022.妹、嫉妬団をほんのり結成す
「隊長、準備できました!」
「よし、最後にしつこいようだが荷物の確認をしよう」
朝靄の漂う時間。早起きして準備を終えた少年少女6名が俺達の前に立っている。
背丈もバラバラだけど、目的は一緒だ。受けた仕事をこなすべく、街の外に出るのだ。
武具は元より、必要になるかもしれない道具もちゃんと持つように決めているので確認には相応の時間がかかる。
こうして何かするときには事前の準備が重要だというのを学んでもらうのだ。
1つ1つ丁寧に確認させるようにしている理由は、普段そうしておかないと急ぐ時に必要な行動がとりにくいからだ。
元気のいい声と共に、彼らは仕事のために街の外に出ていく。
そんな彼らを見送る俺と、ヴァズ、そして片腕の無い獣人の男。狼種の獣人で、名前をロランと言う。
銀色とも灰色とも見える毛並みで、血が濃いのか手足や背中はほとんど毛皮のように覆われている。
獣魔少年少女冒険団の話を聞き、自分の腕が役に立つのならぜひ、とやってきたのだ。
新たな指導者を迎え、冒険団の活動の場所は徐々に広がっている。
合間に稼いだ金を使い、統一の意匠の服も作ってみた。
皆成長していくので、服と言っても肩の無い上着のような物だけど……。
「あの上着は良い案だったな、ラディ」
「そうだな……あそこまで喜ぶとは」
ヴァズの言葉に頷き、渡した時の皆の反応を思い返す。
大したことの無いように思えたそれが子供達にはひどく魅力的に見えたらしく、すごい喜びようだった。
「あのぐらいの歳だとそのような物だろう。認められた、という感情が強い」
「なるほどな……」
普段寡黙なロランが言うように、子供たちは自分たちが役割を得ることが出来た、という気持ちを持ってくれたのだろう。
出発した彼らは、昼前には無事に依頼を終え帰ってくることができ、それぞれに報酬を手にして意気揚々と帰宅していった。
1人1人で考えると大した報酬ではないはずだが、子供たちが何らかの糧を持ち帰るというのは立派な家庭への貢献となる。
それはきっと家族の間でいい刺激となることだろう。
「お兄ちゃん、良かったね」
「ああ……」
解散を宣言し、家に戻っていく彼らを見送る俺にミィがそっと寄り添う。
俺はほとんどの場合戦いは……一人、孤独だった。
手加減もどちらかというと自分がまきこまれないようにであったり、余り地形を変えると後で怒られたりしたからで、一緒に戦う誰かを巻き込まないように、なんていうことを考えたのはミィと出会い、そして一緒に暮らしてからだ。
その点からいうと、ヴァズやロランがいないともっと苦労していたんじゃないかなと思う。
ミィは多くを語らずともそういったところを察しているのか、静かに寄り添ってくれている。
「明日もみんなと一緒なの?」
「そうだな。まだ訓練もしないと……何かあったか?」
こちらを伺う様なミィの言葉に問い返すも、ミィは首を振って、聞いてみただけという。
ミィが良いならいいのだけど……。
結局、少し気になりながらも俺達も帰ることにする。
そして初夏の香りが届くころ、俺達……いや、獣魔少年少女冒険団はそこそこに名前が売れ始めた。
個人個人の力は当然まだまだ子供の段階で、大人には及ばないのは間違いない。
彼らが有利に立てそうな部分は、手数、そして子供故の素直さである。
基本的に2人以上、最大で6人で組むように決めているのでどんな仕事でも1人ということは無い。
そして、世の中には屈強な戦士が果敢に一人で討伐に向かう、なんて仕事ばかりではないのだ。
大人がわざわざ仕事としてやるには向かないような雑用から物運び、あるいは探し物、そして討伐まで様々だ。
発展中の街であるフロルにはその類の仕事には事欠かさない。
まだまだ強敵には挑めないが、大人がやるには軽すぎる仕事は意外とあるのである。
俺はヴァズらと話し合い、そう言った仕事に積極的に挑ませた。
戦闘の経験と言ったものはあまり積めないかもしれないが、仕事をし、報酬を受け取るという循環は確実に彼らの自信と成長につながると思ったからだ。
結果として、冒険団向けの仕事は別の場所に貼り出されることが増えるぐらいには、フロルの街に彼らは確実に認知され始めていた。
軍とも違う、共同体のような集まりは徐々に膨らみ始める。
「「先生先生! 見て!」」
冒険団が訓練に使っている広間。
その一角にある的の前で、俺は2人の魔族の少女から声をかけられていた。
女の子の姉妹で、肉弾戦は不得意だけど魔法に高い才能を発揮している2人だ。一歳違いということでまるで双子のようでもある。
それぞれの両手に下位神の力を借りた風魔法が集まるのがわかる。
そしてそれは掛け声とともに、互いの手からそれぞれ別の角度を持って的に襲い掛かる。
これは回避するのはなかなか難しい。お互いのタイミングを合わせ、上手く撃たなければいけない。姉妹ならではという技だろう。
「すごいじゃないか。これなら足止めや攻撃にも十分使えるな」
「「ほんと? やったー!」」
自分より年下の子の中にも既に討伐に出ている子がいるのが気になっていたようで、合格をもらったことに合わせ鏡のように喜んでいる。
