森の向こう側に巨体が見えてくる。
ソーサバグの女王、その異形が。重そうな腹をこするようにして、巨体が地上を闊歩する。
そのあごはどんなものでもかみ砕けそうなほどに、大きい。
内側も鋭く、どれだけの威力を誇ることか。女王に対して、周囲から矢が射かけられ、魔法が飛び交う。
それはソーサバグを焼き、砕き、吹き飛ばすが女王にはあまり効いてるようには見えない。
「やはり、魔力が強い個体には普通の魔法では効き目が薄いか……」
「だからといってやらないわけには! ヴァズ、合わせろ!」
かつて、魔王に魔法を使えるのは勇者だけ、という話があった。
これは魔王の持つ魔力が強力すぎるが故、基本的な魔法に対する耐性が高かったからこそ生まれた話だ。
ソーサバグの女王もまた、その名にふさわしいだけの力量を持っているようだった。
ただ、今回は直接あてるつもりはない。俺が唱え始めた魔法を聞き、ヴァズもまた同じ魔法を唱える。
光の下位神、ハリルによる光源魔法、ただし極大。
「「悩む旅人の確かな希望よ! シャイニーポール!」」
巨大なソーサバグの女王。
そのさらに上からまばゆいほどの光が降り注いだ。
周囲の魔族や獣人にとってはまぶしいだけの光。だが、それはまるで鈍器のように彼女を襲い、姿勢を崩させる。
「私は頭を!」
「了解!」
叫び、俺は腹と胴体部の元へと駆け寄り、獣人から受け取った甲殻剣を抜き放つ。
相手の大きな脚の節を足場として駆け上がり、目的の場所である細い腰に迫る。
属性の無い魔力で純粋に強化されたそれはあっさりと細い胴体を切り裂き、上ではまた、ヴァズの槍が大きな女王の頭頂部を貫いていた。
言いようもない悲鳴を上げ、女王が崩れ落ちる。
互いに時が止まったような時間が数瞬、過ぎ去る。
そして、後に残るのは混乱してあちこちを歩き回るソーサバグと、それを個別に掃討する戦士たちであった。
いつの間にか、フロルからの援軍らしい面々も合流しており、動くソーサバグがいなくなったのはそれからしばらくしてからの事だった。
ブクマ、感想やポイントはいつでも歓迎です。
リクエスト的にこんなシチュ良いよね!とかは
R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします。




