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025.兄、援軍に向かう

早くイチャイチャさせたい……。



 

「隊長、あれがそう?」


「間違いないな。お手柄だ」


 子供たちの誰かが幸運の持ち主なのか。

 夜となって慎重に周囲を探索していると、思ったよりもあっさりと狙いの花がいくつも見つかった。

 小川のそばでひっそりとたたずむ花は一枚の絵画のようですらある。

 その花1つ1つが高級品に変わっていくというのだから世の中わからない。


(これなら十分儲けになるな……)


 子供たちが採取する間も俺とヴァズ、そしてロランが周囲を警戒する。

 今のところこちらを伺う獣ぐらいしか大きな気配はないが……。


(ん? 気のせいか?)


 ふと、北の方に弱弱しい気配を感じた気がした。


「ヴァズ、あっちに何かいないか?」


「ふむ?……ん、確かに」


 腰から鉄剣を抜き放ち、いつでも振るえるようにして2人で気配の確認に行く。

 今日は月明かりがいつもより明るい気がする。その分、森の木々らの影がはっきりとしており、妙な存在感を感じさせる。


「誰だ?」


 魔物か、あるいは……。

 期待と不安をないまぜにした問いかけに、気配の主が足を止めた。

 少なくとも不死者というわけではないようだ。


「た、助け……」


「!? 大丈夫か!」


 よろめくように月明かりの元に出てきたのはまだ少年と言える男の子だった。

 ぼろぼろの革鎧に、怪我だらけの手足。手にしていた長剣は半ばで折れており、明らかに普通ではない。

 倒れ伏した少年を抱き起し、ひとまず癒しの魔法を唱え始める。その間、ヴァズが少年の身なりや装備を確認している。

 まだ使い込まれてるとは言い難い、まるで冒険団のような若さを感じる姿だ。


「う……」


「おい、話せるか?」


 俺はヴァズに警戒を頼みながら、少年に話しかける。

 いつしか騒動に気が付いたのか、ミィやイア、冒険団の皆もこちらに合流して来た。

 離れ離れに待機してるよりこのほうがいいしな……ちょうどいい。

 何人かは少年が血まみれなことに衝撃を受けて顔を月明かりの下でもわかるほどに青白くしているようだがこれもいい訓練だと思うほかない。


「あなたは……ああ、僕は助かったんですね」


 混乱からか、ヴァズの方を向いてうわごとのようにつぶやく少年。

 俺は気付け代わりに頬を軽く叩いて視線を合わせた。


「落ち着いて。何があった。どうしてここを歩いていたんだ?」


「えっと……ああ、そうだ。奴らが来たんです」


 よく見れば少年が自分を抱きかかえるようにする腕は震えている。

 よほどのことがあったに違いない。そして、状況的には……恐らく。


「……お騒がせしました。えっと、僕は北の街に住む見習いの兵士です。

 いつものようにみんなと森に哨戒に出ていたら……ソーサバグが現れたんです」


(やはり、か。くそっ)


 俺があの時、すぐに手を出していれば被害は防げたのだろうか?

 いや、俺が見た時にはすでにある程度外に出ていたに違いない。そんな後悔や疑念を抱きながら、少年の話の先を促す。


「街の皆はソーサバグの迎撃に出ました。僕は……援軍を求めるように、と」


 見れば少年の背負った背嚢にはそういった書物を収めるであろう書簡。

 中身は見ずとも、大体思う様な内容であろう。


「ヴァズ、戦ったことは?」


「魔族だけではなく、皆の敵だからな……何度か。群れの中でと言われなければかなり行けるだろうと思う」


 何と、と言わずともヴァズは俺の聞きたいことを察してくれ、的確に答えを返してくれる。


(そうか……なら)