(まるでミィとイアみたいだな……)
2人を探すべく視線を向けると、そこにはミィとイアではなく、ヴァズと男の子3人が木剣を持って対峙していた。
獣人の子が1人に魔族の子が2人。街ではなかなかない組み合わせだ。
当然、1人では敵わないことを良く知っている彼らは互いに協力している。
肉体的に強い獣人の子を主軸に、魔族の子は補助に徹しての戦いの様だ。
拙いながらも連携を磨いている彼らの動きはなかなか侮れない物で、それがヴァズの反撃を遅らせ、長い打ち合いとなっている。
感心しながらそれを見ていると、袖が引っ張られる。ふと下を見ると、ふわもこのが2人。
「「たいちょー」」
そう声をかけてくるのは冒険団でも最年少の獣人2人だ。
なんとまだ6歳で男女の双子だ。親……片親である母親は最初反対していたが、家事の手伝いぐらいはできるようになりたいと子供がわがまま、もとい押し通して魔法の練習に来ている。
小さくてもこのぐらいになれば水を出すとか火を起こすぐらいは覚えられる。
危ないので今のところ水魔法だけにしてあるけども……。
基本的に午前と午後、希望者は両方預かっているので母親はその間に働きに出ているようだ。
「みてみてー、えい!」「……えい!」
広間の脇に植えた花による花壇に向け、2人がごにょごにょと詠唱をし、元気よく手のひらを突き出すと、小さいながらも魔法の反応がある。
器から水をこぼした程度ではあるが、2人の手のひらから次々と水が産まれ、花に注がれていく。
「成功だな」
「でも、あまりだせないの……むずかしいの……」「の……」
すぐに出なくなってしまった水にしょんぼりとしながらも俺が頭を撫でたことがうれしいのか2人とも照れくさそうに体を動かしている。
(やっぱり子供は感覚で上手く使うな)
この集まりを指導し始めてから、何度となく抱いた感情を確かめる。
後はこれを正しく導かないと……な。
仕事に外に出ている子たちに付き添っているロランも一緒に、話し合ったことがある。
それは、戦争に使われるのは回避したいということ。
よほどの事態にならなければそんなことは無いと思うが、可能性だけは考えておいて損は無いと思ったのだ。
そんなことを考えながら、その後もわいわいとみんなに相手をし、午後の訓練も終わり、帰って来た子達を見送って1日が終わる。
その夜の事。
「ぐぬぬぬ……」
「どうしたね、ミィ」
お風呂上り、ミィが俺の汚れた服を見ながら何やらスンスンと匂いを嗅いでいる。汗臭いと思うんだけどな……
「今日も違う女の子の匂い! お兄ちゃんがミィ達だけのお兄ちゃんじゃなくなってるの!」
『浮気? 浮気ね!』
どこでそんな言葉を覚えたのか、問い詰めるようなミィの言葉にドキリとする。
後、イアは煽るのはそのぐらいで……と言うか浮気ってなんだ。
「そりゃあ一緒に訓練してる子のだよ……なんだ、ミィ焼きもちか?」
本当は自分だってミィ達と接する時間が減って寂しいんだ。
この気持ち、どう伝えようか?
まずは言葉の代わりにぎゅっと抱きしめる。ふわりと漂うミィの匂い。
それはミィにとっても同じなのだろうか、俺の腕の中でこわばっていた体が脱力する。
「そうかも……ミィ、甘えん坊さんかな?」
「そんなことないさ。俺だって寂しいぞ?」
近くにいたイアも片腕で巻き込んで3人で固まる。
『もう、お兄様ったら。そんなならもっと休みを作ればいいのよ』
嫌そうにしていないイアの提案には首を横に振る。そうしたいのは山々だけど、な。
「街の中で遊ぶ場所が無いから自然と広間か、安全なすぐそこで遊ぶと……大体冒険に行きたくなっちゃうよねー」
ミィが呟くように、子供たちはすぐに遊びに行くわけだが前までは危ないからダメと止められていた時も多かったらしい。
でも、自衛の手段を身に着けてからは前よりは遊びに出て行っても親は安心らしく、時折お礼も言われる。
子供たちが持ち帰る狩りの成果も影響を与えているとは思うけど、正直に言わないのが良いよな。
それにしても、ミィはぐぐっと強くなった。
それが獣人の大人への成長と重なったのか、活力にあふれている。
ただまあ……体つきや言動はまだまだ子供なのだけど。
「だからって着替えぐらいは隣でやりなさい。裸は駄目!」
温かくなってきたからか、最近ミィは火照りが収まるまで寝間着を着ないことが増えてきた。
それはまあ、気持ちはわかるのだけど、そのままで抱き付てくるのは問題だ。
「え? お兄ちゃんなら……いいよ?」
なにがだっと声にならない叫びの代わりに頭を抱え、片手でそよ風程度の風魔法を生み出してミィに吹きかける。
イアはそんな俺を悟ったような目で見てくるがイアも止めてほしいところだ。ミィの将来がお兄ちゃんは心配である。
「ん? ミィ、何か言ったか?」
「ううん。なんでもないよー」
そんな気持ちでいたからか、ミィのつぶやきがしっかり聞こえなかった。
気のせいだと思いたいと思ったからかもしれないな……
お兄ちゃんは妹の物だもの、なんて呟いていたような気がしてしまうなんて、な。
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