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024.兄、占いをする

 

 占い、という物がある。


 幸いにもというべきか、残念ながらというべきか、勇者時代の俺はお世話になることがなかった。

 大体は悩む前に突撃していたし、難しいことを考える役割にいなかったためだ。

 それはそれとして、人間や魔族に限らず、占いの結果は時に大きな影響力を持つ。


 なぜか、というと……本物はものすごく当たるからだ。

 適当な気休めの物ならいいのだが、とある神様に祈りを捧げて魔法として行う占いは本物だ。


 その神様の名は観測する者、オブシリン。

 俺も出会ったことはないし、この神様だけは俺の祈りが届かない。

 恐らくは自主的に封印したままの聖剣のせいだと思う。ともあれ、この神様は見ることしかしないそうだ。

 世界の行く末を決めるような大決戦や陰謀の最中や、子供がたわむれにありの巣穴を潰すところまで。

 全部を、見て、まとめ上げ、時に未来を想像する。


 そう、この神様は空想する者、とも呼ばれる。そこに特別な才能を持った人が祈りによって干渉すると器に満たされた水が揺れるとこぼれるように情報がこぼれてくるらしい。

 それが占いとなって表に出てくるのだ。時には隣のおじさんがいつ結婚しそうか、なんて話だったりもするけど、その中には本人にとって重大な情報となる物が含まれる場合もある。


 まあ、まともに自分に必要な情報が降りてくるのは年に何度もないらしいけども。

 ちなみにミィを魔王の転生体と告げたという神様は恐らく違う神様だ。

 どうせアルフィア王国で国教となっている光の神、ラエラの言葉を都合よく解釈したか、明確に言葉として受け取れない奴の仕業だ。

 単純にミィの力を告げただけに過ぎないと思っている。


 なぜかって? そりゃ、魔王だってラエラから借りた光の魔法を使うことができるからだ。

 それなのに魔王の転生体を討伐せよ、なんていうはずがない。ともあれ、偶然にも街にオブシリンへと祈れる魔族の老婆がいる。

 自称200歳のご長寿様であるが、言動はしっかりしている。

 仕事の相談を、という名目でうまくソーサバグの事に当たればと思ったのだ。

 何もなしで人を集めるのはまず無理だろうからな……。


「ふんふん……なるほどね。面白いねアンタ」


「俺が? それは一体……」


 座っていた椅子からゆっくりと立ち上がり、老婆は俺と向かい合うなりそう言ってきた。

 腰は随分と曲がっているが杖を突かず、元気そうである。

 明かりが照らす顔は薄暗さゆえに不気味なほどの陰影を生み出しているが……。

 俺の問いかけに老婆は笑い、その皺だらけの指で俺の胸のあたりをついた。


「アンタが面白くなきゃ世の中のほとんどは面白くなくなるよ。ふぇっふぇ……ねえ、人間の勇者……」


 心臓を鷲掴みにされたような、とはこのことか。

 俺は頭が真っ白になり、反論しようとすることもできない。

 じわりと、冷や汗が流れるのがわかる。この老婆は街の皆の心の拠り所だ。

 いざとなればどちらの言葉をみんなが信用するか? 考えるまでもない。

 彼女が……宣言すれば俺はもう、終わり。


(せめて……せめて2人は……)


「これ、早まるんでないよ」


「え?」


 老婆はこつんと俺の鼻をその皺だらけの指でつつき、しわくちゃの顔を笑顔にした。


「こんな老婆が何の理由も無しに新天地に引っ越すと思うのかい?