「ロラン、悪いけど……」


「うむ。子供たちと一緒に戻ってこちらもいざという時に備えつつ援軍を手配しよう」


 こちらもまた、自分に出来ることをしっかりわかっている大人の答えが返ってくる。

 つまり、俺とヴァズが先行して援軍に向かい、皆は戻ってもらうという作戦だ。

 まあ、フロルから目的の町まで急いでも1日はかかるだろうから作戦というには寂しい話だが。


「お兄ちゃん、気を付けてね」


『遠慮せずにぶっ放してらっしゃい!』


 本当はミィとイア、3人して安全な場所に逃げようという気持ちもないわけじゃない。

 でも、2人にこうして送り出されるからにはしっかりやらねば。

 心配そうにこちらを見る冒険団の面々に俺とヴァズはぐっと指を突き出し、大丈夫だということを強調する。


「みんなも早く戻って、準備してくれ」


「「「はい!!」」」


 重なる声に、彼らなら大丈夫だと実感できた俺は息を整えている北の少年に向き直る。


「悪いけど、案内してくれ」


「は、はい! あ……アベル、です」


 アベルと名乗った少年の背には小さいけれど翼。やや細身で見習いとはいえ、兵士となっているという言葉に嘘はないようで、それなりに鍛えられた体だと気が付く。


「ではアベル。私とラディの2人だけだがまずは先行しようと思う」


 ヴァズの言葉にアベル少年は頷き、書簡をロランに預けて先頭を走りだす。

 みんなに手を振り、俺とヴァズも駆け出した。

 夜の森とはいえ、やはり道はあるようでアベルは迷うことなく走り続ける。

 ただ……やはり子供だ。


「舌をかむなよ」


「へ? うわわっ」


 ヴァズに頷いてすぐに俺は加速し、アベルを腰から抱えるようにして道を走り出した。

 ヴァズには俺が羽根で飛ぶことを失った分、足を良く鍛えたといってあるのだ。

 まだ全然本気ではないとはいえ、結構な速度だがヴァズもついてきている。


「このまままっすぐでいいのか?」


「は、はい! ソーサバグを撒くために迂回してきましたけど戻るならこのままで」


 月明かりの中、森の間を風が通るように走り抜ける。

 アベルの言葉に従い黙々と走っていくと、段々と道が獣道程度の物から整備された物に変わっていくのがわかる。


「もうすぐです。ああっ!」


「まだ戦ってる。手遅れじゃない!」


 悲嘆の叫びをあげるアベル少年を励ますように叫び返し、俺は道を埋めるようにうごめく影に向かって速度を上げる。

 ついでに空いた手で鉄剣を抜き放っておく。ちらりと見ればヴァズもまた、得物の槍を手に、突撃姿勢だ。


「まずは一当て!」


「参る!」


 混乱の最中に、俺とヴァズ、2つの突風がつっこんでいく。

 まずは3匹ほど、走る勢いのまま切り倒し、アベル少年を背後に下ろした。

 ヴァズもまた、何匹かを突き通し、俺の横に立つ。街の門から50歩もない場所に戦場はあった。


 門には家具だとかで作ったと思わしき防壁。

 松明や魔法の灯りが打ち出されており、まるで昼間の様だ。

 戦いを続ける面々に動揺の気配が伝わるのがわかる。

 それはそうだろうな……俺がその立場でもびっくりすると思うし。


「フロルから援軍に来た!」


 短く叫び、近くのソーサバグを頭ごと切り倒す。

 ただの鉄剣と侮るなかれ、既にこっそりとだが魔法で強化してあるのだ。

 魔法も中位までなら使う魔族を見たことがあるから使ってもきっと大丈夫だ。


「月無き夜に吠えろ! 闇夜へのいざない……スタッブメント!」


 闇色の塊。そう表現するしかない神様を思い出しながら地面に手をたたきつける。

 影が伸びるように幾本もの槍となり、周囲のソーサバグへと襲い掛かる。

 周囲の影を渡り歩き、敵対する相手を突き刺す槍が飛び出る一定の間効果のある魔法だ。

 下位神の魔法ながら、意外と威力は高い。


 ただ……一度発動したらそこから全く移動しない罠のようにしか使えないのが難点だ。

 魔法が効果を発揮している間にも俺とヴァズ、そして正気に戻ったアベル少年は街の人々に協力してソーサバグの討伐に挑む。

 長いような短いようなわからない時間の後、ひとまず俺達はソーサバグの何陣目かわからない襲撃を乗り越えることができたのだった。




感想やポイントはいつでも歓迎です。

入ると踊って喜びます。


こんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



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