 旅に疲れてそのまま天に召されてお仕舞かもしれないのにね」


 確かに、言われてみればその通りだ。中央ならいざ知らず、フロルは新しくできた街なのだ。

 老婆が前にどこに住んでいたかは知らないが、結構な行程の旅になったはずである。

 それは魔族とはいえ、老人には楽な物ではない。


「じゃあどうして……」


「私は見たのさ。東より舞い降りる光が魔族を救うのをね」


 老婆は普段占いをするであろう席に座り直し、そういって笑う。

 見た、つまりは彼女の魔法が成功したのだ。


「アンタはその光だ。第一、害を及ぼすようならあんなことしないだろうさ。

 それとも、獲物を育ててから収穫する趣味でもあるかい?」


「そんなわけない。でも、黙っている理由がわからないんだが……」


 結局は俺は人間なのだ。魔族の、敵だ。

 だが老婆は俺の言葉を笑い飛ばして、こちらを見る。


「ただの確認さ、確認。どんなお人よしかってね」


 全てを見抜くような老婆の瞳にうすら寒くなる。

 単純に俺を見ているだけなのに、迷いやらなんやらも見られているような。


「俺はそんなんじゃない。妹が平和に暮らせたらいいなって思ってるだけだ」


 だから、そういうのが精一杯だった。紛れもない、俺の本音。


「隠居しない生き方ってのは多少は騒動の中にいるもんさ。そんなことより、聞きたいことがあるんだろう?」


 それが気に入ったのか、あるいはまったく別の理由なのか。

 老婆は話題を切り替えた。俺の聞きたい話でもある。

 もう勇者とばれているならごまかす必要はなく、正直に北の湖でソーサバグを見たことを伝え、そのうち南下してくるのではないかという不安をぶつけた。


「なるほどね……そいつは厄介だ。どれ、一発使ってみるかい」


 老婆は何事かを唱え始める。まともに聞いたことはなかったが、これがオブシリンへの祈りの言葉だとすぐに分かった。

 しばらくして、魔力と引き換えに満足そうな表情の老婆がそこにはいた。


「良かったね、見えたよ。アンタさえ良ければやりようはあるようだね」


「俺が? どういうことだ」


 老婆が語ってくれた内容はこうだ。

 大きな光と小さな光があり、意外と小さな光が強い。

 それは俺と日々を過ごしている冒険団の子達だという。そんな光が道を照らすという話だ。


「あいつらを前線にだせってのか!?」


 強くなりそうになる声を抑えながら、老婆を問い詰めると彼女は首を振った。


「慌てんじゃないよ。この場合は直接どうこうって話じゃない。ただまあ、動きのきっかけにはなるようだね」


 私にもこれ以上は見えないよ、とつぶやいて老婆は椅子に座り直す。

 確かに、所詮神様の考えていることをかろうじて読み取っているような物だ。

 誤差はあるし、正しいとも限らない。


 つまりは今回の話は、冒険団の皆が何か動くことで大きな流れが変わるんじゃないかという話だ。

 となると、だ。








「出発だ!」


「「「おー!」」」


 俺の合図に子供たちの元気な声が続く。向かう先は俺が一人で行った湖、ではなくそこから流れる川。

 フロルから1日行ったぐらいの場所にもその川は流れており、運が良ければ例の花は見つかるのだ。

 あれは常時ある仕事で、数があればあるだけいい。第一、俺のそれも川で採れたということにしてある。

 儲けとしては割の良い仕事なので、子供達で頭割りしても十分儲けになる。


 この距離なら、万一ソーサバグが南下していたとしても本体と遭遇する前に戻れるはずだ。

 それに、俺も油断するつもりはない。いざとなったら……。

 そんな考えは、視界が開けてきたことで目に川が飛び込んできたことで途切れる。


「よし、夜営の準備をしてから夜に備えて寝るんだ」


「「「はーい!」」」


 ここなら、夜でもしっかり見張りさえしてれば厄介な魔物は出てこない。

 仮に迷い込んでいたとしても俺やヴァズでも対処可能だ。

 一緒についてきたイアとミィでも行ける……はずだ。


 本当は子供たちをこうして連れ出さない方法を考えていたのだが、本番にいきなりぶつかるほうが危ないってもんさ。予習だよ予習、と老婆がいったことに一理あるなと思ったのだ。

 いつかソーサバグぐらいの厄介な相手に出会った時、経験が皆無の状態で遭遇してしまうと何もできないからな……。皆はちゃんと守らないと。そう考えて昼が夜に出番を譲るまで待つことにする。




感想やポイントはいつでも歓迎です。

入ると踊って喜びます。


こんなシチュ良いよね!とかは

R18じゃないようになっていれば……何とか考えます。



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